ランボルギーニの歴史のなかでもっとも成功作となっているウラカンシリーズ。その最新モデルがウラカンEVO RWDである。このRWDは、後輪駆動であるとともにランボルギーニが本来持つピュアなメカニカルパフォーマンスが運転の楽しさを味わわせてくれる。(Motor Magazine 2020年7月号より)

スーパースポーツカーの新たな規範

スーパーカーブームを知る世代であれば誰もがランボルギーニに特別の感慨を抱いているはず。彼らのことを「スーパースポーツカー界の異端」と呼ぶのは語弊があるけれど、フェラーリに対する対抗馬(牛?)としてのランボルギーニに深い愛着を持つファンは少なくないだろう。

このあたりを深掘りするのはなかなか面白くて、たとえば「巨人、大鵬、卵焼き」を愛する人々と、これと相対するものに心を惹かれる人々との間には常にある種の溝が存在するように思う。本命が好きな人はいつも本命を支持するし、「対抗」好きはついつい「アンチ本命」を応援してしまう。こうしたものは人間の性と同じで生まれ持っているもののような気がしなくもない。

ランボルギーニの創業者フェルッチオ・ランボルギーニとエンゾ・フェラーリの間に実際になにが起きたかについては諸説ありすぎてはっきりとしないが、フェルッチオがフェラーリを凌ぐスーパースポーツカーを自分の手で作るという野心に燃えてアウトモビリ・フェルッチオ・ランボルギーニを立ち上げたのは間違いのないところ。その意味でいえばフェラーリ(=本命)に対するランボルギーニ(=対抗)との位置づけはもともと運命づけられたものだったといえる。

もっとも、これはあくまでも我々が抱くイメージの話であって、製品としてのランボルギーニは常にスーパースポーツカー界の王道を突き進んできたといっていい。そして1999年、ともにフルタイム4WDの可能性を信じるアウディの傘下に入ると、ランボルギーニの信頼性やクオリティは一段と進化。そんな彼らの決定打ともいえるモデルが2013年デビューのウラカンLP610-4だった。ウラカンこそはランボルギーニの伝統を受け継ぎつつも、その価値を未来へとつなぐ金字塔的モデルである。

受け継いだ伝統は、カウンタックに端を発するワンモーションデザインであり、自然吸気マルチシリンダーエンジンであり、スーパースポーツカーメーカーとしていち早く本格的な製品化に取り組んだフルタイム4WDだった。そしてアウディの助けを借りながら、スポーツカーとしての信頼性やクオリティをさらに突き詰めると同時に、限界時のハンドリングや乗り心地といった面ではスーパースポーツカーの新たな規範を打ち立てたのだ。

ウラカンについて述べたいことはたくさんあるが、ここでは安心感と刺激、快適性とスポーツ性といったように、本質的には矛盾したふたつの価値が併存していることを指摘したい。そして、こうした二面性を実現するうえで重要な役割を果たしているのが、ハンドリングではフルタイム4WDであり、動力性能では自然吸気V10エンジンにあると私は捉えている。

つまりウラカンにとってフルタイム4WDは欠かすことのできない重要なエッセンスなのだが、デビューから2年を経た2015年、ランボルギーニは後輪駆動のウラカンLP580-2をリリースする。まさに自己矛盾を起こしたかのようなモデル追加だったが、実際にサーキットで試乗してみると、すんなりと受け入れられるキャラクターに仕立てられていることに驚かされた。

画像: ウラカンがこだわった4WDと自己矛盾を起こすような後輪駆動の追加は、あらたなウラカンの可能性へのチャレンジだった。

ウラカンがこだわった4WDと自己矛盾を起こすような後輪駆動の追加は、あらたなウラカンの可能性へのチャレンジだった。

ワインディングロードではとびきり俊敏なレスポンス

LP580-2は、ただ後輪駆動にしただけでなく、エンジンの最高出力を30ps落として580psとしたほか、サスペンションスプリングを前後ともに柔らかくし、アンチロールバーはフロントを硬め、リアを柔らかめとした。

スプリングを柔らかくしたのは挙動変化を大きくしてハンドリング特性の変化をドライバーが容易に引き出せるようにするためである。アンチロールバーの変更は、フロントを固めたのはソフトなスプリングによりアジリティが低下するのを防ぐためで、リアをソフトにしたのは後輪駆動で不足気味に陥りかねないトラクション性能を補うためだった。

試乗会では、先導するインストラクターが運転するLP610-4を我々がLP580-2で追うスタイルとされたが、コーナーの脱出でインストラクターと同じタイミングでアクセルペダルを踏み込めば容易にオーバーステアに転じて前に進まない。

