調和の取れたデザイン大型化で快適性が向上
BMW3シリーズ(E21型)が初めて世に登場したのは1975年。以来30年、このミドルクラスサルーンは主にそのスポーティな魅力で世界中でヒットし、BMWの販売台数で44%を占める主力モデルとなっている。現在、日本で販売されている3シリーズは、1998年に発表された4世代目でその開発番号は「E46」。ヨーロッパ市場でも、依然としてまだ最盛期の80%近い台数のセールスを記録している。
そのサクセスモデルが今回フルモデルチェンジを受け、スぺインのバレンシアで国際試乗会が開催された。主力モデルの全面改良だけに、取材する側だけでなく、取材される側にも何やら緊張した空気がみなぎるイベントであった。
まず、誰もが気にしていた問題が「デザイン」である。というのもBMW、正確にはチーフデザイナーのクリス・バングル氏は、これまでの新車発表会でずっと私達を驚かせてきたからだ。だが結論から言えば、少なくとも私は胸をなで下ろした。そこには「驚き」はなく、「調和の取れた」彫りの深いBMWの新しい顔の実車があった。
端的に言えば1シリーズを横に引き伸ばしたようなデザインである。またクーペ状のルーフデザインと、ドアグリップハンドルの位置にあるプレスライン、そしてキックのあるピラーからなるプロフィールは、間違いなくBMWの証である。またリアの段付きトランクは影を潜めたので、文字通り「後ろ指を差される」ことはないだろう。
このボディは全長4520mm、全幅は1817mm、全高が1421mm、そしてホイールベースは2760mmである。つまり、これまでのモデルに比べて49mm長く、78mm広くて、6mm高くなっている。これで、都心のマンションなどにあるタワー式駐車場(その多くは全幅1.8mの制限付き)に入れることが困難になった。
しかし35mm長くなったホイールベ ースのおかげで、これまで不満のあった後部座席のフットルームが明らかに広くなり、もはや言い訳を述べながらお客様を狭いリアシートに押し込める後ろめたさはなくなった。
さらに、これまでの3シリーズはトランク容量においては決してチャンピオンではなかったが、このニューモデルでは一挙に容量が20Lも増えて合計460Lとなり、アウディA4やメルセデス・ベンツCクラスを超え、このクラスでもっとも大きな容量を持つことになった。また、トランク上部に取り外し可能なボックスを装備するなど、その使い勝手も向上している。
また技術の進歩は、これだけ大きくなったボディでありながら、少なくともホワイトボディの状態では旧モデルよりも30kg軽く、なおかつ剛性は平均して25%アップという成果を実現している。ちなみにカタログ記載のEU空車重量(装備重量+75kg)は、6速AT仕様の330iで1540kgとなっている。
さらにエアロダイナミクス特性も向上されており、空気抵抗係数(Cd値)は320iで0.28、太いタイヤとエアインテーク面積が大きな330iは0.30となっている。
制動性能が大幅に進化、装備も驚くほどに充実
さて、いよいよコクピットに乗り込む。この330i(6速ATモデル)には、ドアへ近づいただけで開錠する「コンフォートアクセス」機能が装備されていた。ドライバーズシートに座り、キーをスロットへと押しこみ、スターターボタンを押すとフロントに縦置きされた3Lの直列6気筒エンジンが目覚める。
このエンジンの構成パーツにはマグネシウム合金が各部に採用され、従来のアルミ製エンジンよりもの軽量化が果たされている。そしてバルブトロニック機構とVANOS(可変バルブタイミングシステム)を装備して、燃費の向上とパワー特性の最適化も図られている。
プレスキットによる最高出力は258ps/6600rpm、最大トルクは300Nm/2500〜4000rpmである。この結果、6速ATとの組み合わせで0→100km/h加速タイムは6.6秒を実現。最高速度は自主規制によって250km/hにとどまる。
全くの新車であったがゆえに、走り始めの状態ではステアリングやサスペンション、またエンジン回転などの各部にややフリクションの大きさが感じられた。しかし50kmも走るうちにテスト車両とも打ち解けて、対話が始まる。
新エンジンのトルクは確かに低い回転域から力強く発生し、ドライバ ーはアクセルペダルに軽く足を置くだけで少なくとも市街地では他の交通をリードするほどの走りを見せる。そして郊外へ出て右足に力を入れると、タコメーター(温度センサ ーによって許容回転域が変わる)の針は弾かれたようにスケール上を走り出す。同時にスピードも、それに呼応するかのように上昇する。
