GRヤリスやGRスープラの登場で注目を浴びることになったGRことGAZOO Racing(ガズーレーシング)。そしてトヨタのワークスチューナーとして知られるTRD。いずれもトヨタのモータースポーツの名称としてそのブランドイメージを確立している。では、このふたつにどんな違いがあるのか。

GAZOOの語源は「画像」。現在はモータースポーツ部門のカンパニー

GRスープラに続いて、GRヤリスも登場した。トヨタファンでなくても多くのひとがGRは、GAZOO Racing(ガズーレーシング)の頭文字を表していることをご存じのはずだろう。しかし、そもそもなぜGAZOOなのか? これを知る人は意外に少ない。その元になったのは現在の社長である豊田章男氏がトヨタに入社(1984年)してからのことだ。

きっかけは豊田氏が担当した事業のひとつ、中古車インターネット販売の構築である。インターネットがまだ一般的ではなかった時代に、まして中古車をネットで扱うのは難しいというのが定説だった。そこで、ユーザーがクルマを確認する手段として、ディスプレイで写真を見せることにした。今ではネット販売は一般化したが、当時は手探りの状態でディスプレイの端末を置いてくれるコンビニを探し回ったという。このクルマの写真こそがGAZOOの語源で「画像」を意味している。

画像: GAZOOの語源は「画像」。現在はモータースポーツ部門のカンパニー

豊田氏は生粋のクルマ好きであり、レースやラリーなどのモータースポーツに参戦していることは有名。世界の自動車メーカーのトップでもドライビングテクニックは屈指と言われ、トヨタのテストドライバー最高ランクの「マスタードライバー」でもある。レース好きだが実際にレース活動できるようになったのは社長(第11代)に就任する前後だ。

実は、親であり第6代の社長を務めていた豊田章一郎氏からモータースポーツに参加することを禁じられていたからだ。モータースポーツは楽しいし、ドライビングテクニックを身に付けることで安全運転につながるが、事故で命を落とす危険性もある。豊田章一郎氏は、そこを心配してトヨタ関連のモータースポーツチームであるTRD(トヨタレーシングデベロップメント)やトムスに「章男が来てもレーシングカーに乗せるな」と指示していた。トムスの現取締役会長兼ファウンダーである舘信秀氏は、レーサーだった息子の舘信吾氏をGTスープラの練習走行中に起きた事故で亡くしているため、こうした指示に同意したのだろう。

そんな経緯もあって、社長に就任してからはモータースポーツ活動に力を入れる組織としてGAZOOレーシングを設立。自社と関係の深い組織を巻き込むのではなく、「いいクルマを作るため」あえて自身でいちから始める道を選んだのではないだろうか。2016年4月にカンパニー制度を導入したトヨタの中で、GAZOOレーシングは当初ヘッドオフィス扱いだったが、現在ではひとつのカンパニーへと昇格している。

画像: TRDによって開発されたコンプリートカー、カローラアクシオGT(奥・2009年)とカローラフィールダーGT TRDターボ(手前・2010年)。このほかにもトヨタ86をベースとした「14R-60」やMR2ベースの「TRD2000GT」などもあった。

TRDによって開発されたコンプリートカー、カローラアクシオGT(奥・2009年)とカローラフィールダーGT TRDターボ(手前・2010年)。このほかにもトヨタ86をベースとした「14R-60」やMR2ベースの「TRD2000GT」などもあった。

一方のTRDの歴史は古く、豊田章男氏生誕(1956年)と同じ年代にまでさかのぼる。当時はモータリゼーション到来によって新車だけでなく中古車需要も大きく高まり、1954年にトヨタは下取りしたクルマを再生させる事業を開始するためトヨペット整備株式会社を設立。その中の競技車両開発部門として1965年に「特殊開発部」が設置され、これがTRDの出発点となる。

その後のモータースポーツ人気の高まりと、レースでの好成績が新車販売に大きく影響することから、スポーツパーツなどを開発・販売するトヨタスポーツコーナー(TOSCO)が1974年に新設、1976年には商標変更によりTRDが誕生している。その後もモータースポーツでの活躍やコンプリートカー・スポーツパーツの開発を行い、現在ではトヨタカスタマイジング&ディベロップメント社に統合されて、ブランドは今も継続している。

つまり現在、トヨタ直系のモータースポーツ活動の役割は社内カンパニーであるGAZOOレーシングが担っているわけだ。(文:丸山誠)

This article is a sponsored article by
''.