そこでインストラクターよりも立ち上がり重視のラインをとるとともに、より丁寧にスロットルペダルを踏み込むなどしてトラクションを確保しようと努力することになった。つまり、ただ振り回すだけでなく、クルマを効率的に走らせる知的な作業も求められたのである。

さらにいえば、柔らかな足まわりにより乗り心地が快適になると同時に挙動変化を読み取りやすいという副次的メリットも得ていた。この辺のキャラクター設定は、タイプ997やタイプ991のポルシェ911カレラとカレラ4Sの関係に通じるものがあった。

そして、それからさらに時を経て2019年にはベーシックなウラカン4WDの進化版であるウラカンEVOが登場した。これはフルタイム4WDのスタビリティを生かしつつ、サーキットではトルクベクタリングと4WSで自在にオーバーステアを引き出せるモデルだったが、2020年に入ってその後輪駆動仕様であるウラカンEVO RWDが追加された。つまり、LP580-2の後継モデルである。

しかし、その印象は先代とはまったくの別物だった。詳しいスペックを入手できていないので数値は不明ながら、LP580-2だけでなく4WDのEVOよりもEVO RWDの方がサスペンションは固められているように感じられた。これは、LP580-2と同じ方向性に仕上げられていると勝手に思い込んでいた私には実に意外なことだった。

したがって低速域での乗り心地はウラカンシリーズでもっともパフォーマンス指向の強いペルフォルマンテと肩を並べるレベルで、日常的に乗るならこれがギリギリの線。そのかわりワインディングロードではとびきり俊敏なレスポンスを示すだけでなく、低速域であれほど気になった突き上げもほとんど感じられなくなった。速度を上げた方が乗り心地は改善される足まわりのようだ。

画像: 7速DCTはパドルシフトによる電光石火のギアチェンジを可能にしている。

7速DCTはパドルシフトによる電光石火のギアチェンジを可能にしている。

モデルごとにそれぞれのキャラクターを作り分ける

それにも増して印象的だったのは、挙動変化がしっかりと抑えられているため、LP580-2で見られた極端なオーバーステア傾向が影を潜めたこと。ただし、アクセルペダルをオン/オフすればこれにあわせてノーズの向きがインを向いたりアウトを向いたりする。

私の記憶によれば、その傾向は4WDのEVOよりもはるかに顕著で、コーナリング中はステアリング操作とアクセルワークの精密な連携が求められる。これは実にスリリングな体験だ。

アクセルペダル操作に敏感に反応するスポーツカーはほかにもあるが、多くの場合、そういったモデルは路面のわだちにハンドルをとられて操作がせわしくなったり、やや神経質な挙動を示すケースが多いのである。ところがEVO RWDにはそれがない。路面の不整には影響されることなく、純粋にスロットルワークにだけ反応してくれるのだ。

そんなときに心強い味方となってくれるのが、お馴染みの自然吸気V10エンジンである。5.2Lと排気量に余裕があるため低回転から逞しいトルクを生み出してくれる一方、トップエンドではV10ならではの刺激の強いサウンドと回転フィールを楽しめる。しかも出力特性のリニアリティが高いので、ステアリングと連携させながらのスロットルワークも容易。まさに、このモデルにうってつけのエンジンだ。

それにつけても驚かされるのは、同じウラカンでもモデルごとにそれぞれのキャラクターが明確に作り分けられていること。上級モデルがひとつあって、そこから機能や性能を差し引いていくポートフォリオの作り方とはまったく別の考え方で、モデルの数だけ個性が存在する。

だから、EVO RWDを廉価版とかウラカンラインナップのエントリーモデルと捉えるのはまったくの間違いである。むしろ、「アンチ4WD」として積極的にEVO RWDを選ぶのもランボルギーニファンとしては、大いにアリだろう。(文:大谷達也)

画像: パワーウエイトレシオは2.28kg/psで0→100km/h加速は3.3秒という俊足ぶりだ。

パワーウエイトレシオは2.28kg/psで0→100km/h加速は3.3秒という俊足ぶりだ。

■ランボルギーニ ウラカンEVO RWD 主要諸元

●全長×全幅×全高=4520×1933×1165mm
●ホイールベース=2620mm
●車両重量=1464kg
●エンジン= V10DOHC
●総排気量=5204cc
●最高出力=610ps/8000rpm
●最大トルク=560Nm/6500rpm
●駆動方式=MR
●トランスミッション=7速DCT
●車両価格(税込)=2653万9635円

This article is a sponsored article by
''.