4輪、2輪のメーカーであるホンダが、草刈機、除雪機などを展開していることは意外と知られていない。そこで、ホンダはどういった考え方でパワープロダクツをはじめとした「ライフクリエーション事業」を行っているのか。ライフクリエーション事業本部長の加藤稔氏に話をうかがった。(インタビュアーはMotor Magazine誌 千葉知充編集長)

ホンダライフクリエーションとは

「ライフクリエーション」とは、「人々の暮らしを豊かに創造する」製品という意味。ホンダは、汎用エンジンをはじめ、耕うん機、発電機、芝刈機、除雪機、蓄電機、船外機、ポンプなどエンジンを使った実用汎用機を「パワープロダクツ製品」と呼んでいるが、次世代に向けて、それらを含む実用機の事業のコンセプトを拡大。2019年2月の公式リリースで「従来のパワープロダクツに加え、『移動』と『暮らし』に新価値を提供していく機能を進化させるために、パワープロダクツ事業本部をライフクリエーション事業本部に名称変更する」と発表した。

画像: 加藤稔(本田技研工業株式会社 執行職 ライフクリエーション事業本部長):1988年に本田技研工業株式会社へ入社。タイ、インドネシア、イギリスなど海外赴任を経て、2014年からホンダベトナムCO Ltd.社長、2017年からホンダモーターサイクル&スクーターインディアPVT.Ltd社長を歴任。2020年に本田技研工業株式会社執行職、ライフクリエーション事業本部長に着任している。

加藤稔(本田技研工業株式会社 執行職 ライフクリエーション事業本部長):1988年に本田技研工業株式会社へ入社。タイ、インドネシア、イギリスなど海外赴任を経て、2014年からホンダベトナムCO Ltd.社長、2017年からホンダモーターサイクル&スクーターインディアPVT.Ltd社長を歴任。2020年に本田技研工業株式会社執行職、ライフクリエーション事業本部長に着任している。

「技術で人を幸せにするというのがホンダのもの作りの原点」

──自転車が主な移動手段だった1946年。ホンダの創業者である本田宗一郎氏が無線機の発電用エンジンを自転車の補助動力にすることを発案。それを売り出すと便利さが受け注文が殺到し、自社製エンジンの開発に着手することになった、というのは有名な話です。そして1947年、「HONDA」の名が記された最初の製品が誕生するわけですが、ホンダはスーパーカブや軽自動車、クリエイティブムーバーに代表されるように、実は生活に密着したメーカーなんですね。

加藤氏 「ホンダは2輪事業からスタートしていますが、創業から5年後の1953年、4輪事業よりも早く汎用事業に乗り出しています。これは創業者本田宗一郎の『技術で人の役に立ちたい』という志から始まったもので、機械化により重労働から人々を解放したい。さらには効率的な作業が出来て、仕上がりもきれいなほうがいい。そうしたお客様のお役に立つ完成機として、耕うん機、除雪機、芝刈機、草刈機、またさまざまなシーンで活躍する発電機、蓄電機などを展開してきました。同時に、ホンダのそうした完成機に搭載されたエンジンは、耐久性があり長く使える、燃費がいいと圧倒的な信頼を得て、完成機メーカーにエンジンを供給するというビジネスも行っています。完成機とOEM供給を含め、汎用エンジンの生産は年間約600万台にも及びます」

──汎用事業の製品づくりの原点にはやはり2輪の技術があったのですか。ホンダ初の汎用エンジンとなったH型エンジンも、カブ号F型エンジンを改良したものだったということですが。

加藤氏 「そうですね、汎用エンジンは4輪、2輪の技術も応用しながら、研究所の中の汎用部門で開発してきました。現在販売している汎用エンジン600万台のうち約400万台は『ホンダパワー(Powered by HONDA)』としてエンジンをOEMエンジンとして供給するものです。グローバルに向けて多くの企業にエンジンを供給することで、ホンダが完成機を持っていない分野でも活躍しています」

画像: 小型除雪機 HSS 760n(J):移動も除雪もレバー1本で操作できる簡単さと、無段階で速度調整が可能な取り扱いやすさで幅広い地域で利用されている。HSS 760n(J):36万9600円。

