今やM5と並ぶ高性能サルーンとして高い人気を誇るアルピナB5だが、初めて登場したのは2005年のこと。4代目M5がV10エンジンを搭載していたのに対し、B5は4.4L V8スーパーチャージャーを搭載。アルピナはBMW Mとは異なるアプローチで「最高」を追求していたのだった。(以下の試乗記は、Motor Magazine 2005年2月号より)

どうしても気になったBMW M5との違い

アルピナの創始者であるブルクハルト・ボーフェンジーペン氏は、自分のクルマをよくご馳走にたとえて説明してくれた。「キムラさん、世の中には空腹を満たしさえすればよい食事と、美味しさを楽しむ食事があります。私の作っているクルマのレセプトはもちろん後者なのです」と。最近はお目にかかっていないが、彼の言葉はすっかりボクの脳裏に焼きついている。

そこで今度のB5だが、ボクはどうしても9月に試乗したBMW M5との違いが気になって仕方がなかった。両モデルともに500ps以上の出力と300km/h以上のマックススピードを持った5シリーズベースのスーパーサルーンである。「今度はどんな料理を楽しませてくれるのだろうか?」ボクは期待を膨らませて、アウトバーンを南下して行ったのである。

いまやアルビナの顔となったギュンター・シュスター氏が、自らステアリングを握ってボクの前に運んでくれたB5は実はまだプロトタイプで、パワートレーンと外装は量産レベルだが、インテリアはスウィッチ卜ロニックのボタンがあるステアリングホイールを除いてスタンダード5シリーズのままであった。

まずは、社屋の前で撮影をしながら、味覚の前に視覚を楽しむことにする。アルピナデザイナーの盛り付けは飽くまで控えめで、「ALPINA」ロゴの入ったフロントのリップスポイラー、そしてリアのトランクリッドに設けられた整流エッジが、5シリーズのスタンダードボディとのわずかな違いであった。

しかし、このB5を強烈に印象付けるのは19インチアルミホイールである。そしてフロントの245/40ZR19、そしてリアの275/35ZR19サイズというウルトラワイドなタイヤによる、路面にへばりついているような視覚的な安定感は、アルピナ独特の魅力となっている。

アルピナがこのB5用に採用したエンジンのベースは、BMW545iなどに搭載されている4.4L V8で、ここにASA社との共同開発によるラジアルコンプレッサー付きのスーパーチャージャーを組み合わせている。

この高性能過給器で加圧されたインテークエアの温度は、充填効率を上げるためにインタークーラーによって70℃まで下げられ、0.8バールでシリンダーに送り込まれる。この結果、最高出力は510ps/5500rpm、最大トルクは700Nm/4250rpmと、M5と比べると驚くほど低い回転数で、そのパワーを得ている。

また、このハイパフォーマンスエンジンに組み合わされるトランスミッションは、ZF製の6速オートマチック(6HP26)で、当然、積極的なシフトが可能なアルピナのスウィッチトロニックが装備されている。

ここまでのスペックでおわかりのように、このパワープラントはB7に搭載されているエンジンと基本的には同じものである。

画像: ALPINAのロゴとストライプがさりげなく存在感を主張する。このスタイリングの上質感が走りにも反映されている。それがアルピナというクルマなのだ。

ALPINAのロゴとストライプがさりげなく存在感を主張する。このスタイリングの上質感が走りにも反映されている。それがアルピナというクルマなのだ。

超高性能でありながら鷹地走行も非常に快適

スタートしてすぐに感じるのは、低回転域から押しあがってくるような豊かなトルクである。スロットルペダルの足にちょっと力を入れるだけで、B5は空間を直接移動するような抵抗感のない加速を開始する。しかも、そのパワーは高速域でも少しも衰えず、スピードメーターはとっくに200km/hを超えているのに、まるで空気の壁など存在しないような感覚でアウトバーンを突進してゆく。

さらに遅いクルマによって前方を遮られ、速度が130km/hくらいに落ち、同時に回転がドロップしても、Dレンジを維持したままで通常の交通を楽にリードする回復力を見せる。もちろん素早いキックダウン、あるいはスウィッチトロニックによるシフトダウンで、再加速の体勢に入れば、ダンゴ状態のクルマの群れはあっという間にバックミラーの中で点になってしまう。

