2ペダル(オートマティック)車の運転中に、アクセルペダルとブレーキペダルの踏み間違いはどうして起こるのか。その原因と対策を考えてみた。

システムは歓迎だが個人でできる対策もある

筆者が運転免許を取得して35年以上。仕事柄さまざまな車種のステアリングホイールを握ってきたが、今のところペダルの踏み間違いを経験したことはない。

足の大きさ(あるいは靴のサイズや形状)がペダル配置に合わないという物理的原因、右足首の可動域が狭く内転・外転が難しいという身体的理由を別にすれば、筆者に思いつくほとんど唯一にして最大のポイントは、一部でも指摘されている「かかと」だ。

どうやら、かかとを床につけずにペダルを操作する人がいるらしい。確かに筆者と同業の大先輩で、かかとを床につけないブレーキペダルワークと、小刻みな送りハンドルで華麗なドライビングを披露する人もいる。しかし、その人は左足でブレーキペダルを踏むので操作ミスをすることはない。踏み間違いをする可能性があるのは、かかとを床につけずに片足でペダル操作する場合だろう。

右足かかとは床につける。ドライビングシューズのソールが、かかとまで覆われているのはそのためだ。かかとがいつも同じ位置に置かれていれば、アクセルとブレーキのペダルを踏み間違えることは少ないだろう。床につけたかかとを支点に、足首を左右に動かしてふたつのペダルを踏み替える。

画像: ドライビングシューズのかかと部分。ラバーソールがかかとを覆うようにまわり込んでいる。

ドライビングシューズのかかと部分。ラバーソールがかかとを覆うようにまわり込んでいる。

例えるなら、パソコンのキーボードを打つときのホームポジションと同じ。両手がいつも同じ位置にあるから、キーを見なくても正確なタイピングをすることができる。踏み間違いが起きやすい状況としてあげられるのは、駐車場でバックするようなときだ。運転席から体をひねるように後方を振り返ると右足の位置がずれるケースも報告されているが、これはかかとが床に固定されていないから起こり得る現象なのだ。キーボードのミスタッチは打ち直せばいいが、クルマのペダル踏み間違いはそれこそ命取りにつながることがある。

しかも驚いたことに「ブレーキペダルはかかとを床につけずに踏みましょう」と、いまでも教習所で教えているという。半信半疑でブログやSNSなどを調べてみると、確かにそういう内容が散見される。いざ急ブレーキをかける場合、かかとを浮かせないと力を入れてペダルを踏み込めないから、というのがその理由だ。

急ブレーキについては確かにそのとおり。しかし、ブレーキ操作は基本的にかかとを床につけたままでかまわない。とっさに急ブレーキをかけようとしたとき、ペダルを蹴飛ばすように踏み込めば、意識しなくてもかかとは床から離れるものだ。かかとを浮かせようと、わざわざ意識する必要はない。

それに、電子制御システムがドライバーによるあらゆる操作をアシストしてくれる現在、ペダルを素早く踏み込むだけで急ブレーキをかけられるクルマも少なくない。「ブレーキペダル操作はかかとを床から離して」という教え方が今もあるとすれば、それはブレーキのブースター(倍力装置)がなかったり弱かったりした時代の名残かもしれない。

もしこの教えを忠実に守っているとしても、若年層ドライバーによる踏み間違い事故をほとんど耳にしたことがない。となると、ペダルの踏み間違いはやはり加齢による身体の可動域縮小や柔軟性・筋力の低減など、いくつかの複合的な原因によって起きていると考えられる。

それでも、理に適ったペダルワークとそれを可能にするドライビングポジションが身についていれば、踏み間違える可能性は極めて少ないはず。そして、運転免許を取得できる人にとって、その習得は難しいことではまったくない。

誤発進抑制機能や近距離衝突軽減ブレーキの制御など、ヒューマンエラーを補ってくれる先進運転支援システムの進化・普及は、大いに歓迎できる。しかし、自動車事故を減らす方策がハードウェア頼みで、極めて基本的な運転スキルの底上げや時代に合った教習内容の見直しなど、ドライバー=人間の教育に焦点がなかなか当たらないのは残念。「人づくり」より「モノづくり」に偏重しがちな日本らしい傾向かもしれないが・・・。(文:戸田治宏)

画像: 正しいドライビングポジションは、その人の体型だけでなくクルマによっても異なる。そのため、客観的に見てもらうことも重要となる。

正しいドライビングポジションは、その人の体型だけでなくクルマによっても異なる。そのため、客観的に見てもらうことも重要となる。

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