2007年3月、プジョー207が日本に上陸している。前年2006年に欧州でデビューし人気を集めていたコンパクトモデルは、日本でもその登場が待ち望まれていた。そこでMotor Magazine誌では上陸まもない「207GT」をさっそくテストしている。今回はその試乗の模様を振り返ってみよう。(以下の試乗記は、Motor Magazine 2007年5月号より)

効率がよいだけでなく強い個性が与えられた

昨年2006年に欧州で登場したプジョー207が、いよいよ日本に上陸を開始した。207は日本市場でも成功を収めた206の後継車として登場、欧州ではすでに昨年30万台も販売したという。

新しい207がどんなクルマに成長したのか、一泊二日のドライブを通して検証してみることにしよう。今回は「207GT」をドライブのお供にした。

欧州車といっても207はBセグメントに属するから、多くの日本車が分布する200万円台の価格帯に入る。つまり新社会人でも手が出せるだろうことも207の魅力だ。結論を先に言ってしまうと、今回のドライブで207が価格以上の魅力を持っていることを発見した。そこを深く掘り下げてレポートしよう。

207の魅力のひとつは何といっても「個性」である。その代表はエクステリアデザインだ。単に効率だけを求めたデザインではなく、そこには躍動感がある。さすがフランス車という感じで、この小さなボディに動物的なイメージを与えている。その動物はネコ科だが、単に可愛らしいだけのペットではなく、獲物を狙っている野生動物に近い。後ろ足は踏ん張り、今にも駆け出しそうな雰囲気がある。

新しい顔も207の大きな個性だ。最近のプジョーは大きな口を開けたようなフェイスデザインになっているが、特に207は顔が小さいだけに口の大きさが目立つ。

さらにヘッドライトの大きさが並外れている。78cmというその長さは、横から見たときにボンネットの約3分の2を占める。ライトユニットの中に片側にいくつかの丸いライトが見える。レンズが組み込まれた内側のライトがロービーム用。その外側のリフレクター式がハイビーム用だ。普通はロービームが外側なのに、この並び方はユニークだ。

形状や配置、デザインも含めて、恐らく日本車ではここまで大胆なことはできないだろう。批判を恐れずやってのけるところがフランス流でありプジョー流なのだ。

さらにシエロとGTにはコーナリングランプが備わる。固定式ディレクショナルヘッドランプと呼ばれ、ハンドル切り角が25度以上(車速によって50度)でコーナリング時に進行方向を照らすように補助ランプが点灯する。ウインカー作動時には車速にかかわらずハンドル角度が20度になると歩行者や自転車を照らすようにコーナー内側を照らしてくれる。曲がる方向のサイドが明るくなるから、暗い道を曲がるときには障害物を発見しやすくなるのを実際にボクも体験した。これは歩行者側からもクルマが曲がってくることを知ることができ安全だ。

この新しいフェイスデザインに対しては、ボクは賛成派である。どのメーカーなのかも区別が付かない顔を持つ日本車が多いが、これではこだわってクルマを買う価値はない。どうせ乗るなら強いアイデンティティがある方が、持つ悦びと運転するときの嬉しさも倍増するだろう。

個性の強調と一般ウケは背反するものかもしれない。しかし新しいモデルになってすぐに人気を集めるより、じっくりと味を出して数年かかって人気が上昇する方が長持ちするデザインであり、これが欧州流といえる。時が経っても古くならないのが良い個性なのだ。

画像: 2007年3月、日本上陸を果たしたプジョー207。今回の試乗車は207GT。

2007年3月、日本上陸を果たしたプジョー207。今回の試乗車は207GT。

拡大した3サイズだが後席居住性は先代と大きくは変わらない

ではちょっと大きめのドアを開けて乗り込んでみよう。シートがしっかりしているというのが第一印象だ。ここも割り切ったデザインをしている。しっかりしたクッション部はふわつかずお尻と大腿部を支える。これはかなりスポーティなクルマだと走り出す前に感じるだろう。骨盤が起き、背中が伸びてバックレストに沿っていく感じがいい。身体がシートにフィットしてクルマとの一体感が生まれる。

