2006年1月に日本上陸を果たしたプジョー1007に続いて、2006年6月にはフィアット グランデプントが日本デビューを飾っている。200万円前後で買える実用的なコンパクトカーだが、イタリアやフランスなどラテンのスモールカーには、親しみやすいものがある。その比較試乗をお届けしよう。(以下の試乗記は、Motor Magazine 2006年9月号より)

美しいという言葉が浮かぶグランデプント

日本でもようやく販売が始まったグランデプントだが、このクルマ、すでにヨーロッパでは昨秋のデビュー以来、セグメントリーダーを奪還するのではという売れ行きを見せている。先代プントやスティーロなどが販売的にパッとせず、ヒットに恵まれなかったフィアットにとっては救世主になりそうな勢いだ。

グランデプントのプロジェクトは、次世代FF用のスモールプラットフォームとして開発されたガンマ アーキテクチャーを、今年の英国ショーでデビューすると言われている新型オペル コルサと共用するという青写真のもとに開発が進められた、言ってみればGMとの提携時代の遺産である。

そしてグランデプントはプントの完全後継というわけではなく、文字通りの豪華版としてポジショニングされ、プントは価格競争力の高いベーシックカーとして今後も生産が継続される模様だ。

本国では3種類のガソリンエンジンに4種類(!)のディーゼルを擁するグランデプントの日本仕様は、先にこの1.4L 16バルブ+6速MTの3ドア「スポーツ」と「スポーツレザー」がデビュー、そしてこの秋には1.4L 8バルブに現行パンダでもお馴染みの5速シーケンシャルMTを搭載する5ドア「デュアロジック」が投入される。後者は装備やトリムの違う4グレードが用意され、全6グレードでの展開となる。

3サイズは4050×1685×1495mm。そのディメンジョンはグランデという名に相応しく、すでに二世代前のゴルフあたりに比類しそうな勢いだ。ルーテシア然り、来年には投入される207然りで、全長4mを平然と謳うBセグメントというのもどんなもんかねぇ……と個人的には思う。

しかし、現物をみると思わず納得させられるのは、そのお見事なデザインだ。御大ジウジアーロの手腕は、マセラティ クーペをそのまま嵌めたような顔だけでなく、プロポーションそのものに強く宿っている。

実用を極めることを一義としてパンダやウーノを生み出した、その同じ手から描かれたとは思えない流麗な佇まいは、全幅と全高の数字が信じられないほど。普通、このテのクルマを褒めるのに使わない、美しいという言葉すら思い浮かぶ。

が、室内空間は全長を考えると特段の広さがあるわけではない。プント比で50mmのホイールベース延長ゆえ仕方ない話だが、さすがにジウジアーロのマジックはそこには行き届かなかったという印象だ。

すなわち、伸びた長さの多くは、オーバーハングをうまく使った豊かな顔面に費やされている。ライバル車も含めて、欧州のユーザーがベーシックなBセグメントに求めるものは、実用性のさらなる改善よりもデザインにあることを思い知らされるところだ。

加えて言えば、現状で導入されているグレード「スポーツ」は、仕立ての端々に身をわきまえない「やりすぎ感」が見え隠れする。

内装の幼稚なテイストもさておき、その最たるものは205/45R17という呆れたサイズのタイヤだ。1.4Lエンジンが絞り出す95psを食いかねない、一昔前ならランエボあたりが履いていたようなポテンザはルックス優先で選ばれたものだろう。ともあれクルマの素地に対していい影響があるはずがない。

それでもグランデプントのシャシは、この物騒なタイヤをなんとか履きこなすだけの包容力を備えていた。ちょっと鋭い目地段差や断続的なギャップにはバタバタとバネ下を暴れさせてしまうが、総じて中低速域での乗り心地の損失は少ない。車格を考えれば普通乗りでの痛さは最小限に留められている。

グランデプントで感心させられるのは、そのアシが極低速域からよく動きながらも、高速に至るまで姿勢管理が行き届いていることだ。バネそのものは柔らかめの印象で、トーションビームのリアサスの影響もあるだろうが上屋がヒョコヒョコと揺すられる感じは常に軽くつきまとう。

しかしその先の入力で恐くなるようなロールはしっかりと抑え込まれてもいる。コルサとシャシを共用したと聞けば、時に過剰なまでのコンタクト感を乗り手に伝えるオペルの折り目正しい乗り味を思い出すが、こちらは路面との接触感も程よいところで丸められており、軽快かつしなやかな乗り心地が全力疾走のところまで崩れない。

さらに、音振の「音」の側の処理もフィアットらしからぬ見事さで、高速道路をごく普通に走るくらいまでのところは静かにこなすことができる。もちろんこれは6速MTの効果も大きいだろう。が、トップギアは決して巡航用ではなく、3速からきちんとクロスしたレシオで構成されている。

加えて、大きくトルクが落ち込むことなく65000rpmのレッドゾーンまでシュンと吹けあがるエンジンもグランデプントの美点のひとつだ。回すほどに高音域が高まるサウンドも含め、フィーリング的には16バルブは名ばかりではないと思わせる。とはいえそれは1160kgの重量に対しては決して有り余るほどの力ではない。たとえば6速巡航の高速道路で加速が欲しい時でも、ひとつ、ふたつとギアをまめに落としてパワーを引き出す必要がある。

