911の販売の半分以上が4WDモデルだった
南仏はモナコの街並みを見下ろす、山の中腹に建てられたホテルをベースに、カレラ4&4Sの国際試乗会は行われた。モンテカルロラリーで使われる、あの道幅が狭くタイトなコーナーが続くチュリニ峠などのワインディングロードで、このクルマの実力を見て欲しいというポルシェAGの意向なのだろう。
さて、その試乗前のプレゼンテーションで、意外な事実を知って驚いた。ターボを含めると「去年(2004年)販売された911の半分以上が4WDモデルだった」というのだ。これほど4WD比率が高いとは思ってもいなかった。
質疑応答の時間があったので、「今後、911の4WDの割合はどうなっていくと思うか」と聞くと、「とくに大きな変化はないだろう。期待するとしたら、全部ターボで売りたい。それが一番儲かるから」と、半分ジョークで返されてしまった。
スポーツカーの高性能化はイコール4WD化ということになるのか。その辺のポルシェの考え方をどうしてもはっきり聞いておきたかったが、幸い昼食のときに別のエンジニアに聞くことができた。それによると、「パフォーマンスをどう活かすかというソリューションにはいくつかの方法がある。確かに911のターボは4WDだが、ハイパフォーマンスカーのカレラGTは2WDだ。雪の上ならカレラ4がいいだろうが、天気の良い日だけならカレラ2の方がいい。軽い方がいいからだ」という。
要はケース・バイ・ケースで、4WDと2WDをうまく使っていくということだった。911ターボが4WDであり、また、911の販売台数の半分以上が4WDであることから、ひょっとしたら「これから911は4WDがメインになります」という答えが返ってくるかも知れないと思ったが、そうではなかった。
すると、今回登場したカレラ4の役割はどういうことになるのだろうか。とくにベースとなる現行911(997型)の仕上がりが非常に良く、スタビリティが高くなってい中で、4WDモデルの役割はどういうことなのか。結論から言ってしまえば「より安定性を高めるソフトな方向」で煮詰められ登場したということになる。
先代911(996型)の2WDモデルには、ある種ジャジャ馬的なところがあり、その部分を抑え、よりスポーツ性を高めるために4WDが使われていた側面がある。しかし、現行911は2WDでも十分にスタビリティが高くスポーツ性は高いレベルにあるので、4WDはさらにその上の安定性の向上のために使われているということだ。
そのデビューの仕方からして、先代996型の時とは違う。先代の4WDモデルは、まずカレラ4がデビューし、その後、ターボルックの自然吸気エンジン搭載車としてカレラ4Sが登場した。カレラ4とカレラ4Sには、性格付けに明らかな違いがあった。先代カレラ4Sは非常にスポーツイメージが強かった。
ところが今回、カレラ4とカレラ4Sが2台揃って登場した。スタイリングも基本的にこの2モデルは共通で、2WDモデルよりリアフェンダーのふくらみが大きく、全幅は44mm拡大して1852mmになっている。2WDモデルと4WDモデルを、スタイリング面でもはっきりと区別したわけだ。997型911は、まずベーシックなモデルとしてカレラとカレラSがあり、4WDモデルは2車とも同じボディにして従来型よりも個性を近いものにした。すると、容易に想像できるのは、次のターボはカレラ4Sとは違う、よりスパルタンなボディを備えて登場するということだ。997型では、ターボとカレラ4Sの外観上の共通性はなくなるのだろう。
リアフェンダーの膨らみで4WDの安定性を強調する
さて、マルチプレート・ビスカス・カップリングを使った4WDシステムは従来モデルと同じで、フロントに常時少なくとも5%、必要に応じて最大40%の駆動力が配分される。
4WDモデルならではのトピックは、ポルシェ・スタビリティ・マネージメントシステム(PSM)に2つの新しい機能が追加されたことだ。1つ目はフルブレーキング時の停止距離短縮に寄与するブレーキシステムのプレチャージ機能で、ドライバーがアクセルペダルを急に離すと、それを急ブレーキの前兆とみなして、一瞬のうちに油圧を高めブレーキパッドをディスクに近づける。そして、ドライバーがブレーキを踏んだ瞬間にパッドがディスクを押さえつけるというシステムだ。仮に200km/hで走行していた場合、このシステムによりブレーキングが始まるまでの空走距離を3〜4m短縮できる。
