インテリアにも上質な高級感が演出されている
スイッチひとつを押すだけでこんなに変わるなんて、まるで2つの顔を持った「ジキルとハイド」のようなクルマだ。これが、ボルボV70Rに乗って一番強く、印象に残った場面である。
V70Rは、ボルボのメイン車種であるV70の限定車として人気がある「R」が、2006年モデルから初めてカタログモデルとなったもので、それにともない最大トルクが14%アップするなどのパフォーマンスも向上させている。
ちなみにRはリファインメント(=洗練された)の意味。ラインナップのなかでももっとも先進的なハイテクを搭載していることを示しており、ハイパフォーマンスカーの証でもある。「R」の歴史は、1995年に登場した850T-5Rより始まっており、この2006年モデルのV70Rは第2世代となる。
今回の試乗場所となったのは鹿児島。寒い冬の東京を避けて、暖かい九州南部で存分にV70Rのパフォーマンスを堪能する…はずだったが、当日は朝から雪。九州全域が大雪に見舞われ、なんと鹿児島では12月の積雪量としては88年ぶりの記録となった。AWDだから走りにまったく支障はなかったが、高速道路が終日通行止めになり、試乗できる範囲やステージが制限されてしまったのは残念だ。
冒頭のスイッチとはアクティブシャシ「FOUR-C」のこと。FOUR-Cとは「Continuously、Controlled、Chassis、Concept」の4つのCから付けられたネーミングで、通常の街乗りからサーキット走行のようなハードな走りまでをこなす「COMFORT、SPORT、ADVANCED」の3つのモードを持つ。
街中での走行はスカイフックサスペンションによる快適な乗り心地のCOMFORT、ちょっとハードに走りたい時はSPORTでオッケーだ。そしてガチガチといった表現がぴったりくるようなADVANCED。これは街中の走行には、はっきり言ってオススメできない。サーキット走行や路面のいい山岳路のようなステージが一番、そのパフォーマンスを確認できるステージだろう。もっとも確実にロールは小さくなり動きもシャープ、車線変更時の応答性やロールの進行、収まりなどは明らかに向上する。
試乗は一般道が中心となった。V70Rは、ステアリングを切った時の反応は軽やかで、多少速度を上げてもライントレース性は良く、切った分だけ正確に向きが変わるといった印象だ。
アクセルを少し踏み込んだ状況では、大トルクを広い回転域で維持するので、押し出すような加速をいつでも引き出せる。少しラフに踏み込んでもみたが、直5らしい低音サウンドを奏でつつ急激に加速Gが増していき、それがしばらく維持される。そしてその領域でもレスポンスは軽やかで、スポーティなフィーリングが強い。
Rが目指した世界は、外観は控えめで中味は革新的なクルマ。V70としっかり差別化がされている。例えばヘッドライトはサテンシルバーフィニッシュだし、グリルもブラックのメッシュタイプ。そしてエアダムも大きい。これはツインインタークーラーを収めるための専用設計だ。
さらにインテリアもV70とは違った高級感を持つ。ブルーフィニッシュのメーターパネル、ダブルのイルミ、そしてレザーシートは、プラス21万5000円でエクスクルーシブナチュラルライドにも変更できる。これは使うと色合いが変わり、世界に2つと同じものはない風合いになるそうだ。もちろんそこまで確認できる試乗時間はないので、オーナーの方はぜひレポートしてください。(文:千葉知充/Motor Magazine 2006年3月号より)
ボルボ V70R(2006年)主要諸元
●全長×全幅×全高:4710×1815×1490mm
●ホイールベース:2755mm
●車両重量:1720kg
●エンジン:2.5L 直5DOHCターボ
●最高出力:300ps/5500rpm
●最大トルク:400Nm/1950-5250rpm
●トランスミッション:6速AT
●駆動方式:4WD
●車両価格:729万円(2006年当時)