2017年11月に登場した第4世代のアストンマーティン ヴァンテージ。フロントミッドにメルセデスAMG製の4L V8ツインターボを搭載し、8速ATとの組み合わせで、最高速は314km/h、0→100km/h加速はわずか3.6秒。このFRピュアスポーツカーは「ベビーアストン」として人気となっている。また、2020年2月にはオープンモデルのロードスターとクーペモデルに7速MTが新たに設定され、さらなる魅力も手に入れている。今回は新刊ムック「Motor Magazine 輸入車年鑑 2020」から、アストンマーティン ヴァンテージ クーペ ATの試乗記をお届けしよう。

トランスアクスル採用で理想の前後重量配分を実現

アストンマーティンの主要モデルといえば、DB11、ヴァンテージ、DBSスーパーレッジェーラの3台。これらは、アストンマーティンにとって最新世代となるプラットフォームやパワートレーンを幅広く共有する兄弟モデルの関係にあるが、なかでも世界的にもっとも売れているのがヴァンテージである。

なぜ、ヴァンテージは売れるのか? 3台の中ではヴァンテージのみが2シーターでボディがコンパクト。ホイールベースは約100mm短い。V12エンジンをラインアップするDB11とDBSスーパーレッジェーラに対してV8エンジン専用となる点もヴァンテージの特徴で、このため価格は比較的お手頃。にもかかわらず前述のとおり基本技術は両車と共通なので、アストンマーティンの真価を優れたコストパフォーマンスで楽しめるから、人気が高いのは当然と言える。

ここで、現行型ヴァンテージの概要を説明しよう。そのボディは前述のとおりDB11やDBSスーパーレッジェーラと同じ「アルミニウム ボンデッド工法」で作られる。これは複数のアルミ部品を接合してモノコックに近い基本骨格を形成。ここにアウターパネルを貼り合わせて軽量かつ高剛性なボディを作り上げるというもの。考え方としてはメルセデスAMG GTに似ているが、AMG GTはスペースフレームに近い構造で、ヴァンテージはよりモノコックに近い。

ちなみにDB9などに用いられていたVH工法もアルミ部材を組み合わせてボディの基本骨格を形成する点では同様だが、アルミニウム ボンデッド工法ではアルミ板とアルミ押し出し部材をリベットや接着剤で貼り合わせているのに対し、VH工法はブロック型のパーツを多数組み合わせてフレームを組み上げるという違いがある。同じパーツから多種多様なボディを作るにはVH工法が有利かもしれないが、軽量かつ高剛性という面ではアルミニウム ボンデッド工法がより有利に思える。

エンジンをフロントミッドに積み、ボディ後方に搭載したギアボックスとの間をトルクチューブで結ぶトランスアクスル方式を用いるのは「近代アストンマーティン」の特徴だが、これもDB11をはじめとする最新世代のアストンマーティンに受け継がれており、当然のようにヴァンテージもトランスアクスルを採用。50:50の前後重量配分を実現している。

一方でヴァンテージがDB11やDBSスーパーレッジェーラと異なっている部分も少なくない。なかでも決定的なのは、ヴァンテージがスポーツカーを名乗るのに対して、残る2台がアストンマーティンの伝統であるグランドツアラーもしくはスーパーグランドツアラーと位置づけられている点。このためヴァンテージは、リアサスペンションの反応をより鋭くするためにリアサブフレームのゴムブッシュを廃して「直付け」とされた。また、リアデフに電子制御式リミテッドスリップデフ(Eデフ)を用いるのもヴァンテージの特徴である(DB11とDBSスーパーレッジェーラは機械式LSDを装備)。

前置きはこのくらいにして、そろそろヴァンテージと日帰りの小旅行に出かけることにしよう。

画像: 低くワイドでおよそ「普通ではない」オーラを発散するヴァンテージ。だがその走りは意外なほどフレンドリーだった。

低くワイドでおよそ「普通ではない」オーラを発散するヴァンテージ。だがその走りは意外なほどフレンドリーだった。

グランドツアラーとして最上級の乗り心地を実現

まずは早朝の空いた東名高速を西に向かう。実はこのテストドライブの10日ほど前に、7速MT仕様のヴァンテージに試乗した。その際にも感じたことだが、デビューからまる2年を経て、乗り心地が大きく洗練されたように思う。もちろん高性能なスポーツカーなので足まわりが柔らかいということはないが、サスペンションの動き出しがスムーズで、デコボコした路面から伝わるはずの振動や衝撃を見事に吸収してくれる。

とりわけサスペンションストロークのごく初期からダンパーがしっかり機能しているようで、本来だったら「ガツン」ときてもおかしくないショックをジワっと滑らかに受け止める。さすがに1輪にだけに大入力が加わると姿勢がいくぶん乱れるが、これはアクティブサスペンションでもない限り防げないだろう。

この種のスポーツカーとして乗り心地は最上級の部類で、これだったらグランドツアラーとしても不満なく使える。その点ではアストンマーティンの血筋を明確に受け継いでいると言える。

