快適なクルージングと懐の深いスポーツドライブ
手頃なサイズのクーペを作らせれば天下一品。プジョーの、一般的にはあまり浸透していない、魅力のひとつである。
前作、406クーペは、クーペモデルとし404以来のコラボレーションとなるピニンファリーナの作品で、そのシンプルでクリーンなクーペフォルムが人気を呼んだ。全世界10万台以上、日本でも1000台弱を売ったというヒット作である。そんな406クーペを越えるべく登場したのが、プジョーデザインのクーペ407だ。プレミアム市場に参入した407シリーズのトップモデルとして、プジョーの新しいイメージリーダーとなる重責を担う。PSA最新のフランス・レンヌ工場で生産されている。
美しいクーペフォルムと現代人に要求される居住性を両立するため、プジョー・デザイン・センターは苦労したことだろう。FFベースに設計して、ホイールベースを変えずにキャビンを大きくし、しかもトランクスペースも稼いで、シルエットを流麗なものにするのは簡単な作業ではない。元来、美しいクーペスタイルというものはFRをベースにイメージされるから余計に難しい。
これらに対する回答は、セダンよりも長くなったノーズに見ることができる。そう、さらに大きなプジョー顔とすることで、ややもすると危うくなる全体のシルエットを見事に支えきったのだった。
残念な点がひとつ。デザイン画ではセダンやSWと同じく、サイドウインドウのグラフィックスが後ろに向って切れ上がっていた。クーペこそ、このアクの強さが欲しかったところだが、後席の開放感や後方視界の確保のため、まっとうな台形になってしまった。これじゃ、セダンの方がスペシャルだ。
日本仕様として用意されるのは、ハンドル位置の左右はあるものの1グレードだ。3L V6+アイシンAW製6速ATを積むモデルである。
重くてデカいドアを開けて乗り込む。これだけ大きいと後席へのアクセスもラクだ。ちなみに後席には大人の男性がちゃんと座ることができる。
インテリアのデザインそのものは、他の407シリーズと同じである。なのに、スポーツシートの設置位置が低められていることと、フルレザー+艶消しアルミニウムのトリムが雰囲気をかなりスペシャルなものへと変えている。黒の他に白っぽいグレーや濃い目の赤、落ち着いた茶など、ボディ色によって4種のカラーをコーディネートするなど、これならこのままソフトトップのオープンモデルにしても十分人の目を引きそうだ。
メカニカル面でセダン&SWと違うのは、トレッドを拡大しバネ変更などでローダウン化して、電子制御可変ダンパーにスポーツモードを追加した足回り、そして専用チューニングの可変油圧パワステを装備することだ。
高速クルージング時の極めて質感のいい走りが印象的だった。これには、フロントウインドウだけでなく大きなサイドウインドウにまで防音フィルムを挟んだラミネートガラスを採用していることが効いている。
街中からその静かさに驚いたものだが、車速を上げるにつれ、ありがたみが一層増した。断然クラストップの静かさだ。この性能を体験すると、プジョーの走りに対するグッドイメージがまたひとつ増えるに違いない。
乗り味そのものは硬めである。フランス車にしては、ちょっとドイツ車っぽい硬さだなと思うシーンが多かった。ただし、可変ダンパーによる制御は優秀で、決して不快になることはない。スポーツモードにしてもそれほど急激に硬くなることもなかった。丁寧なセッティングである。
スポーティな走行も試みた。ドライバーの足と前輪の位置が近く、その分さらにノーズが長く思えるため、慣れるのに多少時間がかかったが、重めのパワーステアリング(細かな制御をしているが50km/h以上で一気に重くなる)と驚異の粘り腰で、最後は心地よくワインディングを楽しめた。快適なクルージングと懐の深いスポーツドライブ。大人の遊び心を知るクーペだ。(文:西川淳/Motor Magazine 2006年8月号より)
プジョー クーペ407 主要諸元
●全長×全幅×全高:4815×1870×1405mm
●ホイールベース:2725mm
●車両重量:1660kg
●エンジン:V6DOHC
●排気量:2946cc
●最高出力:210ps/6000rpm
●最大トルク:290Nm/3750rpm
●トランスミッション:6速AT
●駆動方式:FF
●車両価格:549万円(2006年)