現代のワイパーゴムは真夏の高温でも影響なし
積雪が多く、最低気温が氷点下になる地域では、冬季にワイパーブレードやワイパーゴムを保護するためワイパーアームを立てて対策する。豪雪地帯ではひと晩に1mの積雪も珍しくなく、その重みでワイパーブレードが変形することもあるからだ。ワイパーブレードの変形はワイパーゴムとフロントウインドウの緊密な接触を妨げ、拭き残しの原因となってしまう。また、夜半にワイパーゴムとフロントウインドウが凍結してしまうと、翌朝の出発を遅らせることにもなる。冬にワイパーアームを立てておくことは、理にかなっていることなのだ。
その一方で、降雪の心配のない真夏にワイパーアームを立てて駐車しているクルマを見かけるが、一体なんのために行なっているのだろうか。
考えられる理由は、真夏の強烈な太陽光で熱せられたフロントウインドウがワイパーゴムに与える「何らかの影響を防ぐ」ということだろう。日本の夏は年々高温になり、2020年は静岡県浜松市で41.1度を記録した。炎天下に密閉された車内の気温は最高で70〜90度にもなるといい、こうした環境はライターや缶スプレーを爆発させるほどだ。
車内の高温を防ぐため断熱効果のあるサンシェードを設置することもある。確かに車内気温の上昇は抑えられるが、逆にフロントウインドウを太陽光とサンシェードの反射で2重に暖めることになり70度越えは確実だ。
このような過酷な環境のフロントウインドウにワイパーを密着させ、ワイパーゴムに悪影響を与えたくないというオーナーは数多いことだろう。そこでワイパーアームを立てるのだろうと推測される。しかし、これは杞憂にすぎない。現代のワイパーゴムは、日本の夏の高温程度では何の影響も受けないのだ。
ワイパーのブランドとして有名なNWBを運営するデンソーワイパシステムズによると、真夏に予想されるフロントウインドウの温度程度では、ワイパーゴムは溶けたり、ガラス面に張り付いたりすることはないという。そもそもワイパーゴムの原料は数種類のゴムから化学的加工によって製造される高分子化合物で、天然ゴムのような単純なゴムが原料ではない。デンソーワイパシステムズはワイパーゴムの耐熱限界温度を明示しなかったが、天然ゴムの耐熱限界温度120度は優に超えるものと推測される。
ワイパーゴムに与える唯一と言っていい悪影響は、紫外線による劣化だ。紫外線は5月〜8月に強くなり、ワイパーを立てたからといってゴムの劣化を回避できるものでもない。ワイパーゴムは半年に1度の交換が推奨される消耗品だ。降雪の終わる3月と真夏の紫外線が弱まる9月にワイパーゴムを交換するようにすれば、紫外線による劣化を最小限にとどめることができるだろう。
ワイパーを立てておく理由としてもうひとつ考えられることは、ゴムとフロントウインドウの間に砂塵をためないようにすることだ。強風や黄砂などの影響により細かな砂が飛来し、そのままワイパーを稼働させればフロントウインドウを傷つけてしまいかねないからだ。前方視界を確保するための方策として行なっているのかもしれない。