フランス車のシートはソフトだけどフィットするというイメージを持っていたが、207GTのシートは別モノで、完全にスポーティに振っている。この割り切りが良い。シートは50mmのハイトコントロール(ラチェット式)が備わり、ハンドルはチルトとテレスコピックの動く範囲が大きいので、多くの体型にフィットするだろう。

207になってボディサイズはひと回り大きくなっている。206より全長で195mm、全幅80mm、全高30mm、ホイールベース100mmという具合だ。室内寸法はこの外寸より広がっている。幅が105mm、高さが50mm大きくなってゆとりがある。しかし室内長は20mmしか大きくなっていない。室内容積が大きくなったのは主にフロントシートで、リアシートの居住性は206と大きな差はない。2ドアのGTの後席は、ボクの座高ではヘッドクリアランスがミニマムだ。

こうなるとリアシートのスペースをもっと大きくして欲しいという声が聞こえてきそうだが、そのためにプジョーは307を用意しているのだ。この室内寸法とレイアウトから207はあくまでもBセグメントの位置をわきまえたクルマ創りをしていることが伺える。これも207の正しい個性作りだと思う。

ダッシュボード上の中央部にはマルチファンクションディスプレイがレイアウトされる。時計、日付、外気温、航続距離、瞬間と平均の燃費表示、平均速度などオンボードコンピュータからの情報を表示。バックソナーは音だけでなくこのディスプレイにも表示される。マルチファンクションディスプレイ液晶表示の角度の問題で、偏光サングラスを通すと文字がやや薄くなるが確認することはできる。

このディスプレイの下に5人分のシートベルトのモニターが並ぶ。シートベルトをすると赤が緑に変わるのだ。前席シートベルトの警告灯はあるが後席3人分の警告灯は初めて見た。それも一人一人独立した警告灯だからドライバーは明確に分かる。207がいくらユーロNCAPで5つ星を取ろうが、シートベルトをしていなければこの5つ星は役に立たないということを、メーカーがユーザーに知らせているのである。これは他車も真似してほしい部分だ。

ボクは比較的アップライトなドライビングポジションを取るが、それでも207の大きくスラントしたボンネットは見えない。正確な車両感覚を掴むまでは少し慣れが必要だ。フロントバンパーと停止線を合わせて停めようとしたら、ボクのポジションから見たときには、停止線の延長線が右側ドアミラーの下あたりに来たときだ。これはアイポイントがどこかによって異なるから、個人でチェックするしかない。そうは言っても、そもそもBセグメントのサイズだから、市街地走行や駐車でそう苦労することはない。

ボンネットが見えなくてAピラーも寝ているデザインではカーブや交差点などでは死角が気になることがある。しかし207ではさほどAピラーが太くないのとフロントのスカットルよりサイドのグリーンハウスが低くなっているから、気になるほどの死角はない。三角窓より後ろ側にドアミラーがレイアウトされているから、三角窓が有効に使えるのもメリットになっている。

タンデム式2本ワイパーは右ハンドル用に変えられ左向きに寝ている。運転席側は大きなブレードで、これは気持ちよく拭いてくれるかなと思えた。しかし実際に雨が降ってきてワイパーを動かすとAピラーまで距離があるところでワイパーアームがターンしてしまい、ギリギリまで拭いてくれないのでAピラーが太くなったような死角ができた。ワイパーの作動角をもう少し大きくしてもらいたい。ハイスピードでのオーバーシュートや高速走行時の風の引っ張られなどで予定より大きく動いてしまうことも想定してマージンを取っているのだろうが、普段のためにそこは工夫してもらいたい。

