2006年のデトロイトモーターショーでデビューしたメルセデス・ベンツGL550は、その後のプレミアムSUVのあり方に大きな影響を与えた1台と言っていいだろう。メルセデス・ベンツが考える「最上のSUV」とはどんなモデルなのか。その試乗記を振り返ってみよう。(以下の試乗記は、Motor Magazine 2007年1月号より)

SUVにおけるGLクラスはサルーンにおけるSクラス

ついにメルセデス化を極めたSUVが登場したというべきか。Mクラスのモデルチェンジで半ば想像できたことだったとはいえ、メルセデス・ベンツは背の高さから生じる物理的な弱点を、ついに克服しようとしているという印象を強く受けた。結論から言うと、もはや無敵のSUVと言うべきである。サルーン界におけるSクラスのようだ、と言えばよりわかりやすいだろうか。

スポーツカーのように走ることはポルシェに任せ、キビキビと楽しく操れることはBMWに譲り、コストパフォーマンスの高い満足度に関してはフォルクスワーゲンに一歩譲る。

それでいて、それらすべての要素を高いレベルで少しずつ内包しながら、独自の機能性と価値観、つまり安心で安全で速い便利な移動手段であるというメルセデス・ベンツらしい世界を、見事にSUVフォルムで創りだしてみせたのだった。

例えば、友人からプレミアムSUV購入の相談を受けたとしよう。彼ないしは彼女(大型だが女性からの相談も多い!)が、ポルシェカイエンかフォルクスワーゲン トゥアレグかBMW X5で悩んでいるのなら、あっちはああで、そっちはそうだが、こっちはこうだ、と各々の特徴や長所・短所を挙げてみせ、その判断を等しく買い手に委ねつつ、満足度の高い答えを導き出してやることもできるだろう。

しかし、気になる候補として、MクラスもしくはGLクラスが、ほんの少しでも脳裏に浮かんだ相手に対しては、迷うことなくMクラスかGLクラスを勧めると思う。それが、メルセデス・ベンツであるから・・・。

そう、サルーンのときとまるで同じ現象なのだ。メルセデス・ベンツとは、最大公約数的に満足できて、(奨めたことで)恨まれることのない選択肢である。だからこそ、一瞬でもメルセデス・ベンツを考えた人には、それを奨めることで、総合的にみて、幸せなカーライフを送ることができるはず、という基本スタンスにならざるを得ないのだ。MクラスとGLクラスの出現によって、SUVの世界でも、そんな奨め方が有効な時代になった。

メルセデス・ベンツ ファンならばすでにご承知のとおり、GLクラスはいわばMクラスのロングバージョン3列シートモデルであり、基本のメカニズムはMクラスおよびRクラスと共通となっている。すなわち、アメリカはアラバマ州のタスカルーサ工場で生産されるというわけだ。

ちなみに、GLクラスは生ける伝説となりつつあるGクラスにちなんだネーミングではあるものの、後継モデルとは言えない。いまなお売れ続けるGクラスは、もうしばらく生産・併売される予定だからだ。

画像: テールゲートは自動開閉式。ラゲッジルームの最大積載量は2300Lと十分なスペースを確保している。

テールゲートは自動開閉式。ラゲッジルームの最大積載量は2300Lと十分なスペースを確保している。

大きいのに大きく見えない3サイズの絶妙なバランス

では、すでに日本市場にも投入されているMクラスとの比較も交えつつ、新しいGLクラスの具体的な魅力について語ることにしよう。

Mクラスのロングバージョンとは書いたが、ただ単に長くしたというわけではない。3サイズを比べてみても、長さはもちろんのこと、幅でも高さでも巨大化している。感覚的には、全体的なシルエットがプレーンで、もっと背が高いレンジローバーや、幅が大差ないトゥアレグあたりの方が大きく見えるのだが、GL550の全長5100mmという数字は、前出のアウディQ7よりもわずかに長いのだ。ハマーH2を筆頭とするごく少量のアメリカンビッグSUVを除けば、間違いなく、日本の公道上を走る最もデカい乗用車の1台だと言えよう。