小型除雪機 HSS 760n(J):移動も除雪もレバー1本で操作できる簡単さと、無段階で速度調整が可能な取り扱いやすさで幅広い地域で利用されている。HSS 760n(J):36万9600円。

ホンダらしいことは、ほかと同じことをしないこと

──ホンダの汎用事業は、パワープロダクツ事業本部という名称から、現在はライフクリエーション事業本部となっています。

加藤氏 「ホンダの汎用事業、パワープロダクツの事業は、1968年に汎用機事業部からスタートして、その名称を汎用事業本部、汎用パワープロダクツ事業本部、パワープロダクツ事業本部、そして2019年に現在のライフクリエーション事業本部に変遷してきました。最近はエネルギーやロボティクスなど新しい事業が増えてきたこともあり、現在の名称に変更しました」

──ロボティクスなどのロボット技術などが含まれるからですか。

加藤氏 「ホンダではアシモに代表されるロボット技術が有名ですが、作業機業界では人工知能という面も注目されています。例えばホンダのロボット芝刈機『ミーモ』はセンサーからの情報をもとに自ら考えて作業し、充電残量が不足してきたら自らステーションに戻って充電、また作業をしますが、複雑な形状の大きな庭でも無駄なく、短時間できれいに作業するためにはさらに高度な知能が必要となってきます。例えば複数の機械が互いに連携しながら効率よく作業を進めていくといった複雑なオペレーションも検討しています」

画像: ロボット芝刈機 ミーモ HRM520:電動で自走し自動で芝を刈り取り、自ら戻って再充電も行う。ミーモ HRM 520:54万7800円。

ロボット芝刈機 ミーモ HRM520:電動で自走し自動で芝を刈り取り、自ら戻って再充電も行う。ミーモ HRM 520:54万7800円。

──ホンダらしい点、強みとはどんなところにあるのでしょうか。

加藤氏 「そうですね、ほかのメーカーと同じことをしないことでしょうか。例えば、ホンダ独自の正弦波インバーターとリチウムイオンバッテリーを組み合わせたハンディータイプ蓄電機『リベイドE500』は、質の高い電気を供給できます。質の高い、きれいな電気とはノイズの少ないクリーンな電気ということです。家庭用のコンセントから供給される電気には多くのノイズが含まれていますが、ホンダの発電機から出る電気はノイズが少ないという特徴があります。そこで2019年にはオーディオ愛好家が求めるノイズの少ない電源のニーズに応え、オーディオ機器の使用に最適化した蓄電機『リベイドE500フォーミュージック』を限定200台で発売したところ、予定台数を大きく上回るオーダーをいただきました。ホンダは草刈機では草の刈り具合、除雪機では仕上がり具合など、作業効率やきれいな仕上がりを実現できる、完成度の高い技術にこだわっているのです」

画像: 蓄電機 LiB-AID E500(JN1):高品質な電気を必要な場所に持ち運べる。小型で室内でも使用可能。LiBーAID E500(JN):8万8000円。

蓄電機 LiB-AID E500(JN1):高品質な電気を必要な場所に持ち運べる。小型で室内でも使用可能。LiBーAID E500(JN):8万8000円。

──最後に、このライフクリエーション事業は、今後どういう分野に力を入れていくのでしょうか。

加藤氏 「ひとつにマリンがあります。レジャーの分野で需要が高まっていますが、ホンダは生活を支えるという視点を重視してきたこともあって生活に密着した船用の船外機が中心でしたが、今後はボートビルダーとの関係も含めて力を入れていきます。また、CO2排出量削減に向けた電動化という流れの中で、ロボティクスで培ってきた技術を生かして、知能化をさらに進めて仕事の効率を上げていきます。また既にプロトタイプとして発表している『eGX(イージーエックス)』は汎用エンジンの電動化を担う商品です。電動化によって室内作業の分野にも展開が広がっていくと考えています」

各分野でのHONDAパワーの活躍については今後も紹介していきたい。(文:松本雅弘/写真:井上雅行)

This article is a sponsored article by
''.