2007年3月のジュネーブオートサロンで新型メルセデス・ベンツCクラスが登場したこともあり、日本でもDセグメント市場の動きに大きな注目が集まっていた。そこでMotor Magazine誌は「Dセグメント特集」を企画、ドイツのDセグメント市場がどのような状況になっているか現地取材を行った。(以下の試乗記は、Motor Magazine 2007年7月号より)

カンパニーカーとしてのアピール度も必要不可欠

欧州、いや正確にはドイツのDセグメント市場はホットである!

このセグメントには、アウディA4、BMW 3シリーズ、そしてメルセデス・ベンツCクラスという三羽ガラスが君臨していた。それが、一昨年の新型BMW 3シリーズ発表に続いて今年、本命と言える新型メルセデス・ベンツCクラスの登場で、新たにリシャッフルが行われようとしているのである。

日本ではあまり知られていない事実だが、欧州においてこれらのモデルは、実は「カンパニーカー」として会社が社員に貸与する割合がもっとも高い。というのは、企業側は給与の一部としてクルマを提供するとそれが経費として認められるので、節税できるのである。また社員も同じように、所得税の面で利を得ることができる。

もちろんこうした場合、その選択肢に入るのはほとんどがドイツ民族系メーカーのモデル、それも今回紹介するようなDセグメント、つまりミドルクラスのモデルが多くなる。

視点を変えれば、ドイツ政府は、こうして自動車産業の保護育成を図っているのだと言えないこともない。

こうしたシステムにおいて、人気のあるモデルをカンパニーカーとして社員に提供するということは、企業側にとっては質の良い人材を集めるための格好の条件として提示できる、ということへとつながる。だから、そのような安定した需要を求めて、ドイツの自動車メーカーは特にこのクラスに力を入れるわけである。

さて、そんな背景を理解しながらドイツの今年4月までの新車市場を見てみると、BMW 3シリーズは3万1000台以上を販売して、このセグメントのトップ。続いてアウディA4は、モデル末期にもかかわらず何とか2万2000台を維持している。そしてここにニューCクラスが1万8000台の急進撃で、それまでの14位から3位に飛び込んできた。まさに群雄割拠の時代である。

今回、日本からのチャレンジとして比較対象のために用意したレクサスISだが、ここ欧州市場では二酸化炭素排出量の問題もあるので、ガソリンエンジンモデルは2.5L V型6気筒208psのIS250のみ、そして2.2L直列4気筒177psの直噴ディーゼルエンジンモデルのIS220dが販売されている。

しかし前述のように、レクサスISは残念ながらカンパニーカーとして採用されることは滅多にないので販売台数は伸びず、昨年のドイツにおける販売台数もわずか2144台に留まっている。しかし、このようにわずかな販売台数であるにもかかわらずレクサスISの人気と認知度は高く、昨年ドイツ語圏ではもっとも大規模なイベントである「ゴールデン・ステアリング賞」でクラス受賞を果たしている。

そこで今回はアウディA4の代わりにレクサスISをいま話題のミドルクラスとして比較対象に加えて、日独のDセグメントサルーンについて語ってみることにしたいと思う。

画像: メルセデス・ベンツCクラス。新型の登場でどこまで販売を伸ばすか。

メルセデス・ベンツCクラス。新型の登場でどこまで販売を伸ばすか。

エクステリア、インテリアについて

デザインは主観的な問題、つまり好き嫌いがあると思うので、ここではCクラスと3シリーズについて簡単に述べるにとどめたい。

Cクラスは、一般にわかりやすいラインと面で構成した品質の高いデザインを持ちこんでいる。各種の仕上げ感、質感も、3車中ではレクサスとほぼ同じレベル(つまり高いということ)だ。

3シリーズは、このスタイルの面ではさらに個性を売り込んでいる。凸面、凹面多用した複雑なボディデザインは最初は戸惑ったが、いまは遠くからでも一目でわかる個性を持っている。好き嫌いのはっきりしたデザインである。ただし、日常使用において困ることはない。

インテリアはどうか。キャビンの広々とした感じでは、何といってもCクラスである。特にドライバーを含めたパッセンジャー肩口の広々感では、3台中で最良である。しかしそのリアシートの居住性は、思ったよりも広くない。もっとも今回の取材時に着座感を試したのは身長185cmのドイツ人だったので、平均的なサイズの日本人にとってはそう深刻な問題とはならないだろう。そして、トランクは最大サイズで、使いやすい。

一方、3シリーズのリア席は意外に広々としている。特に、縦方向への空間は十分である。しかしドライバーにはタイトな雰囲気が感じられるが、それは絞り込まれたボディによる肩口の圧迫感かもしれない。

ISの前席は、はっきり言って狭い。その身長185cmの人間が座ると、身体がはまってしまう感じで身動きが取りにくい。しかし反対に、リアの空間は必要にして十分である。

パワートレーンについて

実は、今回のテストでは3車がそれぞれ異なる排気量や種別のエンジン仕様でしか用意できなかった。だが、間違いなくこの分野でのトップは3シリーズ、というよりもBMWだ。積極的に直噴機構を採用し、さらにブレーキエネルギー回生システムなど、将来へのエコ対策に関して積極的なアプローチを行っているのが評価できる。

