見えない大敵、空気の整流に貢献するエアロパーツ
クルマの最高速チャレンジをするときは空気が薄い(密度が低い)高地で行うことが多い。これは空気が薄い方が「空気抵抗」が減少し、最高速が向上するだけでなく、燃費も向上するからだ。空気抵抗は速度の二乗で増えるため高速域になるほど抵抗が大きくなり、速度を出しにくくなってしまう。そのためカーデザイナーは、なるべく空気抵抗が小さくなるようなスタイリングの設計を行う。
これはスポーツカーだけでなくエコカーも同様で、少しでも燃費性能を向上させるために、空気抵抗の少ないスポーツカーのスタイリングを取り入れているモデルもある。そのためデザイナーは、空気をうまく切り裂きながら空気をボディに沿って流し、ボディ後部に発生する空気の乱流が少なくなるようにする。これは空気の乱流が起こるほど空気抵抗が大きくなってしまうからだ。こうした整流を目的として装着するのがエアロパーツだ。
国産エアロダイナミクスボディの先駆けは日産240ZG“Gノーズ”だ
フロントのエアロパーツで代表的なのが、昔は「エアダム」と呼ばれたバンパー下の突起物で、現在は「フロントスポイラー」と呼ばれる。1986年に登場した7代目スカイラインには、70km/h以上になると自動的にバンパー裏からスポイラーが降りてくる「GTオートスポイラー」を採用した。格納式スポイラーにすることでスポイラーの損傷を抑制し、空力効果が高くなる速度域のみ作動するこのシステムは合理的であった。
昔は国土交通省(当時は運輸省)の指導があったため、派手なスポイラーやオーバーフェンダーなどを装備することが難しかった。その反面、輸入車にはそのような指導を行なっていなかったため、派手なエアロパーツを装着したまま市販されることが多かった。だが、国産車も輸出が多くなるにつれて空力ボディを意識するようになっていった。
たとえば1969年に登場した初代フェアレディZは北米で大ヒットした。スポーツカーらしいスタイリングをしていたが、空力性能までは深く追求していなかった。そのためデザイナーは空力の改善を余儀なくされて誕生したのが日産「240ZG」、通称Gノーズだ。このGノーズを装着したモデルは北米では市販されず、日本でのみ販売された。当時のデザイナーによると、国産メーカーが空力を強く意識し始めたのが、ちょうどこの頃だったという。
1982年、市販車初のCd値0.30を達成したアウディ100が登場
空気力学の研究が進むに連れ、高速域の走行安定性においてエアロパーツの有効性が確認された。これにより、空力ボディがいっそう重視されるようになり、空気抵抗係数(Cd値)をカタログに記載することも多くなった。とくにアウトバーンがあるドイツメーカーは空気抵抗係数にこだわり、1982年に登場した3代目アウディ100は、市販車初のCd値0.30を達成したことで話題になった。現在もアウディはCd値に大いにこだわっており、現行アウディA4のCd値は0.23を達成している。
そしてエアロパーツが走行安定性に大きく影響することを認識させたのも、またアウディだった。1998年、アウディは2ドアコンパクトスポーツクーペとして、アウディTTクーペを発表した。丸味を帯びたボディスタイルが人気となり、とくにリアの「かわいいお尻」が印象的なモデルだった。しかし、このリアスタイルが後に問題となった。
この丸みを帯びたリアデザインが高速域でリアまわりに揚力を発生させ、スタビリティを損なってしまうことがわかった。とくにアウトバーンのような高速域では深刻だったが、ボディ形状で生じたこの問題をエアロパーツのリアスポイラーの装着で解決した。このモデルは日本にも輸入されていたが速度域が低い日本では大きな問題にはならなかった。しかし後に日本仕様にもリアスポイラーが装着された。
トヨタが重視する「エアロスタビライジングフィン」の効果
このようにエアロパーツが空気抵抗やスタビリティに深く関係していることは理解していただけたと思うが、最近トヨタ車を中心に採用されている「エアロスタビライジングフィン」の効果はどうなのだろうか。
以前トヨタは富士スピードウェイで、エアロスタビライジングフィン装着車と非装着車の乗り比べを86で実施している。筆者は残念ながら参加できなかったが、参加したジャーナリストによると高速域では、やはり装着車のほうが安定していたという。現行型86にはフロントフォグランプまわりとリアコンビランプのサイドにフィンが付けられている。その他にスープラではドアミラーに、ハイエースではAピラーとリアコンビランプに採用されていることを見ると「高速域で車両を安定させる」という点では効果があるのだろう。(文:丸山 誠)