名機なくして名車なし。2回に分けてお届けするのは、日本で初めて量産化されたV6エンジンである日産のVGシリーズの足跡。Z31型フェアレディZやY31型初代シーマを始め、その恩恵に預かった日産高級車は多い。まずはその黎明期であるSOHC時代にスポットをあてる。

次世代高級車用として国産初のV6ユニット誕生~1983年6月

日産が日本で初めてのV6エンジンを開発したのは、将来的にはFFが主流になり、その場合に直6では不利になると読んだからだ。

もちろん、現実には6気筒エンジンを一度にV6化することは難しく、L型6気筒の後継機としてRB型の開発も並行して進めていた。とは言え将来のⅤ6エンジン普及に備え、日産は直6よりもV6のほうがより「高級」で「高性能」なエンジンであることをアピールする戦略をとる。1983年6月、Y30型セドリック/グロリアでのVG型デビューに際して、「V6は高級車の証し」というキャッチフレーズを採用。3LのVG30Eを筆頭に、2LターボのVG20E・T、そしてNA2LのVG20Eをラインアップした。この新しいエンジンシリーズに「高級」という付加価値を与え、直6エンジンとの差別化を図ることにしたのだ。

ゆえに、最初のVGシリーズは、あくまで近代的でジェントルなキャラクターが与えられていた。基本的なメカニズムは、油圧ラッシュアジャスターを採用したSOHC2バルブヘッドの60度V6、30度オフセット位相クランクによる等間隔爆発、一体型ベアリングキャップ、サイアミーズ吸気コレクターなどが目を引く。こういった基本レイアウトにより、3L版のVG30Eは、87mm×83mmのボアストロークからグロス180ps/5200rpm、26.5kgm/4000rpmのパフォーマンスを発揮していた。

画像: 国産初のV6を搭載したのは日本を代表する高級車セドリック/グロリア。3LのVG30Eは1.4tを超えるボディを軽々と走らせた(写真はセドリック4ドアハードトップV30Eブロアム)。

国産初のV6を搭載したのは日本を代表する高級車セドリック/グロリア。3LのVG30Eは1.4tを超えるボディを軽々と走らせた(写真はセドリック4ドアハードトップV30Eブロアム)。

ライバルを蹴散らした最強ユニットVG30E・T登場~1983年9月

画像: 国産初のV6エンジン誕生から3カ月後、早くもターボ化されたVG30E・Tが登場。SOHC2バルブながら230psのパワーで、Z31フェアレディZは国産最速の座に。

国産初のV6エンジン誕生から3カ月後、早くもターボ化されたVG30E・Tが登場。SOHC2バルブながら230psのパワーで、Z31フェアレディZは国産最速の座に。

VGの真打はY30セドリックの登場から遅れることおよそ3カ月、Z31型フェアレディZの登場とともにやってきた。それがVG30EのターボバージョンであるVG30E・Tである。最高出力はグロス230ps/5200rpm、最大トルクは同34.0kgm/3400 rpm。当時、国産車最速を誇っていたセリカXXに搭載される5M-GEUがグロス175psだっただけに、Z31に搭載されたVG30E・Tは国産車史上最強の高性能エンジンとして、一大センセーションを巻き起こした。

画像: 国産最強の230ps(グロス)を発生するVG30E・Tを搭載したZ31型フェアレディZ。そのデビューは衝撃的だった。

国産最強の230ps(グロス)を発生するVG30E・Tを搭載したZ31型フェアレディZ。そのデビューは衝撃的だった。

基本的にはこのVG30E・TはベースとなったVG30Eにターボを装着しただけのものだったが、V型エンジンならではの108mmという広いボアピッチによって、過給に対するキャパシティは十分だった。VGシリーズは計画段階から段階的なパワーアップを考慮したデザインだっただけに、ライバルとなるトヨタM型がそろそろ限界に近づきつつあったのとは対照的に余裕は十分に与えられていたのだ。ネット230psですら、まだ余裕はたっぷりと残されていたのである。

このVG30E・Tを搭載したZ31型フェアレディZの登場により、国産スポーツカーの性能は世界第一級のレベルに到達。1983年10月に実施されたモーターマガジン誌のテストでは、最高速234.91km/h、0→400m加速14.42秒という記録を樹立した。ちなみにこの記録は、1986年に新型スープラ3.0GT(7M-GTE型エンジン搭載)が登場するまで更新されることはなかった。なおVG30E・TはZ31のほか、1984年6月にマイナーチェンジしたY30型セドリック/グロリアと初代F30型レパードにも搭載された。フェアレディZのインパクトがあまりに強かったせいか、クルマ好きのあいだではあまり話題に上らなかった。

世界初の可変容量ターボを採用したVG20ET(ジェットターボ)登場~1985年6月

画像: 2Lのターボバージョンは全域高性能を謳った世界初の可変容量ターボを採用し、弱点だった低速域を中心に全域に渡るトルク感をを増強した。

2Lのターボバージョンは全域高性能を謳った世界初の可変容量ターボを採用し、弱点だった低速域を中心に全域に渡るトルク感をを増強した。

1985年には、2Lターボ版も大きな進化を遂げている。同年6月にセドリック/グロリアのマイナーチェンジで登場した“ジェットターボ”VG20E・Tがそれだ。ターボの特性はA/R(タービンの入り口面積÷タービン半径)で決まるが、それを可変式にすることで低速から高速までむらのない過給を実現したのだ。

具体的には、ターボの入り口にニッケル耐熱合金製の可変式ノズル(フラップ)を仕込んで吸気面積を可変式とし、低速時の排出ガスに力がないときには入口を絞ってガスの流速を上げてやり、高速時には入り口を大きく開いて抵抗なく排気ガスを通過させる。A/Rは0.21~0.77まで変化して、全域で効率の良い過給が行われるという仕組みである。

画像: Y30型セドリック/グロリアのマイナーチェンジに合わせて投入された“ジェットターボ”(写真はグロリア4ドアハードトップ V20ターボ ジャックニクラウス・バージョン)。

Y30型セドリック/グロリアのマイナーチェンジに合わせて投入された“ジェットターボ”(写真はグロリア4ドアハードトップ V20ターボ ジャックニクラウス・バージョン)。

VG20E・Tは1983年6月のデビュー時にはショートストローク(78×69.7mm)が災いし、低速トルク不足が指摘されていたが、このジェットターボによって大幅にドライバリティを改善することに成功したのだ。そのスペックはグロスで最高出力180ps/6000rpm、最大トルクは同22.5kgm/4000rpmである。

同エンジンは、1986年2月にマイナーチェンジしたF31型2代目レパードにも搭載され、こちらはインタークーラー付でネット155ps/21.3kgmの出力を得ている。また同年10月にマイナーチェンジしたC32型ローレルにも搭載され、こちらはインタークーラーなしでネット150ps/21.0kgmの出力となっていた。(その後も進化を続ける日産VGエンジン。次回はDOHC化され高性能エンジンとしての評価を揺るぎないものにするまでを紹介しよう)

画像: 1986年10月のマイナーチェンジで“ジェットターボ”VG20E・T搭載車を設定したC32型ローレル(写真は4ドアハードトップV20ターボメダリスト)。

1986年10月のマイナーチェンジで“ジェットターボ”VG20E・T搭載車を設定したC32型ローレル(写真は4ドアハードトップV20ターボメダリスト)。

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