もう1つはハイドロリック・アシストと呼ばれるブレーキアシスト機能だ。ドライバーが急ブレーキを踏んだものの踏力が十分でなかった場合、油圧ポンプが踏力不足を補う。さらにブレーキシステムそのものも、4WD化による重量増に対応している。2WDモデルはブレーキブースターがシングルだが、4WDモデルはタンデムとなっているため、踏力が少なくて済み、またペダルフィーリングもより良くなっている。さらにピストン径も2WDモデルより大きい。
また、リアフェンダーが膨らんだ恩恵があり、リアタイヤはカレラ4が295/35ZR18サイズが標準、カレラ4Sが305/30ZR19サイズが標準となる。リアトレッドは2モデルとも1548mmになり、2WDモデルより、それぞれ19mm、37mmワイドになっている。これがコーナリング性能の向上に貢献していることは言うまでもない。
搭載エンジンは、2WDモデルと同一で、カレラ4には325psの3.6L、カレラ4Sには355psの3.8Lが搭載される。3.8Lエンジンは3.6Lエンジンをベースに開発されており、ストロークは82.8mmで共通、ボアが96mmから99mmへ拡大されている。EU総合燃費はカレラ4が11.3L/100km、カレラ4Sが11.8L/100kmで、ともに2WDモデルより、0.3L多く燃料を消費する。
さて、その他、走行性能に関わるものは2WDモデルと共通だ。トランスミッションは、6速MTと5速AT/ティプトロニックSの2種が用意され、またポルシェ・アクティブ・サスペンション・マネージメント(PASM)はカレラ4Sには標準装備で、カレラ4にはオプション設定される。さらにタイヤ空気圧モニターシステムRDKは2モデルにオプション設定される。
インテリアデザインや装備類も2WDモデルと共通だが、ひとつだけニュースがある。それはPCM(ポルシェ・コミュニケーション・マネージメント)に、MP3オーディオ圧縮データCDの再生機能が付いたこと。そして、オプションとして、データロガーが設定されたことだ。
これはナビシステムと組み合わせて、最高1500件の走行データを記録できるというもので、そのデータは赤外線インターフェイスでノートパソコンにも移せるという。
実際にステアリングを握って走らせた印象は、「運転しやすく快適、しかもスポーティで楽しい」というものだった。詳しいインプレッションは後段に譲るが、「ポルシェの運転がこんなに楽チンでいいのだろうか」と思った。実はこの南仏に来る前に、フェラーリF430に乗ったが「これが本当にフェラーリか」とビックリするほど運転がしやすかった。ポルシェもフェラーリも、スポーツカーはどんどん乗りやすくなって行くばかりなのか。
しかし、話はそう単純ではない。そうしたことにもの足りなさを感じているユーザー向けに、別のメニューも用意されている。ポルシェにおけるケイマンSはそのひとつ。フェラーリのディノ復活の噂もそれだ。
スポーツカーもこれからは個性化の度合いを強める。そのひとつの方向性を示したのが、このカレラ4とカレラ4Sということだろう。チュリニ峠でその懐の深さを思い知った。スポーツカーの幅が広がるのは、実に楽しく、嬉しいことだ。(文:荒川雅之/Motor Magazine 2005年8月号より)
ポルシェ911 カレラ4(2005年)主要諸元
●全長×全幅×全高:4427×1852×1310mm
●ホイールベース:2350mm
●エンジン:対6DOHC
●排気量:3596cc
●最高出力:325ps/6800rpm
●最大トルク:370Nm/4250rpm
●トランスミッション:6速MT
●駆動方式:4WD
※欧州仕様。ティプトロニックS 5速ATも設定。
ポルシェ911 カレラ4S(2005年)主要諸元
●全長×全幅×全高:4427×1852×1300mm
●ホイールベース:2350mm
●エンジン:対6DOHC
●排気量:3824c
●最高出力:355ps/6600rpm
●最大トルク:400Nm/4600rpm
●トランスミッション:6速MT
●駆動方式:4WD
※欧州仕様。ティプトロニックS 5速ATも設定。