2005年にフランクフルト・モーターショーでデビューしたケイマンSに続いて、2006年にはベーシックな素のケイマンが登場している。「S」モデルの後では「もの足りなさ」を感じることはないのか、なぜスタンダードモデルが後から出るのら。様々な疑問を抱きながら向かった国際試乗会の模様を振り返ってみよう。(以下の試乗記は、Motor Magazine 2006年9月号より)

シンプルに「ケイマン」と名付けられた「素のモデル」

北米市場では、導入スタートからわずか半月で1000台の販売を記録。2005〜2006年の事業年度全体でも、「1万台のハードルを軽く突破する販売が現実のものになりそう」、そんな幸先の良いスタートを切ったポルシェ最新のブランド「ケイマン」シリーズに、大方の予想通りの新たなパリエーションが加えられた。

まずはヨーロッパ/米国を中心に2006年7月末からセールス開始の予定というこのモデルの正式名称は、単純に「ケイマン」と、ごくシンプルなもの。これまでのケイマSに対し、何のグレード名も与えられない「素のモデル」が、よりベーシックな位置付けを狙う価格訴求性の高いものであるということは、現在のポルシェラインアップに少しでも興味のある人ならば、911やボクスター、そしてカイエンでの前例から「ははん」とすぐに察しが付くはずだ。

実際、そんな前例と同様にケイマンSに対するケイマンの特徴は、まず「エンジンキャパシティがより小さく、出力/トルク値もSモデルに対して明確に小さくなる」という点が最大のニュースとなる。

ケイマンに搭載されるのは、「ボクスター」同様2687ccという排気量のフラット6ユニット。その最高出力は245ps、最大トルクは273Nmとアナウンスされている。

……と、こんなスペックを耳にした時点で脳裏を「!?」マークがよぎった人は、現行ボクスターのオーナー、もしくは相当なポルシェ通を自認する人だろう。そう、前出の各数字は、実は現行ボクスター用ユニットのそれと同じではない。最高出力と最大トルクはそれぞれ5ps/3Nmのアップとなり、その発生回転数も6500/4600〜6000rpmとボクスター用の6400/4700〜6000rpmから微妙に変化している。

ちなみに、ドライバー正面に置かれたブラック地にホワイトの目盛りで表示をされるタコメーターは7200rpmからがレッドラインで、その左隣にレイアウトされた同様のカラーリングのスピードメーターは、フルスケールが280km/hとされている。

こうして同じ排気量の両者の出力データが、わずかながらも異なる点には、実はハードウェア上でも明確な理由がある。ボクスター用ユニットが採用する吸気系バルブ駆動系の制御システムは「バリオカム」。対してケイマン用が採用をするのは、ポルシェが従来から「バリオカムプラス」と称する、より高度なメカニズムを用いるシステムなのだ。

いわゆる「可変バルブタイミングシステム」のバリオカムに加え、「可変バルブリフトシステム」も備えるのがバリオカムプラス。さらには可変インテークシステムも含めて、これらを運転状況に応じて総合コントロールし、気筒あたり2つの排気バルブ間に設けられたインジェクターホールで、この付近の熱負荷を下げ、それによって圧縮比をボクスター用の11.0から11.5へと高めることで、高出力化と低燃費化を図ったのだ。

画像: ケイマンSよりややソフトであるという足まわりが絶妙で、乗るほどに「人車一体」を感じた。パワーとシャシのバランスに優れた素晴らしい出来映えといえる。

ケイマンSよりややソフトであるという足まわりが絶妙で、乗るほどに「人車一体」を感じた。パワーとシャシのバランスに優れた素晴らしい出来映えといえる。

エンジンバリエーションはボクスターと同じ

というわけで、オープンモデルであるボクスターのキャラクターとさらに明確な差を付けるべく、排気量は同様ながらもその心臓はこうして細部に専用設計を採用、とハナシを続けたいのだが……実は発表された2007年モデルのボクスターには、先に紹介の「ケイマン用ユニット」がやはり搭載をされることになるという。加えればボクスターSの2007年モデルには、排気量が3.4Lへとアップされた最高出力295psエンジンが搭載されるとも発表された。

と、こうして説明すると随分とややこしくも聞こえるが、要は「2007年モデルではボクスターシリーズとケイマンシリーズは同じエンジンバリエーションの持ち主になる」ということ。「えっ? ケイマンは『ボクスターと911の狭間のマーケットを狙ったモデル』ゆえに排気量にも差が付けられ、だからこそ前者の方が価格が上という設定も説得性を備えていたのではなかったか!?」と思わずそんなツッコミも入れたくなってしまいそう。

しかし、本拠地ドイツで開催された国際試乗会の場で、ボクスターとケイマンのプロダクトダイレクターにそんな疑問を呈すると、「搭載エンジンで両モデルを格付けする考えは、そもそも当初から存在しなかったのだ」とちょっと期待外れ(?)の回答が返って来ることになった。

そうなると、今度は発表されたばかりの2007年モデルの価格設定に、「パワーユニットが同じで『ルーフが固定されただけ』のケイマンシリーズが、何ゆえボクスターシリーズよりもこれほど高いのか」と、そんな声も上がりそう。