反対にCクラス、つまりメルセデス・ベンツは一見しただけだとコンサバで新しいものはないように感じる。だが確実な改良が行われており、燃費も排出ガス量も間違いなく良化している。しかし新車には新しいものを求めるのが人情というもの。そろそろオプション仕様でもいいのでガソリン直噴エンジンの登場を期待したい。

最後にレクサスISはガソリンエンジンは2.5L V6となるが、このクラスではあまりに重い装備品を持つこともあって、全体としては非力さを否めない印象であった。しかしそれでも最高の静粛性は、新しいLSだけでなくこのISにおいてもレクサスの証として確立されている。

ハンドリングについて

この分野では改めて3モデル、というよりもい3メーカーの哲学が明らかになった。

メルセデス・ベンツCクラスは、メカニカルハイドロリックダンパーのお陰でショックの吸収は素晴らしく、またコーナーでは瞬時にロールを打ち消す。その結果、ロードホールディングは抜群である。しかも乗り心地は少しも犠牲になっていない。乗り始めて気がついたのだがステアリング操作への反応は確かにシャープになっており、伝統的なメルセデスドライバーにとってはコーナーを曲がったりレーンチェンジを行った際の最初の反応は「クイクイと良く曲がる」という印象を抱くことに違いない。しかしそれも、慣れれば非常に適切なセッティングであると納得するだろう。

一方、この分野で独自の光った存在を見せるのがBMW3シリーズである。ステアリングフィールやシャシなどのすべてにおいて入力、そしてフィードバックの感触がダイレクトで、まさにクルマを操っているのはドライバー自身であるということが強調される。路面から受けるコツコツ感は相変わらずだが、ランフラットタイヤの利点を考えれば納得できるレベルである。ただし年齢によっては、ある程度の緊張感を要求する3シリーズのスポーツ性には疲れを感じる人がいるかもしれない。

レクサスISは、ややダイレクト感に欠けるステアリング操作への反応が、そのハンドリング面をもっともスポイルしてしまう残念なポイントである。それとボディの重さも加わり、全体の動きとしてはもっさりとしたものになってしまう。しかし、静粛なパワートレーンとノイズ/バイブレーション/ハーシュネス(NVH)から解放された静かなキャビンによって、ロングドライブもウエルカムである。

画像: BMW 3シリーズ。ドイツ市場では今年4月までに3万1000台以上を販売して、このセグメントのトップ。

BMW 3シリーズ。ドイツ市場では今年4月までに3万1000台以上を販売して、このセグメントのトップ。

スポーティさと快適さ両者とも高い水準が必要

この話題のDセグメントモデル3台を比較してみて、改めて確認することができたのは、各メーカーが自分たちの本質を見届けながら、良い意味で切磋琢磨しているということだ。

つまりメルセデス・ベンツCクラスは、これまでの快適性を追求しながら今までよりも多くのユーザーを獲得しようとして新たにスポーティなデザインをそのフロントマスクにも与え、さらにバイパス機構付きのメカニカルハイドロリックダンパーを採用し、快適で乗り心地が良いだけでないスポーティなCクラスをアピールしている。

しかしそれは決して、メルセデス・ベンツならではの快適さを逸脱はしていない。このようなことを考えれば、この3モデルの中ではもっとも万人向けのモデルだといえる。

一方、BMWの3シリーズは、ここまでに何度も記述してきたように、移動するということに対する人間の本能の向上心を、「速さ=スポーティ」というベクトルにおいて伸ばしていると感じられる。そのステアリングフィール、あるいはアクセルペダルへのレスポンス、すべての操作系に対する反応など、いずれもが3車中でもっとも鋭く、ときにはそこに「心地よい」緊張感すら必要とされるものである。

それゆえに、3シリーズを選ぶのはドライバー、というよりも極端な表現をすれば、クルマがドライバーを選択するのだ、とも言えるかもしれない。

最後に、久しぶりにレクサスISをドイツの道で走らせてみて、はっきり言って期待していた以上のものを得ることができた。ISが狙っているものは、走りの面ではBMW、快適性や品質の分野ではアウディとメルセデスの世界、というように、その目標を明確に感じられたのだ。これは、決して悪いことではない。

惜しむらくは、キャビンの操作系の使い勝手などの面で、まだ最高速度100km/hの世界で合わせている様子が感じられることだ。またISのシャシは基本的に古いので、乗り心地と走りのコンプロミス(妥協ポイント)はライバルよりも低いと言わざるを得ない。残念ながらこの点に関しては、新型が登場するのを待つしかないだろう。しかし、その豊富な装備品とさらに入念な仕上げという方向性は正しく、ドイツ車を脅かすには十分である。(文:木村好宏/Motor Magazine 2007年7月号より)

画像: レクサスIS。Cクラスや3シリーズと比べるとドイツでの販売台数は多くないが、人気と認知度は高い。

レクサスIS。Cクラスや3シリーズと比べるとドイツでの販売台数は多くないが、人気と認知度は高い。

ヒットの法則

メルセデス・ベンツ C350 主要諸元

●全長×全幅×全高:4581×1770×1444mm
●ホイールベース:2760mm
●車両重量:1610kg
●エンジン:V6DOHC
●排気量:3498cc
●最高出力:272ps/6000rpm
●最大トルク:350Nm/2400-5000rpm
●トランスミッション:7速AT
●駆動方式:FR
●最高速:250km/h
●0-100km/h加速:6.4秒
※欧州仕様

This article is a sponsored article by
''.