しかしグランデプントはその作業に煩わしさがない。軽やかに吹け上がるエンジンはピックアップも優れており、ギアもきっちりクロスしていることもあって、たやすく回転を合わせることができる。

そして、ブン回すことにストレスを感じないエンジンを唸らせてもべらぼうなスピードには至らないから、日々の運転にも全力を使い切る愉しみがもたらされる。ついでに言えばアクセルの踏量に対するスロットル開度とクラッチのリンケージポイントの関係も絶妙で、マウントもしっかりしているからエンジンが不快なシェイクを起こすこともない。いかにもMTが主役と言わんばかりにあらゆるエレメントが揃い踏んでいる。そこがイタ車らしいというか、ラテンのスモールカーだなあと思う。

画像: 2005年のフランクフルトショーでデビューしたグランデプント。日本では2006年6月10日に販売が開始された。

2005年のフランクフルトショーでデビューしたグランデプント。日本では2006年6月10日に販売が開始された。

昨今の家族の在りようにピタリとはまる1007

新しいBセグメントの流れの一方に「グランデ」プント的な路線があるとすれば、もうひとつの道を開こうとしているのがプジョー1007ということになるだろうか。

機能にプラスアルファの価値を加える、それはたとえばスズキのSX4のような走りのオールラウンダー的なものかもしれないし、オペル メリーバのような容量勝負的なものかもしれない。

そして1007に込められた付加価値といえば、スライドドアの採用によって貨客の動線を横に広げたことだ。巨大な開口部は後席へのアクセスを容易にするだけではなく、ちょっとした荷物の積載を後ろに回り込まずに済ませることもできる。狭いところでも気遣いなくドアを開け閉めできるというだけではない。

そのコンセプトをきちんと使いこなしてもらう意味も込めて、1007は車中で体をあまり屈めなくてもすむように車高が若干高くなっている。立体駐車場には収まらないものの、アップライトパッケージを採ったおかげで全長も3730mmと、かなり短く収めることができた。

ノーズの感覚さえ把握してしまえば、1007はその短さを武器に込み入った街中でも簡単に取り回すことが出来る。全幅的には10mmの差で3ナンバーとなるが、それをネガに感じることはない。横まで回り込んだリアウインドウのおかげで後端の見切りが良い上に、日本仕様にはバックソナーも標準で備わっている。

運転しやすさという面でみれば、Bセグメントの中ではもっとも扱いやすいクルマだ。おまけにドアの開閉がストレスフリーなのだから、ゲタとしては鬼に金棒である。

そんな便利を味わいながら思うのは、1007が昨今の家族の在りようにピタリとはまるクルマだということだ。同種の日本車ほど後席の居住性に長けているわけではないが、子供1人の3人家族だったり、あるいはペットのいる夫婦だったりという家庭にとって、スライドドアを武器に備えたこのクルマの日常性は代え難いものになるかもしれない。

その上で、1007は走りにもきちんと一家言が備わっている。1200kgになる車重と前面投影面積の高さゆえ、パワー自体はプジョー唯一のシーケンシャルMTを用いてもキッカリという印象だが、豊かな中低速トルクを引き出しての街乗りにはカッたるさは感じない。ただし、グランデプントやルーテシアあたりと比べるとエンジンの音は大きく、ややこもり気味に車内に響く。

低速域ではやや硬さを感じるサスは、高速域になるに従って路面を舐めるようにいなすプジョー的な乗り味に代わっていく。飛び抜けて優れたコーナリングを誇るわけでもないが、不利を固めて作ったような車体を軽やかに曲げる、そして高速でも重心の高い車体をしっかり保持し、ロールセンターの位置を感じさせないそのマナーは、さすがに足まわりに蘊蓄の多いメーカーのお仕事だ。

先にも書いた通り、グランデプントと1007は目指す方向は違えど、共に従来のBセグメントの凝り固まった価値観に突破口を見出そうとする意欲作だと思う。ただし、同じ200万円前後のお金を払う上で、愛車に対する目的をはっきりしておかなければ宝の持ち腐れにもなりかねない。そういう意味ではグランデプントの方が後悔は少ないだろうが、こちらはこの秋にも追加されるプレーンな仕様を待ってみるのもひとつの手だと思う。(文:渡辺敏史/Motor Magazine 2006年9月号より)

画像: 2004年のパリサロンでワールドプレミアを果たしたプジョー1007。日本への導入は2006年1月30日。

2004年のパリサロンでワールドプレミアを果たしたプジョー1007。日本への導入は2006年1月30日。

ヒットの法則

フィアット グランデプント 1.4 16V Sport 主要諸元

●全長×全幅×全高:4050×1685×1495mm
●ホイールベース:2510mm
●車両重量:1160kg
●エンジン:直4DOHC
●排気量:1368cc
●最高出力:95ps/6000rpm
●最大トルク:125Nm/4500rpm
●トランスミッション:6速MT
●駆動方式:FF
●車両価格:224万円(2006年)

プジョー1007 1.4 主要諸元

●全長×全幅×全高:3730×1710×1630mm
●ホイールベース:2315mm
●車両重量:1200kg
●エンジン:直4SOHC
●排気量:1360cc
●最高出力:73ps/5400rpm
●最大トルク:118Nm/3300rpm
●トランスミッション:5速AMT
●駆動方式:FF
●車両価格:199万円(2006年)

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