V8ツインターボエンジンは例によって扱い易く、レスポンスも良好。エンジン音が低く抑えられているのでロングツーリングでも疲れにくい。ZF製8速ATはスーパースポーツカーによくあるDCTではなくトルコンタイプだが、だからといって変速スピードが極端に遅いということはない。一方で、さすが8速も用意されているだけあってステップアップ比はきめ細かく、100km/h時の回転数は8速:1450rpm、7速:1800rpm、6速:2100rpm、5速:2700rpm、4速:3550rpm、3速:4500rpmと変化幅はわずか。エンジンがフラットトルク型であることも手伝って、これなら「コーナーにギア があわない」という事態には陥らないはずだ。

高速道路を下りて地方の一般道を流す。右へ、左へとターンする山道をゆったりしたペースで流すのは実に心地いい。シートのクッションは分厚く、形状が適切なうえに調整範囲が広いので長時間乗り続けても疲れが溜まることはない。この点もグランドツアラー的な要素として高く評価できるだろう。

画像: 電子制御式デファレンシャル(Eデフ)は、スタビリティコントロールシステムと連携。リア左右輪へのトルク配分は瞬時に行われ、高速走行時にも緻密な制御のもとで高い安定性を保つ。

電子制御式デファレンシャル(Eデフ)は、スタビリティコントロールシステムと連携。リア左右輪へのトルク配分は瞬時に行われ、高速走行時にも緻密な制御のもとで高い安定性を保つ。

Eデフが生み出す強靭かつ安心感溢れるトラクション

しばらく走ると格好のオープンロードがあった。少しペースを上げて、ヴァンテージの実力を確認してみよう。

中速コーナリングを試してもヴァンテージは実に安定していた。神経質な挙動を示さないのは、重心が低いことと前後バランスが優れている証明だろう。タイヤの限界に近づいてくると、Eデフの効果が徐々に明らかになってくる。ターンインでは自然な反応を示すのに、コーナーの脱出でアクセルペダルを強く踏み込むと、あるところでEデフが左右輪締結度が高くなり、力強く直線的に立ち上がろうとする傾向が強まるのだ。

たとえばサーキットでこの特性をうまく活用すれば、優れたトラクションが得られるだけでなくドリフト時にも高いコントロール性を示すはず。この辺に、ヴンテージがスポーツカーを名乗る所以が現れているような気がした。

ただし、路面が強くうねった場所ではボディがコーナー外側の斜め上方に向けて上下動を示すこともある。その意味では、本気で攻めるならサーキットのように平滑な路面が好ましいと感じた。

こうして見てくると、ヴァンテージには実に幅広いキャラクターが備わっていることがわかる。つまり、高速道路ではグランドツーリングを満喫できるほか、ワインディングロードをリラックスして流すときには素直なハンドリングを味わえ、サーキットに行けば本格的なスポーツ走行も楽しめる。この点は、2年前にポルトガルのサーキットで行われた国際試乗会で確認済みである。

しかも、テールゲートの下には小ぶりなスーツケースをふたつ呑み込めるくらいのラゲッジスペースが用意されているほか、コートや小物ならシート後方にも収容できる。キャビンは適度にタイトで、狭苦しいとは感じない。

フロントエンジンゆえに視界は良好で、斜め後方を確認するのも容易。ちょっとした段差であれば難なく乗り越えられるアプローチアングルを備えているのも、ヴァンテージの強みだ。

この辺が、走りに特化した他ブランドのミッドシップスポーツとの、大きな違いかもしれない。すなわち、「実用性の高いスポーティ グランドツアラー」。これこそ、ヴァンテージの姿をもっとも的確に表現した言葉だと思う。(文:大谷達也/新刊ムック「Motor Magazine 輸入車年鑑 2020」より)

画像: 各種操作系をエリアごとに凝縮配置。空調系などロータリー式のちょっとアナログなスイッチ類は、直感的な操作が可能。

各種操作系をエリアごとに凝縮配置。空調系などロータリー式のちょっとアナログなスイッチ類は、直感的な操作が可能。

アストンマーティン ヴァンテージ クーペ AT 主要諸元

●全長×全幅×全高:4465×1942×1273mm
●ホイールベース:2704mm
●車両重量:1530kg
●エンジン:V8DOHCツインターボ
●排気量:3994cc
●最高出力:510ps/6000rpm
●最大トルク:625Nm/2000-5000rpm
●トランスミッション:8速AT
●駆動方式:FR
●タイヤサイズ:前255/40R20、後295/35R20
●車両価格:2056万9000円

■アストンマーティン ヴァンテージ 車両価格(税込み)

ヴァンテージ クーペ(MT):1913万円
ヴァンテージ クーペ(AT):2056万9000円
ヴァンテージ ロードスター(AT):2159万9000円
ヴァンテージAMR ヒーローエディション: 2504万5370円

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