BMWのラインアップの中で「ツーリング」と呼ばれるワゴンモデルは高い人気を誇っている。「駆けぬける歓び」をコアな価値として走りにこだわるBMWにあって、「ツーリング」にはどんな意味が込められているのだろうか。Motor Magazine誌は2007年のBMW特集の中で、あらためて3シリーズと5シリーズに試乗、セダンとの違い、共通性、そして独自の魅力について検証している。(以下の試乗記は、Motor Magazine 2007年1月号より)

セダンよりワゴンの方がステータスが高い!?

エステート、アバント、ヴァリアント、ブレーク、そしてステーションワゴン。世にワゴンボディを示す言葉は数多あるが、BMWの場合はそれをツーリングと呼ぶ。

BMWに限らず、多くのメーカーがセダンにはこうした但し書きを付けないのだから、ワゴンはセダンの派生モデルとして捉えるのが正解だろう。実際、ワゴンボディが生まれた経緯からもそれは証明されている。

その昔、狩りや旅行にクルマを使う際にセダンのラゲッジスペースに不満を感じた人々が、独自に改造して現在のワゴンの原型を作り上げたのだ。当時、クルマを遊びに使い、お金をかけて改造までできるのは相当の好事家であり金持ちだった。そのことから、マスプロ化されたワゴンをメーカーが作るようになった後も、しばらくはセダンよりワゴンの方がステータスが高いと言われた時期もあったほどだ。

しかし、今ではそんな階級差はほとんどない。日本でもヨーロッパでも、必要な人が必要に応じてセダン/ワゴンを自由に選び分けている。

もし、現代のワゴンにセダンにはない独得の持ち味があるとするなら、それはロングルーフと、そこにお約束のように設えられたルーフレールが醸し出す遊びクルマっぽい雰囲気。そして、ガラスで囲われたラゲッジルームに積まれたものを通して見えてくる多様なライフスタイルではないだろうか。

「遊び上手で面白いことをいろいろ知っていそう」。乗る人をそう思わせるような雰囲気は、カチッと畏まったセダンよりもワゴンの方に確かに色濃い。

で、BMWツーリングである。BMWは3シリーズと5シリーズにツーリングを設定しているが、中でも3ツーリングはそうしたカジュアル感が特に強い。元々がスポーティで鳴らすメーカーだけに3シリーズのセダンも相当に軽快なイメージが強いが、そこから想像されるのは都会を精力的に駆け回るビジネスマンといったところ。リアエンドで強く絞り込まれたロングルーフとルーフレール、そして小振りなリアゲートから成る外観は、郊外での様々なアクティビティやスポーツドライブを楽しみつつ進む旅を連想させる。「ツーリング=旅をすること」とはまったく的を射たネーミングと言えよう。

画像: 530i ツーリング(左)と320i ツーリング。

530i ツーリング(左)と320i ツーリング。

3グレード体制となった3シリーズツーリング

現行の3ツーリングは、2005年10月にまず325i、続いて2006年5月に320iが導入されている。セダンに較べるとモデル数も拡充の速度も素早いとは言えないが、この10月には話題のパラレルツインターボを搭載する335iもセダンとともに導入が開始され、ようやくエントリー、ミドル、ハイパフォーマンスの3つから選べる体制が整った。これは朗報だろう。

その中から連れ出したのは320iと325iの2台。まずは初試乗となる320iツーリングから見ていこう。Bピラーから前はセダンとまったく同じ。これは他社の多くのワゴンモデルにも共通することで、乗り込んだコクピットはもはや見慣れた3シリーズのそれと同じである。

当初から気になっていたのは、セダンに対して80kg重くなっている車重が走りにどういった影響を与えているか。6気筒218psの325iは、パワーにそれなりの余裕があるのでほとんど気にならないレベルだったが、4気筒1995ccの150psとなる320iでは話が違ってくるかも知れない。