必要以上に大きく見えないことの要因としては、3サイズの絶妙なバランスもさることながら、スタイリングのディテールデザインによるところ大きいと思われる。寝かされたAピラーに、フロントから勢いよくリアへ跳ね上がるサイドキャラクターライン、力強く膨らんだフェンダーアーチ、ボディパネルやバンパーなど随所に散見される凝ったプレスラインなどが、モダンでSUVらしい造形に軽快感をかもし出し、重々しさを抑え込む。

前後のアンダーガードプロテクションも鈍く光っており、力強い2本のルーバーを持つフロントグリルやクロームのツインテールパイプと相まって、より一層のダイナミズムを演出しているのだった。クローム縁取りのステンレス製サイドステップのあまりの美しさにためらいながらも足を掛け、ラバースタッドを汚すことにも気が引ける思いをしながら、確実にグリップしてくれるという機能性に感謝しつつ、高い位置にあるドアノブに手を添える。

ドアを開け室内に登りこめば、そこには最新のSクラスほどではないけれども、十分に見栄えのいい空間が広がる。ダッシュボード周りのデザインこそMクラスとほぼ同一ながら、光沢のないライトバーチウッドパネル(従来通りのウォールナットウッドも無償で選択可能)と上質なナッパレザーが目に見える範囲一面を覆い尽くし、さらにメタリックパーツも派手過ぎずほどよく効かされている。レザー張りはドアトリムやアームレストにまで及んでおり、なんとも言えず落ち着いた上質な雰囲気で、満足度は非常に高い。オーディオシステムはハーマン・カードン社製で、DVDナビゲーション付きと、内容的にはフル装備である。

気になる点も少しあって、例えば細かなシボの入ったプラスチックパーツの質感などは、SUVのSクラスというには少々安っぽい印象だ。左ハンドルのみという設定も、今の時代にはそぐわないと思う。

機能上でGLクラス最大の売りとなるのは、3列目にシートが存在することだろう。近年、アメリカ市場に限らず日本においても、治安悪化の傾向からか、子供たちの送迎に便利な3列シート仕様(近所の奥様方が交代で習い事やスポーツ活動の送り迎えをする)を望む声が大きくなり、それがGLクラスの存在意義になっている。

3列シートの座り心地に関して言えば、決してエマージェンシーレベルなどではなく、大人もちゃんと座れるフルサイズセパレートタイプで、カップホルダーなど便利機能も2列目とそれほど変わらず、ちゃんと使えるシートになっていた。ヘッドルームも、ニースペースも十分だ。荷物をたくさん積むユーザーには、3列目シートをボタン1つで電動格納できるのも嬉しい。積載量は、5シーターの状態で1240Lを飲み込み、2シーターとすれば2300Lもの荷物を積み込むことができる。

車名が示すとおり、最新世代の5.5L V8DOHCを積む。最高出力387psと、一昔前のAMG55並のハイパワーを誇る。すでにSクラスやEクラスに搭載されているユニットで、当然ながら、7Gトロニックが組み合わされた。SクラスやMクラスと同じく、ステアリングホイールから手を放さずにシフト操作が可能な、ダイレクトシフトを採用するのも同じ。

Mクラス同様に、4WDシステム「4MATIC」とエアマチックサスペンションを組み合わせる。ダウンヒルスピードレグレーションやオフロードスイッチ(専用セッティングのABS、ASR、シフトタイミング、スロットルコントロールを行う)、ヒルスタートアシストなども備え、悪路対策も万全。アメリカで行われた先行試乗会で経験したが、道なき道をゆく走破性の高さは、もはやプロのオフ・テクニックいらずに達したというべきレベルに進化していた。もっとも、レンジローバーならいざ知らず、日本のユーザーがGL550で道なき道をゆく姿を想像することは難しいがノノ。

スーパースポーツカーにおける最高速度と同様に、オフでの走破性などはクルマ好き口プロレス用アイテムとして脇に置き、われわれが知るべきは、その日常ユースにおける使い勝手とオンロード性能だろう。

