2006年、日本において国産登録車、輸入車の販売が伸び悩むなか、BMWジャパンは好調な販売を記録した。2006年10月には人気の335iクーペに続き、セダン/ツーリングにも335iを設定している。話題の3L直噴ツインターボエンジンを搭載したシリーズトップモデルはどんな走りを見せたのか。当時の試乗の模様を振り返ってみよう。(以下の試乗記は、Motor Magazine 2007年2月号より)

モデル名は最大トルクの数値に由来する

335iクーペ(E92)に初搭載された3Lツインターボエンジンが、セダン(E90)とツーリング(E91)にも搭載され、新しいラインアップができあがった。これによりセダンもツーリングも335iが3シリーズのトップモデルとなった。330xi(4WDセダン)は残るが、他の330iはラインアップから消えることになった。

3シリーズの基本ラインは320i、323i、325i、330xi、335iという5車種。直列4気筒は2Lの320iだけで、これには6速ATだけでなく6速MTも設定される。MTは自動車教習所用として多くの需要があるが、クラッチペダルを動かしてスポーツドライビングを愉しみたいというドライバーにも人気がある。

それぞれのエンジンの特性は、最大トルクを見るとがわかりやすい。320i用のエンジンコードはN46B20Bで200Nm/3600rpmの最大トルクを発揮する。

323iと325i用は同じ直列6気筒2.5Lで、ハードウエアは同じである。コンピュータチューンの違いによって車両のネーミングを変えている。エンジンコードはN52B25Aで323i用は230Nm/3500~5000rpm、325i用は250Nm/2750~4250rpmの最大トルクを発揮する。

330xi用の直列6気筒3LはN52B30Aというエンジンコードで300Nm/2500~4000rpm、そして335i用は直列6気筒3LツインターボでN54B30Aと呼ばれ、400Nm/1300~5000rpmを発揮する。エンジンコードがN52と呼ばれているのがマグネシウム・アルミニウム合金のシリンダーブロックを持ったエンジンだ。N54は直噴で燃費を稼ぐタイプで、他の4種類と違ってバルブトロニックを採用していない。

200Nm、230Nm、250Nm、300Nm、400Nmというように最大トルクで差をつけているわけで(もちろんパワーも違うが)、それにクルマのネーミングも合わせているのだ。

では400Nmを発揮する335iはなぜ340iでないのか? という疑問が起こるだろう。その答えは燃費である。335iは4L並の燃費ではなく、経済的なこともクルマのネーミングに関係しているのだ。

E91は325iツーリングが最初に出て、2006年5月に320iツーリングが追加された。そして2006年末に335iツーリングが加わって3車種になった。

画像: 335iセダン、335iツーリングに搭載される3L 直6直噴ツインターボエンジン。30ps/40.8kgmの出力/トルクを発生。きわめて低いエンジン回転域でも大きなブースト圧を得られるためターボラグは少なく、最大トルクも1300rpmから発生させる。

335iセダン、335iツーリングに搭載される3L 直6直噴ツインターボエンジン。30ps/40.8kgmの出力/トルクを発生。きわめて低いエンジン回転域でも大きなブースト圧を得られるためターボラグは少なく、最大トルクも1300rpmから発生させる。

Mスポーツパッケージにはパドルシフトを搭載する

今回試乗したのは335iツーリングと335iセダンの2台である。

インストルメントパネルを見ると、通常は瞬間燃費計があるタコメーターの下がエンジンオイル温度計に変わっていた。瞬間燃費はオンボードコンピュータによって見ることができる。ウインカーレバーの頭をテアリングコラム側に押していくと、航続距離、平均車速、平均燃費、瞬間燃費の順に表示されるから、デジタルではあるが目安になるだろう。

瞬間燃費を表示しておいて一旦エンジンをかけ直すと、この部分はオドメーターとトリップメーターの表示になるが、再びウインカーレバーの頭を押すと、今度は最初に瞬間燃費が出てくるようになっている。航続距離に関しても同様だ。

タコメーターの周囲にはエンジンの冷却水の温度によって変化するゼブラゾーンがある。7000rpmからがレッドゾーンで、通常は6800rpmからがゼブラになっているが、水温が低いと4500rpmくらいからゼブラになる。

冷却水が最適運転温度になるまでにBMW車は短時間しかかからない。だからゼブラが低い回転数を示しているのを見る時間も短い。これは早くきれいな排気ガスにするためと、早く良い燃費で走るためだ。水温が低いときにはエキゾーストパイプから水蒸気が見えるが、この2台を借り出して追従しているとき、この短い時間に面白いことを発見した。

それは信号待ちでは左右に分かれた2本のエキゾーストパイプから水蒸気が見えるが、アクセルペダルを踏み込んで走り出すと右側だけしか水蒸気が出ない。そして回転が上昇していくとまた左右から水蒸気が見えるのだ。335iクーペの発表時に、排気音をつくるために左右のマフラーを連結させて低回転域では右側だけから排気させている、と聞いたことを思い出した。でもアイドリング時に左右から出てくることは今回初めて知った。

BMWの6気筒エンジンは昔から2本並んだエキゾーストパイプを持っているが、アイドリングも含めて低回転では排気ガスは1本からしか出てこない。これはシャッターバルブを設けてコントロールしているからで、これに気が付いたオーナーが故障かと思ったという実話がある。335iではアイドリングでも左右から出ることが進化(!?)だ。