ところがこれはまったくの杞憂だった。確かに豊富なエンジンラインナップを持つ3シリーズの中で唯一の4気筒モデルとなる320iは、上のモデルと較べるとアクセルを多少一生懸命踏み込まなければいけない印象はある。しかしエンジンはフラットな出力特性を基本としながらも、特に2000〜4000rpmあたりのトルクに厚みがあり、まったく痛痒感なくこのワゴンボディを加速させてくれたのだ。

さすがに大排気量のようなグイグイと来るパンチはないものの、6気筒の重厚感の伴う回転フィールとはまたひと味違った4気筒らしい軽快なレスポンスを、的確なギア比の6速ATで楽しむのは、それはそれで楽しい。

しかもこのエンジン、4気筒だからといってフィール面で大きな見劣りがない所も魅力だ。バランサーシャフトを内蔵するためか、粗い振動はまったく感じさせず高回転まで滑らかに回る。音もマルチシリンダーのようなスゴ味はないものの雑味がなく軽快だ。ちなみに100km/h巡航時の6速での回転数は2200rpm。このレベルでの静粛性も満足のいくものである。

フットワークも良かった。今回連れ出した3台のツーリングの中で、320iは標準仕様だったのだが、それでも減衰がしっかりと効いている上に、関節の動きが実にスムーズなBMWらしい質の高い乗り味は健在だった。タイヤは205/55R16のミシュラン製ランフラット。エアボリュームがあるせいか乗り心地も良質で、ダンピングの効いた足まわりとのコンビネーションも絶妙である。

ところで、4気筒モデルはノーズが軽いのでハンドリングが軽快と一般によく言われるが、BMWは4気筒モデルと6気筒モデルの味わいの差が最も少ないメーカーだと僕は思っている。

今回もその印象は変わらなかった。低速域では比較的どっしり。速度が上がっていくとそれにつれてイキイキとしてくるコントロール性の高いハンドリングは、この320iツーリングでも健在だ。ただステアリングは、操舵力がかなり重めに感じられ、反力も強い。しっかりしているとも言えるのだが、パーキングスピードで狭い場所を取り回す際には「もう少し軽いと助かるな」と思ったのも事実だった。

次に325iツーリングに乗り換える。派手なエアロバンパーとスポーツサスペンション、タイヤはBSのフロント225/45R17、リア255/40R17という前後異サイズの「アクティブMスポーツパッケージ」装着車だ。

僕の場合、アクティブステアリングは、まだ乗る前に頭の切り替えが必要になる。速度域によってステアリング操作量とタイヤの切れ角の比率をバリアブルに変えるこのシステムは、5シリーズに搭載されて最初に日本に入って来た時から較べると、随分と人の感覚に素直にマッチするものとなったが、それでもシャープに切れる低速域では予想よりも向きの変わり方が急で、縁石を越える時など、タイヤの軌跡が想定していたラインよりも手前を通りヒヤッとすることがあるからだ。

誤解のないように付け加えておくが、これは僕がアクティブステアリングの有無を短時間の中で乗り換えることにも問題がある。続けて一台のアクティブステアリング車に乗るのなら1日でそのタイミングは身に付くはずなのだ。そうなると、むしろ手首を返しただけでフルロック近くまで切れる(ロックtoロックは1.9回転)機動性の高さが車庫入れなどに生きてくる。

その証拠に、速度を上げて走っている時の325iツーリングは、実にしっとりしたステアフィールと、適度にキビキビとしたハンドリングで抜群に楽しい。この頃にはアクティブステアリングであることなどきれいに忘れているのだ。切り過ぎたり遅れたりすることもなく常にオンザレール感覚。320iと較べるとロールなどのボディアクションも明らかに小さく、スポーティな味わいをより強めている。