わずか6.6秒で達する日本の法定速度100km/hは、6速ホールドにするとおよそ2000rpmだ った。もちろん踏んでいけば、ここから息の長い加速が始まり、スピードメーターの針が200km/hの大台をマークすることはいたって容易なことだった。
前述したように初めはゴツゴツした乗り心地で、RSC(ランフラット・システム・コンポーネンツ/ランフラットタイヤ装備)のためかと思った。しかし速度が上がるにつれてフラットに変わり、高速道路ではまさに巡航高度に達したジャンボ機並みの快適さになった。
それで高速巡航を楽しみ始めたのだが、スペインではドイツのような片側3車線の道は多くなく、幅の比較的狭い日本の高速道路のような2車線がほとんどだ。その走行車線から、いろいろなクルマが突然飛び出してくる。
そんな時に、330iの改良されたブレーキは大きな助けとなった。フロント用が330mm×24mm(径×厚さ)、リア用が336mm×22mmというサイズのベンチレーテッドディスクを備えるブレ ーキには、ふたつの仕掛けがある。
まず「ブレーキスタンバイ機能」。これはDSCが作動を監視しており、ドライバーの足がブレーキペダルに移る直前にはすでにブレーキパッドがスタンバイ位置にあるという機構で、これによって制動操作への反応時間が非常に短くなる。
加えて「ドライブレーキング機能」。これはレインセンサーからの情報を得て、濡れた路面を走行する際にはブレーキパッドをできるだけディスクに近づけておき、そこに水膜が発生しないようにするという優れたシステムである。
またブレーキに関して言えば、新たに「ツーステージ・ブレーキライト(ブレーキ・フォース・ディスプレイ)」が装備される。これはABSが働くほどの緊急ブレーキ時に際して、ブレーキライトがそのレンズ面積一杯に点灯して、後方のドライバ ーの注意を喚起するというものだ。
高速道路から山間のワインディングロードに入る。ここでも、ニュー3シリーズの330iは驚くほどのロードホールディングを発揮する。これは主に、新たに採用された5リンク式リアアクスルのおかげだ。このシステムは従来の3シリーズと比べると後輪の位置をより正しく保ち、外乱から守ってくれるので優れた追従性を発揮してくれる。
またオプションのアクティブステアリングシステムは、スプリットミ ュー路面における反応が適正化されたので、一層実用性が増した。またその操作性が素直になったのは、制御するECUのマッピング上でリファインメントが行われたからなのかもしれない。
この他、ニュー3シリーズにおける装備面での充実ぶりには目を見張るものがいくつもあるが、その代表的なものは「アダプティブ(コーナリング)ヘッドライト」である。このシステムは、ステアリングの操舵アングルに応じて、ヘッドライトが曲がろうとする方向を照射するシステムで、暗夜での快適性は格段に向するだろう。
さて、すべての面で改良されたこの新型3シリーズだが、果たしてこの横幅1.8mを越えた「NEW3」が日本でどのように受け入れられるかには、大いに興味がある。というのは、少なくとも自宅マンションのタワー式駐車場に置けなくなる人が何人かはいるに違いないからだ。クルマのために一戸建て、あるいは最近都心にも増えた大型マンションに引っ越すというのは、そうそう簡単なことではないだろう。
解決方法は2つある。その1つは簡単で、他の広い駐車場を探す。2つ目は、ダウンサイズして120iを選ぶ。確かにこの選択も悪くないが、現行3シリーズよりも狭い後部座席は、その意味では致命的である。
それにしてもどうしてクルマは年々大きくならなければならないのだろうか? わずかの問題で苦悩するレポーターなのであった。(文:Alexander Ostern/Motor Magazine 2005年3月号より)
BMW 330i(2005年) 主要諸元
●全長×全幅×全高:4520×1817×1421mm
●ホイールベース:2760mm
●車両重量:1540kg
●エンジン:直6DOHC
●排気量:2996cc
●最高出力:258ps/6600rpm
●最大トルク:250Nm/2500-4000rpm
●トランスミッション:6速AT
●駆動方式:FR
●サスペンション:前ストラット後5リンク
●最高速:250km/h(リミッター)
●0→100km/h加速:6.6秒