試乗した335iツーリングにはMスポーツパッケージが装備されていた。エアロパーツが付けられ、車高が15mm低くなり、かためられたMスポーツサスペンションになる。タイヤとホイールも変わり、フロント225/45R17 91W、リア255/40R17 91Wというファットなサイズになる。他にセミバケットタイプのスポーツシート、ハンドルもMスポーツ仕様に変わる。

ボクがもし買うとしたら、Mスポーツパッケージを選ぶだろう。その一番の理由はパドルシフトが付けられるからだ。

パドルシフトはM3のものとはハードウエアもコンセプトも別で、サーキットというより日常ドライブで使いやすくなっている。またこれはユニバーサルデザインとして見たときにも優秀だと思う。

ステアリングスポークの上側に見えるアルミ風のボタンを押すとシフトダウン。これは左右にあり、どちらでも前方向に押せばダウンである。この作業はたいがい親指で押すだろう。シフトアップはパドルを手前に引く。これはハンドルの裏側に回っている指で引けばいい。これも左右どちらでやってもいい。右手だけあるいは左手だけでシフトアップ/ダウンをすることもできるし、左手でダウン、右手でアップということも可能だ。

サーキット走行では大きくハンドルを切ることはないから、右でアップ、左でダウンという単純な方法がいいだろう。しかし一般道のワインディングロードを走るときにはいろいろな要素が考えられる。そのときにハンドルがどの角度だろうと押せばダウンというのはわかりやすい。

今までのMモデル以外のBMWのカタログモデルでも、このタイプのパドルシフトだったが、335iになって進化したのはDレンジのままでもパドルシフトするとしばらくの間、臨時にマニュアルシフトができることだ。アクセルペダルを踏み込んで加速状態だったり、アクセルペダルを戻して減速状態だったりすると、この臨時のマニュアル状態が長く続く。しかし一定のスピードになるなどGの変化が小さくなったところで元のDレンジに戻る。もちろんDレンジから左に倒してやれば、また戻すまでパドルシフトが優先される。これはポルシェとアウディが先に採用しているが、なかなか良いプログラムだ。

シフトダウンするときにパドルを押すとちゃんとエンジンが自動的にブリッピングしてくれ、素早くシフトダウンしてくれるのがMTのように感じられるから、ドライビングをさらに愉しくしてくれる。

日本仕様の335iはセダンもツーリングもAFS(アクティブ・フロント・ステアリング)が標準装備になっている。これはパーキングスピードではロックtoロックが2回転弱でとてもクイックで楽だ。100km/hを越えたあたりでノーマルのギアレシオになり、もっとスピードが上がると逆にダルになる。今回も高速道路を走っているときは安定していて、市街地ではクイックなことを体験している。違和感がないから、とても扱いやすい。

画像: 3シリーズツーリングに追加設定された335iツーリング。3シリーズツーリングはこれで320i、325i、335iと3グレード展開となる。今回の試乗車は335iクーペにはないMスポーツパッケージ仕様。

3シリーズツーリングに追加設定された335iツーリング。3シリーズツーリングはこれで320i、325i、335iと3グレード展開となる。今回の試乗車は335iクーペにはないMスポーツパッケージ仕様。

セダンとツーリングの乗り味には差を感じない

ハードコーナリングは断然Mスポーツサスペンションが有利だ。かなり頑張ってコーナリングしながらアクセルペダルを踏み込んでコーナーを脱出しようとしたときに、リアがグッと踏ん張って400Nmの強烈な駆動トルクをがっちり受け止めてくれる。そのくせ、前が逃げるような挙動は出ず、ドライバーの狙ったラインをトレースしてくれる。

今回の335iセダンはノーマルサスペンションではあるが、そもそも335iというだけで並以上にはかためられている。それでもMスポーツパッケージの255というリアタイヤには、前後とも225/45R17 91Wではかなわない。335iの強烈なトルクでトラクションを掛けるとややリアが負けそうになる。しかしクルマの姿勢が大きく崩れることなく、やや沈み込んだスタイルでコーナーを脱出する姿もなかなかカッコイイと思った。もちろんこの形できれいにライントレースしてくれる。

こうやって走っていると、セダンとツーリングの差をまったく感じることはない。乗り味の違いは、ノーマルサスペンションかMスポーツか、ということにすべて集約されていると言える。(文:こもだきよし/Motor Magazine 2007年2月号より)

画像: 335iセダン。330iにかわって、3シリーズセダンの旗艦モデルとして設定された。

335iセダン。330iにかわって、3シリーズセダンの旗艦モデルとして設定された。

ヒットの法則

BMW 335iツーリング 主要諸元

●全長×全幅×全高:4525×1815×1450mm
●ホイールベース:2760mm
●車両重量1690kg
●エンジン:直6DOHCツインターボ
●排気量:2979cc
●最高出力:306ps/5800rpm
●最大トルク:400Nm/1300-5000rpm
●トランスミッション:6速AT
●駆動方式:FR
●車両価格:688万円(2006年)

BMW 335i 主要諸元

●全長×全幅×全高:4525×1815×1440mm
●ホイールベース:2760mm
●車両重量1620kg
●エンジン:直6DOHCツインターボ
●排気量:2979cc
●最高出力:306ps/5800rpm
●最大トルク:400Nm/1300-5000rpm
●トランスミッション:6速AT
●駆動方式:FR
●車両価格:668万円(2006年)

This article is a sponsored article by
''.