乗り心地はスポーツサスペンションと18インチタイヤのせいで、ギャップを通過した最初の入力は強めだが、減衰の良いダンパーがそれを即座にいなし、後に揺さぶられ感を残さないため嫌になることはない。同じ仕様のセダンを以前に試したことがあるが、ツーリングはそれよりも格段にマイルド。おそらく増した車重と重量配分の違いによるものと推察されるが、そんなこともあって、僕は3シリーズでMスポーツ仕様に乗るならツーリングがベストと密かに確信しているのだ。

エンジンは必要にして十分なパワーという表現が適切だろう。セダンの330iで味わったほどのパンチはないものの、アクセルペダルに少し力を込めれば即座に望む加速がスムーズな回転フィールとともに得られる。平常時は320iでもパワー面に特に不満はなかったが、定員乗車+フル積載のカーゴルームという状況では、325iくらい余裕があった方がありがたい。

画像: 2005年10月に発表/発売されたE90型3シリーズツーリング。写真は2006年5月に追加された320iツーリング。

2005年10月に発表/発売されたE90型3シリーズツーリング。写真は2006年5月に追加された320iツーリング。

乗り味が全体的に重厚感のある5ツーリング

というところで、最後に530iツーリングに乗ることにしよう。5ツーリングは、これまで525i と今回の530iのみだったが、10月に標準モデル最大の4.8L V8エンジンを搭載する550iが加わり3モデルとなった。

ちなみに、5シリーズは全車アクティブステアリングが標準装備。今回試した530iはMスポーツパッケージで、ハーダーサスにBSの245/40R18ランフラットタイヤの組み合わせは、乗り味も相応にハードだった。

しかし硬めでも雑味がないのは325iツーリングとまったく同じ。それにEセグメントということで、サイズも重さもあり、乗り味が全体的に大人っぽい。何より乗り心地に重厚感が出ているし、低速域でキビキビと切れるアクティブステアリングであっても動きがしっとりしているのが魅力だ。

ややペースを上げた走りでも印象は変わらない。320iと325iはいかにも軽快で、打てば響くような全体の挙動から走りの世界にのめり込める。これに対し530iの走りはエレガントだ。ただしBMWのスポーツDNAはこのクラスでも健在で、一度ステアリングを切れば鮮やかな回頭性に舌を巻くことになる。快適性と運動性能を高い次元で両立させているのが5シリーズの大きな魅力である。

また、これは3ツーリングでも感じたが、リアにバルクヘッドを持たないモノスペースキャビンにもかかわらず、路面からの音の侵入が非常に小さく抑えられているのも美点のひとつ。

近年はどのメーカーもワゴンの静粛性には気を使っているが、中でもBMWはセダンとの差異を徹底的になくしているメーカーだと思う。

エンジンは258psの直列6気筒。ツーリングはセダンより130kgほどボディが重くなるため、同じエンジンを積む330i(セダン)などと較べると、あの弾けるようなパンチはやや薄まっているが、それでも走りは十分に軽快だ。ただ、530iでウエルバランスということを考えると、525iツーリングではやや眠たげに感じられてしまうかも知れない。

画像: 2004年に日本に上陸したE60型5シリーズツーリング。525iツーリングと530iツーリングに加え、2006年10月に4.8L V8DOHCエンジンを搭載する550iツーリングが登場している。写真は530iツーリング。

2004年に日本に上陸したE60型5シリーズツーリング。525iツーリングと530iツーリングに加え、2006年10月に4.8L V8DOHCエンジンを搭載する550iツーリングが登場している。写真は530iツーリング。

数値的にはセダンと変わらないラゲッジルーム容積

ところで、ワゴンで注目されるべきラゲッジルームだが、BMWの場合、その容積にはあまり大きな期待を抱かない方が良いと思う。4525mmの全長はセダンと全く同等。トノカバー下のラゲッジルームジ容積も460Lで同一と、ツーリングが積載能力の点でセダンに対し優位に立っているわけではない。5ツーリングに至ってはトノカバー下のラゲッジルーム容積はセダンより20L少ない500Lなのである。

