2004年10月に日本市場に登場した初代BMW1シリーズは。まず120iから上陸を開始。2005年にはいよいよ116iと118iが販売されて本格導入となった。いまやプレミアムCセグメントカーとして欠かすことのできない存在となっているが、当時はどのように受け入れられたのだろうか。(タイトル写真は116i。以下の試乗記は、Motor Magazine 2005年5月号より)

116i、118iに乗ってわかる1シリーズの真価

BMW1シリーズの日本市場への導入は「段階的」であった。「日本」という、外国のプレミアムメーカーにとっては「莫大ではないが重要で限られた」マーケットにおいて、段階的導入という手法は理解できるし、本国での生産問題や日本における認証手続きなど、いくつかのハードルだって存在するだろう。わかるが、登場を待ちに待った身には、それがツライ。いずれにしても日本の輸入車好きは、対象が何であれ新型車が登楊すると「飛びつく」か「慎重に待つ」という選択を迫られるわけである。

6シリーズのような、あらゆる意味で飛び抜けたモデルであれば、逆に悩みは少ないいち早く手に入れることが第一義ですらあるから、高いグレードだけをズドンと先に出せばいい。それがこの1シリーズのようなラインナップのボトムを支えるべきモデルが相手となると、評価する方だって買う側以上に慎重にならざるをえない。後から出てくるという、価格的に魅力なグレードに乗ってこそ真価を計ることができると考えるのが当然だからだ。価格的に安いクルマの方が、コストパフォーマンスの判定がシビアになるのは世の常でもある。

昨年2004年9月に日本での販売が始まった1シリーズだが、価格や装備の発表こそ120i、118i、116iの3グレード同時に行われたが、市場にまず投入され我々が評価できたのはトップグレードの120iだけであった。税込みの値段は高い方から顛に、366.5万円、324.5万円、そして288.8万円と発表されたから、多くのユーザーにとって最初の関心事である価格面だけを考えれば、300万円を割った116iの性能が最大のテーマであったとしてもおかしくない。

とはいえ筆者は「116iに乗ってみないことには評価は暫定的でしかないな」と思いつつ、トップグレードの120iに乗っただけで1シリーズの誕生を祝いたくなったうちのひとりではあった。

BMWらしい健やかで伸びのあるエンジン、アクセルペダルの踏み込み次第で時に官能的ですらあるエンジンサウンド、曲がる・止まるにも理想的な重量配分が生み出すドライバーとの一体感、重めのフィールだが積極的に操作して楽しみたくなる正確で素直なステア特性、そしてそれらを包みこむ味わい深く個性豊かなスタイリング、質感が高く実用的なインテリア、よくできたシート、などなど。その魅力は枚挙にいとまなし。入門BMWの座を3シリーズから奪うクルマとして、十分存在感を認めることができたものだった。

それでも自信満々100%の「太鼓判」を1シリーズに押せなかったのは、やはり後出しの116iや118iに乗ってみてガッカリしたらマズイな、と考えたからだ。

画像: 116iはBMWのエントリーモデルという位置付けだけでなく、「足るを知る」価値観を持ったユーザーにとって、積極的に選びたくなる存在だ。

116iはBMWのエントリーモデルという位置付けだけでなく、「足るを知る」価値観を持ったユーザーにとって、積極的に選びたくなる存在だ。

グレードとはエンジンのこと、基本的な仕様は共通の設定

120iに初めて乗ってから半年ばかり経った。ようやく目の前に2台の、後出しの1シリーズがいる。116iはシドニープルーという明るい青メタリックのボディカラー、118iはソノラという薄い金色をしていた。いずれの色も、シルバーやブルーグレーの1シリーズに見馴れた目には、とても新鮮な色合いに映る。

改めて1シリーズのカラーラインナップを見ると、無彩色系に見えるものが多い。11色あるラインナップカラーのうち、実に6色が黒/銀系である。個人的には明るい彩色を合わせた方が1シリーズのスタイリングは引き立つように思える。