この加速力は、アルピナがカタログに載せている0→100km/h加速4.7秒という数字が控えめではないかと思わせるほどのものである。ちなみに最高速度は300km/hとなっているが、これはアルピナによる自主規制で、実力はもっと上にありそうだ。というのはドイツの専門誌による最高速度テストで、同じエンジを搭載した7シリーズポディを持つB7が軽く311km/hに達したことからも容易に想像がつく。

こうした並外れた高性能は、B5の空車重量(EU方式)が1720kgと、M5(1830kg)に比べて110kgも軽く、その結果パワーウエイトレシオは3・37kg/psと、M5より7%も優れていることからも説明される。

また、このB5が優れているのは、このように高性能でありながらも、市街地走行など低速での使いやすさを決して犠牲にしていないことである。ドイツの街中によくある30km/h制限区間でも、Dレンジに入れたままで、しかもエンジン回転数は2000rpm以下でも、B5はまった<問題なく、非常にスムーズに走ってくれる。

しかも19インチタイヤを履いているにもかかわらず、煉瓦敷きの道に入り込んでも、高級サルーンらしい完壁な快適さを維持する。低速でも、そして速度を上げれば、それ以上に快適さは増してゆくのである。

画像: 4.4L V8スーパーチャージャーの最高出力は日本仕様ではM5を上回る510ps(欧州仕様は500ps)。しかもスロットルを床まで踏み込んで回転を上げる必要がない。

4.4L V8スーパーチャージャーの最高出力は日本仕様ではM5を上回る510ps(欧州仕様は500ps)。しかもスロットルを床まで踏み込んで回転を上げる必要がない。

既存の素材を使って完璧に仕上げられた料理

さらに忘れてはならないのは、B5のハンドリングである。この日テストをしたアルゴイ地方には、見通しの良いコーナーに富んだ素晴らしいカントリーロードがた<さんあるが、B5はここでも感動的な運転の楽しみを与えてくれた。

正確でインフォマティブなステアリング(アクティブステアリングは装備されていない)と、ニュートラルで軽やかなハンドリング、そして高いロードホールディングは、B5に付いている標準装備で、もっとも価値のあるものだろう。

そしてなによりも感動的なのは、このアルピナではM5のようにスロットルを床まで踏み込んで回転を上げる必要のないことである。これは明らかに燃費の向上にも貢献しているはずである。

また、この日、小雨がパラついて路面が濡れたセッションに遭遇したが、よほど不用意なスロットルワークをしない限り、B5はM5よりもずっと安定していた。

つまりM5がV10という新しい味覚を持った素材を売りにしているのに対して、アルビナB5はV8という既存の素材をスパイラル式スーパーチャージャーという調味料で、素晴らしい料理に仕上げてくれたのである。

だからこちらはM5と違って「旬」であるかはそう気にしなくてもよい。少しも尖がったところはなく、ユーザーの好みとペースによって食を楽しむことができるわけだ。

それだけにバリエーションも期待できる。さらに嬉しいことに、アルピナはこのB5にツーリング、すなわちワゴンバージョンも計画している。そうなれば世界最速のワゴンが誕生するわけだ。

まる一日のテストを終え、例によってシュスター氏と美味しい夕食と会話を楽しみながら、B5の感動も同時に噛みしめていた。(文:木村好宏/Motor Magazine 2005年2月号より)

ヒットの法則のバックナンバー

BMW アルピナB5(2005年) 主要諸元

●全長×全幅×全高:4841×1845×1468mm
●ホイールベース:2888mm
●車両重量:1720kg
●エンジン:V8DOHCスーパーチャージャー
●排気量:4398cc
●最高出力:510ps/5500rpm
●最大トルク:700Nm/4250rpm
●トランスミッション:6速AT
●駆動方式:FR
●サスペンション:前ストラット後インテグラルアーム
●最高速:300km/h
●0→100km/h加速:4.7秒

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