3シリーズに関して言えば、そもそもDセグメント自体がワゴン化するにはボディがやや小さい。確かにDセグも時代と共に大型化の道を辿っているのは確かで、3シリーズも先代より容量は増えている。しかしそれも25Lとわずかなもの。大型化はキャビンを広く取る面ではある程度の効果はあっても、ボディ前後の絞り込みが強いDセグメントの現在デザイントレンドの中ではあまり効果が期待できないのだ。

一方Eセグメントは容量のたっぷりしたワゴンが多いが、その中にあって5ツーリングは容積の確保に意外や淡白で、ラゲッジルームの側壁はタイヤハウスの張り出しに面を合わせた面一トリムとしていたりする。

しかし、だからと言ってBMWツーリングが使えないワゴンというわけではない。リアゲートはセダンでは望み得ない大きな開口部が得られるし、ラゲッジルームもルーフを絞り込んでいるとは言え相応の高さがある。したがってデスクトップ型コンピュータの箱のような嵩のある荷物の収納も可能。これはセダンではできない芸当だ。

ワゴンの魅力とは、セダンと変わらぬ優れたハンドリングを、若干増したユーティリティとともに楽しめるところにある。荷物を積む方に重きを置くのであれば、今どきミニバンでもSUVでも選択肢は豊富にあるわけだ。

BMWのツーリングの場合は、そのユーティリティの解を荷室の絶対的な広さではなく、日常の使い勝手に求めた。それは、使い勝手を徹底的に追求したラゲッジルームまわりの艤装に見て取れる。3シリーズと5シリーズのいずれもが小物の収納と取り出しに便利なガラスハッチを備える上に、これをトノカバーと連動させて、ハッチを開けると自動的に跳ね上がるようにしてあるのだ。

また、カーゴネットと一体式になったトノカバーは荷物に応じて頻繁に取り外すものだが、その操作を差し込み&ロック式として使い勝手を高めた。これは世間一般に見られる伸縮式よりはるかに親切な造りだ。

その本質的な魅力をスポーティな走りに置きながら、旅に便利な機構をさりげなく取り入れているツーリング。まさに道程を楽しみながら進めるクルマでの旅行の楽しさを知り抜いた、BMWらしいワゴン像と言えよう。(文:石川芳雄/Motor Magazine 2007年1月号より)

画像: 3シリーズ/5シリーズツーリングともリアゲートだけでなく、ガラスハッチのみ開閉させることが可能なのが特徴。両車ともトノカバーを閉めていた場合、ガラスハッチを開けると自動的にカバーが開く。

3シリーズ/5シリーズツーリングともリアゲートだけでなく、ガラスハッチのみ開閉させることが可能なのが特徴。両車ともトノカバーを閉めていた場合、ガラスハッチを開けると自動的にカバーが開く。

ヒットの法則

BMW 320i ツーリング 主要諸元

●全長×全幅×全高:4525×1815×1450mm
●ホイールベース:2760mm
●車両重量:1540kg
●エンジン:直4DOHC
●排気量:1995cc
●最高出力:150ps/6200rpm
●最大トルク:200Nm/3600rpm
●トランスミッション:6速AT
●駆動方式:FR
●車両価格:437万円(2006年)

BMW 325i ツーリング 主要諸元

●全長×全幅×全高:4525×1815×1450mm
●ホイールベース:2760mm
●車両重量:1580kg
●エンジン:直6DOHC
●排気量:2496cc
●最高出力:218ps/6500rpm
●最大トルク:250Nm/2750-4250rpm
●トランスミッション:6速AT
●駆動方式:FR
●車両価格:555万円(2006年)

BMW 530i ツーリング 主要諸元

●全長×全幅×全高:4855×1845×1490mm
●ホイールベース:2890mm
●車両重量:1780kg
●エンジン:直6DOHC
●排気量:2996cc
●最高出力:258ps/6600rpm
●最大トルク:300Nm/2500-4000rpm
●トランスミッション:6速AT
●駆動方式:FR
●車両価格:771万円(2006年)

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