試乗に移る前に、いま一度、出揃った1シリーズの概要を、グレードごとの仕様・装備の違いを中心にまとめておこう。

エクステリアやインテリアに見受けられる一部の機能やデザイン、仕上げを除けば、セーフティ性能やシャシ、トランスミッションはカタログを見る限り3モデル共通である。

特に118iと120iに関しては、装備や機能的に見てもほほ同等の仕様といっていい。スタンダードモデル同士で比較して、最も安い116iが最廉価だと伺わせる要素は、フロントフォグランプが装備されないことと、インテリアの雰囲気が質素であることぐらい。グレードの違いをことさらに強調する要素はほとんどないのが嬉しい。

それでもオプションリストが豊富なBMWのことだから、望めばいくらだって上級グレードの装備・仕様に近づけることが可能だ。実際に、試乗した116iにはアルミ調のインテリアトリムやスポーツシート、そしてiDriveナビゲーションパッケージまで装着されていたから、同道した118iよりも「お高く」見えた。もっともオプション総額90万円だったから、それも当然の話だが。

標準装備のタイヤはすべてランフラットの16インチ。116iは195サイズで、その他は205サイズとなっている。

最大の違いは、搭載されるエンジンだ。BMWではエンジンの序列が車名になるのが常だし、エンジンに最大の魅力が存在するBMWなのだから、当たり前ではある。

既存のBMWラインナップに詳しい人こそ間違いがちな点を最初に記しておく。すべて直4のダブルVANOS(バリアプル・カムシャフト・コントロール)付きで、120iと118iには2Lエンジンが、116iには1.6Lエンジンが積まれている。3シリーズ(2Lの318i)やti(1.8Lの316ti)とは名付け方が違うことに留意されたい。

120iには車名が示すとおり、2L直4DOHCが積まれている。型式名でいうとN46B20Bとなり、E46型318iに搭載されたN46B20A型直4エンジンの発展版ということができる。ダブルVANOSにバルブトロニックを組み合わせ、DISAと呼ばれる共鳴過給の吸気システムが付加されているのは同じだが、吸排気系をさらに見直すことで7psのパワーアップとより低回転での最大トルク発揮を実現したエンジンであった。

118iは、エンジン型式こそ同じだが、DISAが外され、エキゾーストマニフォールドの構成も4→2→1タイプから4→1タイプに変更されている。燃料噴射装置は120iと同じ仕様。特徴としては、より低い回転域から実用トルクを発揮することがあげられる。

116iには型式名N45B16Aというエンジンが積まれる。DISAはおろかバルブトロニックもバランサーシャフトも備わらないが、その身軽さが身上ともいうべきベースユニットだ。それでもパワー的には316tiに積まれる1.8Lと同等で、BMWスペックに見馴れた人であれば不満を感じることはないはず。ちなみに燃料噴射装置は2Lとは異なる仕様だ。

すべての工ンジンにはギア比も同じステップトロニック付き6速ATが組み合わされている。最終減速比は3.909で、E46型318iの5速ATと同じ値だ。

面白いのは10・15モード燃費の違いである。良い数字から順に12.4、12.2、11.6km/Lと発表されているが、この順はグレードの高い順だということだ。ハイテク機能の有無に加えて計測時の条件違いも考慮されるべきだが、120iがカタログ燃費で最高の数字をあげていることには興味を覚える。

ちなみに日本仕様の重量差は116iの1350kgから順に10kg刻みで重くなる。

画像: 凝ったデバイスは持たないが、走らせてみると思わず納得させられる116i用のN45B16A型エンジン。全車共通の6速ATとのマッチングもいい。

凝ったデバイスは持たないが、走らせてみると思わず納得させられる116i用のN45B16A型エンジン。全車共通の6速ATとのマッチングもいい。

やはり共通する走りの魅力、光る118iのバランスの良さ

前置きが長くなったが、インプレッションの報告をすることにしよう。ここでもエンジンスペックの違いが論点となる。

まずは116iから乗り込む。タイヤのメイクはピレリ。いきなり高速道路に繰り出したが、発進時から速度が乗るまでに、明確な不満を感じることはなかった。BMWらしいビートの効いたサウンドは健在だし、直線で加速しながら早くも曲がることを要求するような、反応の良さが感じられるステアフィールも120iとなんら変わらない。別段、ノーズが軽いという印象もない。

