GRヤリスは競技車両規定上、ヤリスとまったく別の車両
GRヤリスは、WRC(世界ラリー選手権)の制覇を視野に開発された車両で、2万5000台の生産が予定されている。
FIA(国際自動車連盟)の競技車両規定では、自動車メーカーは、2万5000台以上生産した車両シリーズのうち、連続する12カ月の間に2500台生産した車両でホモロゲーション(公認)を申請することになっている。
かつてのスバル・インプレッサや三菱ランサーエボリューションが活躍したグループA時代は、この2500台のホモロゲーションモデルは真のハイパフォーマンスカーだったが、現在のWRカー規定ではこの2500台のホモロゲーションモデルから大幅な改造が可能となっているため、特別なモデルを開発する必要はない。
もともとWRカー規定は高性能4WDターボ車を2500台も作れない(作っても売るマーケットのない)欧州メーカーのために生まれた規定であるのだ。
ではなぜ、トヨタはGRヤリスを2万5000台も生産して売るのか。
それは、ボディシルエットが違うGRヤリスとヤリスは、競技車両規定上の同一の車両シリーズとは認められないため。2万5000台のヤリスのうち、2500台のGRヤリスをホモロゲーションモデルとする、という手法は使えないのだ。
実は開発当初はこれまで通り、トヨタはヤリスをWRカーのベースとするつもりだった。しかし、WRCチームと協議を重ねるうちにヤリスでは軽量化や空力効率といった要求に応えることはできないと判断。専用ボディを持つGRヤリスの開発に踏み切り、2万5000台を生産してそのうちの2500台をホモロゲーションモデルとする決断に至った。
ハイパフォーマンスカーで2万5000台という生産台数は通常では難しい数字だが、GRカンパニーの立ち上げという追い風があり、専用ラインを設けてのGRヤリスのプロジェクトがスタートすることができたというわけだ。
ではGRヤリスはどんなカテゴリーへの参戦を想定しているのか。
まずWRCだが、頂点のWRカーでは現行のヤリスWRCに代えてGRヤリスをベースとした新型WRカーで2021年を戦うことになる。GRヤリスのエンジンは直3ターボを搭載するが、WRカーでは競技専用エンジンが搭載可能なので、現行ヤリスWRCでも使用しているTMG製作の直4ターボエンジンに換装されることになるだろう。
トヨタにとって想定外だったのは、GRヤリスの開発スタート後に、現行WRカー規定が2021年限りとなることが決まったこと。2022年からのWRCのトップカテゴリー(ラリー1という名称に変更される)は、ボディも含めて市販車とほぼ関連のない専用設計となるため、GRヤリスをベースとしたWRカーがアドバンテージを発揮できるのは2021年シーズンのわずか1年限りになる。しかし、それでもあえてトヨタは2021年のWRCに新型ラリーカーを送り出そうとしている。
もっとも、GRヤリスはWRカーだけでなく、プライベートチームが鎬を削るラリー2、アマチュア向けのカテゴリーのラリー3での活躍も期待されている。こちらには直3ターボエンジンが使われ、より市販車段階でのパフォーマンスが活きるカテゴリーと言っていい。
さらに、GRヤリスはスーパー耐久レースや全日本ラリー選手権など日本のモータースポーツシーンでも活躍しそうだ。JAF公認競技には生産台数を問わない競技車両登録だけで出場できるため、FIAの公認を待たず、わずかな競技専用パーツの装着だけですぐに実力を発揮するだろう。
GRヤリス RZ ハイパフォーマンス ファーストエディション 主要諸元(社内測定値)
●全長×全幅×全高:3995×1805×1460mm
●ホイールベース:2558mm
●重量:1280kg
●エンジン種類:直3DOHCターボ
●排気量:1618cc
●最高出力:272ps
●最大トルク:370Nm
●トランスミッション:6速MT
●駆動方式:エンジンフロント横置き4WD
●サスペンション:マクファーソンストラット/ダブルウイッシュボーン
●ブレーキ:4輪ベンチレーテッドディスク
●タイヤサイズ:225/40ZR18
●車両価格:456万円
ヤリス HYBRID G 主要諸元
●全長×全幅×全高:3940×1695×1500mm
●ホイールベース:2550mm
●重量:1170kg
●パワートレーン種類:直3DOHC+モーター
●排気量:1490cc
●最高出力:91ps/5500rpm+59kW(80ps)
●最大トルク:120Nm/3800-4800rpm+141Nm
●トランスミッション:電気式無段変速機
●駆動方式:FF(E-Fourも設定)
●WLTCモード燃費:35.8km/L
●タイヤサイズ:175/70R14
●車両価格:213万円