2002年にダイムラー・クライスラーの高級ブランドとして復活したマイバッハから、2005年、ハイパフォーマンスモデルがデビューした。マイバッハ57をベースとした「57S」だ。早速日本導入がアナウンスされたが、Motor Magazine誌ではその導入を前に、スペインで開催された国際試乗会の模様をレポートしている。現在のメルセデス・マイバッハに続く重要なモデルだ。(以下の試乗記は、Motor Magazine 2006年3月号より)

高まりつつあるブランドとしての価値

2002年、鳴り物入りで登場したハイエンド・ラグジュアリー・リムジン「マイバッハ」は、相変わらず生みの苦しみの真っ最中である。昨年2005年は、11月までの生産台数がわずか243台。新車効果のあった2003年の550台に比べると、半分以下である。

しかしダイムラー・クライスラー社は少しも慌てていない。むしろその反対で、こうした超高級車、しかも新たにこの世界へマイバッハというブランドを持ち込んだクルマが性急には販売台数を伸ばさないことに理解を示している。すでにイメージとブランド力を確立しているはずのロールスロイスでさえ、同じ時期にそれぞれ825台と621台に留まっているのである。

マイバッハはクルマの販売だけでなく、様々なイベントを通じてそのカルチャーの浸透にも努力している。1年ほど前、マイバッハがスポンサードする雪上ポロ競技に招待されたが、そのイベントに対するアプローチそしてオーガナイズには、まさにプレミアムなブランド形成に相応しいものがあった。

こうしたことが功を奏したのかはわからないが、ニューヨークのラグジュアリー・インスティテュートという調査機関によるアメリカのリッチな消費者へのリサーチによれば、時計、ファッション、宝石、クルマなど120項目もの商品の中で、マイバッハがもっとも高級であるとの結果が出たと報告している。

このような状況下で、マイバッハは57Sというモデルを追加発表した。このモデルは、マイバッハの販売センターであるセンター・オブ・エクセレンスにやってくる顧客の要望によって完成された個人向け、つまりオーナードライバー用のマイバッハである。ドイツを中心にしたヨーロッパでは、このセグメントでも自らステアリングを握りたいというリッチな人たちがかなりいたのだ。

画像: 2005年に登場したマイバッハのハイパフォーマンスモデル、「マイバッハ57S」。リアエンドから覗く2本のエグゾーストパイプが識別点。ハイパフォーマンスモデルだが、演出は控えめ。

2005年に登場したマイバッハのハイパフォーマンスモデル、「マイバッハ57S」。リアエンドから覗く2本のエグゾーストパイプが識別点。ハイパフォーマンスモデルだが、演出は控えめ。

留意されたパーソナル性、ある意味で実用性に富む

57Sは、5.7mの全長を持つマイバッハ57をベースにしたもので、まずその中心的存在がエンジンである。プライベートドリブンを想定したエンジンは、当然のことながらパワーアップが図られ、まず、スタンダードのビターボV12気筒の排気量を5.5Lから6Lにまで拡大し、吸排気系の改良、エンジンマネージメントの最適化などによって、最高出力は550psから612psへ、最大トルクは900Nmから1000Nmへと性能が向上された。

このエンジンはメルセデスベンツの子会社であるAMGで一基一基が手作業によって組み上げられている。その工程は「ワンマン、ワンエンジン」と呼ばれ、一人のメカニクが一基のエンジンを最初から最後まで責任を持って完成させる。

このエンジンが搭載される57Sのボディも標準仕様とは異なる。たとえばボディカラーに、専用のシルバーあるいはブラックが用意されるとともに、縦のメッキラインが強調されたスポーティなS仕様グリル、ボディ同色のヘッドライトカバーなどでさり気ない差別化を行っている。しかし前後に装着された275/45R20サイズのタイヤやリアエンドから覗く2本のエグゾーストパイプを発見すると、このマイバッハが只者でないことがバレてしまう。

しかし、これらの演出は控えめで好感の持てるものだ。この趣味の良さは、インテリアにも及んでいた。ウッドに代わってピアノブラックのパネルとカーボンの組み合わせ、そしてブラック&ホワイトの高級レザーシートはパーソナルでスポーティな雰囲気を最大限に表現している。

スペインのマラガで行われたテストで驚いたのは、この高級車からは想像のできないそのパフォーマンスであった。重量およそ3トンに近いリムジンは、メーカーの発表によればスタートから100km/hに達するまでにポルシェ911カレラ並みの5秒フラット、最高速度は275km/hに到達すると電子的に制御される。さらにスピードは伸びるが、タイヤの耐久性も考慮してリミッターが働くのだ。

最初はそのサイズと価格に圧倒されて自らステアリングを握るのを躊躇ったが、意を決して走り出すとドライビングポジションがやや高めなこともあり、意外と取り回しが楽なのがわかる。またアクセルペダルの操作に対してエンジンのピックアップが鋭いので、高速道路への進入で周囲にそう気を使わなくてもすぐに流れに溶け込む。

もちろん、相手がかなり気を使ってくれている気配も感じる。何といっても、家一軒が走っているようなものなのだから。また高速巡航で頼りになったのは正確で適度な重さを持ったステアリングで、超高速域でのクルージングでも、しっとりとしたフィーリングと路面感覚が伝達され、ドライバーを安心させてくれる。

エアマチックサスペンションが提供する乗り心地はスポーティだが決してハードではなく、またいかなるショックも吸収してくれ、最高の快適性を実現していた。もしハイウェイが続いていたら、このまま日本まで走っていけそうなほどリラックスできたのである。もちろんパニックストップにも決して弱音をはかないハイパフォマンスブレーキの存在も、安心クルージングの支えとなっているのは確かである。

知らず知らずのうちに、大胆にも価格やサイズを忘れて57Sをすっかり楽しんでいる自分を発見して驚いてしまった。

このマイバッハ57Sの販売受付は日本でもすでに昨年から始まっており、価格も発表されている。希望小売価格は、左ハンドル仕様で5008万5000円(消費税238万5000円!を含む)。右ハンドル仕様は、さらに税込みで139万6500円ほど高くなる。

確かに、クルマの観念を超越した金額だが、係留権が高く、また枠を獲得することの難しいヨットや自家用ジェット機に比べればまだまだ安く(?)、実用性の高い買い物と言えなくはない。とくに、買うのであればスタンダードではなく絶対にこの57Sだ!(文:木村好宏/Motor Magazine 2006年3月号より)

画像: 品の良さがうかがえるインテリア。高級感を備えながらさらなるスポーツイメージを与えるべく、パイピングが施されたグランドナッパーレザーのシートが与えられる。

品の良さがうかがえるインテリア。高級感を備えながらさらなるスポーツイメージを与えるべく、パイピングが施されたグランドナッパーレザーのシートが与えられる。

ヒットの法則

マイバッハ57S 主要諸元

●全長×全幅×全高:5730×1980×1560mm
●ホイールベース:3390mm
●車両重量:2735kg
●エンジン:V12SOHCツインターボ
●排気量:5980cc
●最高出力:612ps/4800〜5100rpm
●最大トルク:1000Nm/2000〜4000rpm
●トランスミッション:5速AT
●駆動方式:FR
●0→100km/h加速:5.0秒
●車両価格:5008万5000円(2006年当時)

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