「身軽な1.6だからかな」と思わせるのは追い越し加速時の、ひと踏み込み目の食いつきの物足りなさと、高回転域でのエンジンのレスポンスだったろうか。それとて、「劣る」箇所をあげねばという意識がさらい出したものだから、平坦路や下りが続く場面では、悪い印象を感じることはまずない。

驚くのは、エンジンフィールが120iとそっくりな点だ。4000rpmあたりからグッと力強さが増し、パワーの伸びも衰えない。

高速ワインディングが続く区間では、この上なく安定した、快適で楽しいドライブが味わえた。とにかく速度に乗ってしまえば1.6Lであることを忘れてしまう。ストップ&ゴーが多い街中でも、118iと乗り比べたりしない限り、「これはこれでいい」と思える加速レベルだ。

ただし、乗り心地は明らかに118iよりもハードだった。その分だけ一層ハンドリングがシャープだったかというと、そうでもない。高速ではそれほど感じなかったが、街中ではハードに感じるのだ。

この116iはオプションのスポーツシートを装備していたから、そのクッションとタイヤサイズとメイクの違いが、硬めの乗り味を示したとしか言いようがない。オプションのスポーツサスペンションが付いている、と言われた方が納得できそうな乗り心地であった。前フロア下あたりから聞こえてくるノイズも気になった。これもタイヤのせいだろうか。

これに反して118iの乗り心地は「ちょうど良い」という表現がぴったりだ。3000rpmあたりから太いトルクに乗って加速する感じは、116iとも、120iとも違うもの。そのままフラットに力を発揮する点も違う。120iのようなエキセントリックなフィールも、しっかりと抑えられている。

日常利用を重視するならば、118iがもっとも適していると断言しておこう。もちろんフラットなトルク特性は、その回転域を維持するような走り方であれば、スポーティ走行をも十分サポートするものだった。

ちなみにこちらのランフラットタイヤはミシュラン製で、特有のデジタルな反応は残るが、ロードノイズも116i+ピレリよリも明らかに小さい。

最後に念を押しておくべきは「駆けぬける歓び」である。BMWの場合、「駆けぬける道は常に曲がっているべし」というのが私の持論で、よく考えれば曲がっていない道など日常にはないのだが、とにかくステアリング操作している時がひときわ楽しい。これがBMWの魅力であり、本分だ。120iはまさにその点でBMWらしいモデルだったが、118iも116iも、それがまるで変わらない。それこそがBMWのプライドというものだろう。

「これでいいんだから」と思わせるカジュアルさと、高速道路やワインディングで見せたまさにBMWというべき性能を見事に両立しているところに、1シリーズの見所がある。やはり116iに乗ってから1シリーズの評価をすべきだという筆者の考えに間違いはなかったが、「我々のもの作りを、もっと信用しろ」という声も聞こえてきそうだ。作り手のプライドを感じるということは、そういうことなんだと思う。(文:西川 淳/Motor Magazine 2005年5月号より)

ヒットの法則のバックナンバー

BMW 116i(2005年)主要諸元

●全長×全幅×全高:4240×1750×1430mm
●ホイールベース:2660mm
●重量:1350kg
●エンジン:直4DOHC
●排気量:1596cc
●最高出力:115ps/6000 rpm
●最大トルク:150Nm/4300rpm
●駆動方式:FR
●トランスミッション:6速AT
●車両価格:288万8000円(2005年当時)
※日本仕様

BMW 118i(2005年)主要諸元

●全長×全幅×全高:4240×1750×1430mm
●ホイールベース:2660mm
●重量:1360kg
●エンジン:直4DOHC
●排気量:1995cc
●最高出力:129ps/5750 rpm
●最大トルク:180Nm/3250rpm
●駆動方式:FR
●トランスミッション:6速AT
●車両価格:324万5000円(2005年当時)
※日本仕様

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