34年間熱望された国産連節バスを、いすゞと日野が実現
連節バスと聞いて「ボルボね?」と連想するのは、「つくば科学万博 85」か、エアポート・リムジンバスを知る世代だろう。路線バスの1.6倍に相当する約18mの全長と路面電車のような外観の連節バスは、欧州ではごく普通に見られるが、日本でデビューしたのは1985年のつくば科学万博だった。
1970年の大阪万博以来の巨大イベントに、いかに大量の観客を輸送するのか? その決め手として100両ものボルボ B10M連節バスが投入された。万博閉会後、80両のバスは海外に転売され、16両が都心と成田空港を結ぶ高速バスとして使われた。ほぼ高速道路限定で走行を認められることになるが、渋滞時の回避ルートが認められなかったため、長く運用されることはなかった。
その後も何度か連節バスの運用は試みられるが、拡散したとは言えない空白の時代が続いた。しかし、平坦で道路環境の良い新興都市から、新たな設備や要員・準備期間を必要とせず、1車両で大量の乗客を運べる連節バスが注目され始める。同時に今世紀に入ると、バス業界は慢性的な乗務員不足が深刻化していた。
連節バスは「永久連結」の観点から、トレーラーのように牽引免許を必要とせず、従来の乗務員育成の延長で運用ができるという大きなメリットもあり、整備された道路環境を持つ新興都市での導入が目立つようになった。他方、ダイムラー・ベンツやネオプランなど欧州メーカーの連節バスは、取り扱いが国産バスのようにはいかず、とくに保守整備の部品調達や整備士養成の面から国産車が待望された。このような要望から登場したのが、ジェイ・バスのハイブリッド(※)連節バスだ。
※ジェイ・バス:いすゞと日野の合弁会社。2004年から本格稼働。いすゞが路線バス、日野が高速/観光バス製造と大別できるが、車体とパワーユニットでも分業化し、相互供給している。
車体はいすゞ エルガ型がベースで、約18mの車体に120人の定員。ノンステップフロア+ニーリング機構のエアサス、幅広ドアを装備する。パワーユニットは日野製で、連節バスは車体総重量24.6トンと従来型バスの約1.8倍もあるため、260ps級から360ps(265kW)級の同社の高速観光バス、セレガの主力エンジンであるA09C+ハイブリッドシステムを搭載。
モーターの出力は90kW。発進時と加速時に作動し、回生時の電力は運転席真上のニッケル水素電池に蓄えられる。日野製の7速AMT/自動変速マニュアル式ミッションとの組み合わせで、走行状況に最適なモーター/エンジン/ギアを選択し、スムーズな走行と省エネ効率を生むシステムになっている。
連節部は実績を重視し、ドイツのヒューブナー社の連結器+幌を採用している。牽引式ではなく、後車部の駆動輪でプッシュ走行させるため連結器は大きく、またいかにも強力そうなオイルダンパーが蛇行を防いでいる。無論、電車よりも急な斜面や凹凸路を乗り越えるため、左右各54度だけでなく、上下にも各7度折れ曲がる構造となっている。
最新の国産バスだけに、2020 東京オリンピック & パラリンピックも視野に入れた先端技術も導入している。車体周囲を把握しやすいようカメラ & モニターによる視覚支援や、バス停前に誘導線を設けることで、専用プラットフォームなら中央扉を45mmまで寄せて停車できる「正着制御」。協調型車間距離維持支援や衝突防止警報などのシステムも装備し、乗務員の負担低減を図っている。
また、乗務員や後車室に万一異常が起きた場合、客室のボタン操作で乗客と周囲の交通への危険を最小限に抑えながら、バスを安全に停車させる緊急運転停止システムのEDSSも装備されている。新興都市部で、国産連節バスが往来する日はすぐ近くまで来ているのだ。(文 & Photo CG:MazKen)
■ジェイ・バス ハイブリッド連接バス 主要諸元
●全長×全幅×全高:1799×249.5×326cm
●パワーユニット:A09C+ハイブリッドシステム
直列6気筒 SOHC24バルブ
コモンレール燃料噴射システム
インタークーラー付ターボ
●排気量:8866cc
●最高出力:265kW/1800rpm
●モーター出力:90kw
●トランスミッション:7速AMT