もっとも、そんな疑問に対するポルシェ本社の回答は「ケイマンシリーズの方が走りのスポーツ度も居住性も荷物の積載性も、すべての点でボクスターシリーズのポテンシャルを凌ぐ。それらの実現により多くのコストが必要となっている部分も存在するし、その対価としてカスタマーに負担をして貰う額が多少大きくなるのも当然」と、そんなコメントが聞こえて来るのであるのだが……。

ボクスターとボクスターS、カイエンとカイエンS、そして911カレラ系と911カレラS系の関係がそれぞれそうであったように、ケイマンとケイマンSを識別するのは、エクステリアでもインテリアでも簡単なことではない。ボディ本体はもちろん前後バンパーなどの樹脂パーツ、そしてインテリア各部のデザインは、そのすべてが「基本的には同一」と言ってもよいものだからだ。

そうは言っても「リアのエンブレム以外はグレード識別が不可能」というわけでもない。前出のそれぞれのモデルたちと同様、そこには「見る人が見ればわかる」的なちょっとした化粧の違いによる差別化が、いくつか用意されているからだ。

たとえば、楕円形処理のテールパイプエンドやブラック色のブレーキキャリパー、また、カラーのフロントスポイラーリップが、ケイマンだけの専用アイテム。サイドビューでは、ケイマンSの18インチホイールに対してケイマンでは17インチが標準装備であるのが唯一の相違点。ただしこちらには18、そして19インチもオプション設定されるので、オーナーの好みでそれらへの交換が行われた際には、当然「識別は不可能」ということになる。

画像: インテリアは基本的にケイマンとケイマンSは同じ。

インテリアは基本的にケイマンとケイマンSは同じ。

濃厚な人車一体感には感動を通り越した驚き

そんな「ケイマン」の走りのテイストは、「大方予想をした通りの印象」と言えるものであった。

バリオカムプラスが与えられた最新の2.7Lユニットは、ボクスターよりも70kgほど軽く「911カレラのそれにほぼ匹敵する」というコメントが聞かれるケイマンのボディを軽快に加速させてくれる。

せいぜい4000rpm付近までを使う日常的なシーンでは、両者の力感に大きな差は見出せないものの、違いが明確なのはその先。特に4500rpm付近からレッドライン向かってのエンジン回転の伸び感は、これまでのボクスター用ユニットに対して、明らかにそのシャープさと力強さが上乗せされたもの。

加えれば「クーペ専用に新しく設計」と伝えられるエキゾーストシステムを通して奏でられるサウンドも、こうした領域では心なしかボクスターのそれよりも迫力を増して感じられる。

ちなみに標準の5速MT、オプションの6速MTで同一値の6.1秒という0→100km/h加速タイムは、ボクスター比でコンマ1秒の短縮、ケイマンS比ではコンマ7秒のビハインドというデータ。5速MT仕様で258km/hという最高速は、ボクスターと同じ0.29というCd値を発表しつつもプラス2km/hという結果になっている。

ところで、ポルシェの国際試乗会での通例通り、足まわりの仕様と装着シューズは、今回も様々なテストカーに数多くのバリエーションが用意をされていた。が、まずはオプション設定のPASMについては、「もはやポルシェ車にはMUSTの存在」というのがこのクルマにも当てはまる。

今回の試乗会では標準の17インチ、オプションの18インチを履いたモデルで「PASMなし」を経験。が、そのいずれもが「70km/h程度以下では路面凹凸を拾っての上下Gが強めで、特に50km/h以下に落ちると、それは決して快適とは思えない」と報告したくなる印象だった。

中でも、18インチ車の場合には鼓膜を圧迫するドラミングノイズも強く発生。一方、このあたりを劇的に改善してくれるのがPASM装着車で、こちらであれば18インチ装着仕様でも快適性は文句なしとなる。クーペボディならではの剛性感の高さをより明確に味わうためにも、最優先で選択をオススメしたいオプションアイテムがこのPASMだ。

それにしても用意されたテストカーのどんな仕様に乗ろうとも「フロントサスの設定は同一であるものの、リアのスプリング/ダンパー、スタビライザーについては、車両重量や出力の違いを考慮してケイマンSよりもややソフトな設定」という脚を備えるこのモデルの、あまりに濃厚な人車一体感には驚くばかりだった。

まるで自らの手足の運動能力が大幅に増幅されたかのようにも思えるこのクルマの動きには、もはや「感動」を通り越して「畏敬の念」すら覚えてしまうほどだ。

一方、そんな印象を抱かされつつもやはり最後まで心のどこかに引っ掛かるのは、その価格と言うべきだろうか。同じパワーパックを搭載に至った最新ボクスターに対しておよそ50万円増しという設定を「リーズナブル」と評するか否かは、人によって大きく判断が分かれそうだ。(文:河村康彦/Motor Magazine 2006年9月号より)

ヒットの法則

ポルシェ ケイマン 主要諸元

●全長×全幅×全高:4341×1801×1305mm
●ホイールベース:2415mm
●車両重量:1300kg
●エンジン:対6DOHC
●排気量:2687cc
●最高出力:245ps/6500rpm
●最大トルク:273Nm/4600-6000rpm
●トランスミッション:5速MT(6速MT/6速AT)
●駆動方式:MR
●0→100km/h加速:6.1(6.1/7.0)秒
●最高速: 258(260/253)km/h
※欧州仕様

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