感嘆したのは、グランドツーリング性能であった。ロケの都合で、山間部の高速道路を、しかも夜間に走破する羽目になったのだが、そのパフォーマンスたるやSUVにして一部の隙もないもので、直進安定性を筆頭に、コーナーにおける安心感、ブレーキフィールと効き、そしてもちろん相対的に適正レベルと化したV8パワーなど、いずれにも不満な要素が見当たらない。

特に、場面場面における対処性という点で、このクルマのアドバンテージは相当に大きい。どういうことかと言うと、例えば追い越し車線を流れている速度で走っていると仮定しよう。しかも道は、日本の高速道路に多い、ワインディングパターンである。勾配やカントが微妙に変化する状況で、突然、前走車が現れ、進路変更を見せた。通常のSUVに乗っていたならば、そのオーナーだからこそ知っている、急の付く動作のあとに訪れるであろう恐怖におののくような場面において、GL550なら、冷静かつ沈着に、それこそステアリングホイールを切るなりブレーキを踏むなり、好きな動作を駆使して切り抜けられそうだという、安心感に満ちているのだ。

これにプラスして、アメリカ仕様よりもかっちりとした乗り味と、ショックの収まりがよく不快感を微塵も与えない乗り心地、さらにはエアコン吹き出しの音だけが聞こえてくるほどの静粛性など、ドライバーをはじめとする乗員が、平穏に過ごせるという点でも、プレミアムSUV界にライバルが見当たらない。

私は、今現在、長距離高速移動というステージにおいて、GL550に勝るGT性能をもつSUVを知らない。あえて対抗馬をというのなら、同じスリーポインテッドスターのML63AMGしか思いつかないほどだ。だとすれば、GL63AMGなら、最強ということにもなろう。

デイリーユースではどうか。さすがに大きすぎる感は否めないだろう、と思いきや、そうでもないのだから不思議だ。実際、トゥアレグあたりよりも、街乗りのドライブシーンでは小さく思える。物理的に少しだけ幅が狭いということに加えて、中身の凝縮感に優れているからだろう。駐車時などで、ようやくその長さに苦労するといった場面もあるが、狭い道でも気にせず入っていける点など、大きさの演出が上手いなと感心することしきりだった。

もう1つ、こりゃ大きすぎてしょうがないや、と思う場面があった。ワインディングである。

あまりにコーナリングが続くと、さすがに電子制御ではごまかしきれず、物理的な要素が勝って、表面にぽろぽろと出はじめる。連続したコーナーを抜けていくと、収まりも段々と悪くなってくるのだ。

また、そういう場面でのブレーキの多用は、クルマの絶対的な重量をドライバーに正確に伝えることにもつながる。結果、初期制動の物足りなさが顕著に表れ、不安も増す。だからといってGL550の性格を考えれば、ワインディングを積極的に経験したいと思い、結果に不満を覚える人など、ほぼいないだろうが。メルセデス・ベンツGL550は、乗用サルーンにおけるSクラスの存在と同様に、乗用SUVとして、現時点で最高の機能性を有するに至った。スポーツ性やデザイン性など、何かに尖った要件を重視しないのであれば、最高の選択肢であろう。(文:西川淳/Motor Magazine 2007年1月号より)

画像: 試乗車は、内装色ブラック、パネルはライトバーチウッドパネル、本革シートはナッパレザー、ルーフライナーはアルパカグレーという組み合わせ。

試乗車は、内装色ブラック、パネルはライトバーチウッドパネル、本革シートはナッパレザー、ルーフライナーはアルパカグレーという組み合わせ。

ヒットの法則

メルセデス・ベンツGL550 主要諸元

●全長×全幅×全高:5100×1955×1840mm
●ホイールベース:3075mm
●車両重量:2530kg
●エンジン:V8DOHC
●排気量:5461cc
●最高出力:387ps/6000rpm
●最大トルク:530Nm/2800〜4800rpm
●トランスミッション:7速AT
●駆動方式:4WD
●車両価格:1280万円(2006年)

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