画像: 207シリーズの中にあって、スポーティバージョンに位置づけられる「207GT」。乗り心地は意識的に硬めとなっているが、揺すられるような下品な振動はない。

207シリーズの中にあって、スポーティバージョンに位置づけられる「207GT」。乗り心地は意識的に硬めとなっているが、揺すられるような下品な振動はない。

太いトルクでATのような運転も可能なMT

207のエンジンは横置き直列4気筒1.6L DOHC16バルブだが、GTはダイレクトインジェクションとツインスクロールターボが組み合わされる最新エンジンである。150ps/5800rpm、240Nm/1400〜3500rpmというパワーとトルクを発揮する。このデータからもターボエンジンといっても低速トルク型であり、レスポンス重視型だということがわかる。

これに5速マニュアルトランスミッションが組み合わされるが、そのスムーズな走りはターボエンジンだということを忘れさせる。単にもっと大きな排気量のエンジンという感じだ。最大トルクの240Nmというのは自然吸気では2.4Lエンジンに相当する。それをたった1400rpmで発生させることができるから、高速道路では5速のままATのようなドライビングが可能だ。市街地でも停止しない限り4速でほとんどまかなえるほどトルクが太い。

それでも6200rpmからのゼブラを越えて6500rpmからのレッドゾーン近くまで引っ張ると4気筒1.6Lの軽快で元気な走りが愉しめる。高回転域になってもエンジン音が大きくなることもなく、4気筒独特のこもり音もうまく消している。トルクとパワーとレスポンスと快適性まで満足させた「欲張った」エンジンである。

このエンジンに応えるようにサスペンションとボディは優れたハンドリング性能を出すセッティングになっている。電動パワーステアリングとは思えないナチュラルな操舵感でキビキビとドライビングできる。ワインディングロードでもロールは最小限でハンドルの切り角にあったライントレースをする。驚くほどシャープではないが、応答遅れはなく切り込んでいってもハンドル角に忠実なのでドライビングが愉しい。

しかし乗り心地は硬い。これは「GT」の個性だろう。ここまでやるかと思えるほど硬い。しかしこの割り切りが潔いと思う。揺すられるような下品な振動ではないから、この硬さを個性と評価できるのだ。これほど硬いサスペンションを許容できるボディがあることが素晴らしいと思う。普通はボディが負けてしまうからだ。ガタガタと揺すられることなく、ブルブルと振動が残ることもなく、サスペンションの硬さはサスペンションだけで終わっているのだ。ここが206のボディから大きく進化した部分だろう。

次の機会に5ドアの207シエロに乗るのが楽しみになった。GTのサスペンションとどれくらい違うのか、これまでのプジョーの経験から何となく想像ができるからだ。脚がもう少ししなやかに動いてくれて、ロール角も増えるがライントレースは正確……というイメージだ。

207は7代目の200シリーズということだが、これまで以上に個性があり、これまで以上にクオリティが上がっているので、コンパクトカーをリードする立場のベンチマークにきっとなるだろう。

この夏にはオープンモデルの207CC、シリーズ最強のスポーツモデル207GTiが導入され、さらに来年はおしゃれなワゴンの207SWがデビューするというから、207の話題には事欠かない。日本での207プレス発表会にはフランスからプジョー本社の社長が来てスピーチした。このことからも日本市場への力の入れ方がわかる。2007年は207から目が離せない。(文:こもだきよし/Motor Magazine 2007年5月号より)

画像: ダッシュボードの素材感など、206から大幅に質感が向上。全幅が80mm大きくなったことで室内に余裕ができた。

ダッシュボードの素材感など、206から大幅に質感が向上。全幅が80mm大きくなったことで室内に余裕ができた。

ヒットの法則

プジョー 207 GT 主要諸元

●全長×全幅×全高:4030×1750×1470mm
●ホイールベース:2540mm
●車両重量:1270kg
●エンジン:直4DOHCターボ
●排気量:1598cc
●最高出力:150ps/5800rpm
●最大トルク:240Nm/1400-3500rpm
●トランスミッション:5速MT
●駆動方式:FF
●車両価格:264万円(2007年)

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