濱口竜介監督による映画「ドライブ・マイ・カー」が、第74回カンヌ映画祭で四冠を獲得し、また2022年3月28日にアメリカ・ロサンゼルスで開催された第94回アカデミー賞 授賞式で「国際長編映画賞」を受賞したことで話題となっている。濱口監督だけでなく、俳優陣の西島秀俊(家福 役)や三浦透子(みさき 役)などに注目が集まっているが、ここでは作品で重要な役割を担っている家福の愛車、「サーブ 900」に着目し、映画評論家 永田よしのり氏に解説してもった。(以上を加筆修正/2022年3月28日)

クルマはただの「ギア」ではなく、「人生」を運ぶものだと感じる1本

そんなサーブ 900を家福が乗り続けていることのこだわり、それは彼自身の生き方へのこだわりとも考えることができる。そもそもクルマというものは非常にパーソナルなもののひとつとして、乗り手を選ぶもの。どんなクルマに乗っているか(つまりどんなクルマを運転することが好きか)によって、その人間の性格や人間性を読み取ることもできたりする。

画像2: Ⓒ2021「ドライブ・マイ・カー」製作委員会

Ⓒ2021「ドライブ・マイ・カー」製作委員会

クルマはそれぞれに乗り味があり、運転席に座って運転する際の自身へのフィット感を大事にする傾向がクルマ好きにはある。こだわりがない者にはまったく理解されないだろうが、ハンドルの握り具合、ハンドルを切ってクルマが曲がる感覚、エンジンの音、路面からのノイズ・・・それらが自分にとって一番心地よく感じるクルマを見つけてしまうと、ずっとその車種に乗り続けてしまうクルマ好きもいる。

家福がサーブ 900に乗り続ける理由について劇中で細かく語られないが、おそらくその乗り味が家福にとって非常に心地良く、大げさに言えば「魂にフィット」したゆえにサーブ 900を自分で運転することにこだわるのだろう。そんな愛車のハンドルを若いドライバーみさきに渡し、ともに道往きを進むこと。そこにはある種の「共同感の認め」がある。他者にハンドルを渡してともに走ること。それは生き死にを預けることになる。

それだけ信頼しないと自分のクルマは他者に運転させて助手席に座りたくはない。家福の基本はそこにある。クルマ好きならばその感覚は理解できるし、こだわりがない者から「そんな大げさな」と思われるかもしれない。しかし、クルマというものはただの「ギア」ではなく「命を運ぶもの」でもあるのだ。だからこそクルマ好きは自分の乗りたい、乗り続けるクルマを選ぶのだろう。

家福は自分の人生を運ぶためにサーブ 900を選び、乗り続けている。読者諸氏が乗り続けるクルマは、どんな車種だろうか。そんなことを考えながらこの映画を観ると、実に味わい深いものがあるのだ。(文:映画批評家 永田よしのり)

画像3: Ⓒ2021「ドライブ・マイ・カー」製作委員会

Ⓒ2021「ドライブ・マイ・カー」製作委員会

「ドライブ・マイ・カー」

Ⓒ2021「ドライブ・マイ・カー」製作委員会
2021年8月20日(金)より全国ロードショー
配給:ビターズ・エンド
179分
原作:村上春樹「ドライブ・マイ・カー」(短編小説集「女のいない男たち」所収/文春文庫刊)
監督:濱口竜介
出演:西島秀俊、三浦透子、霧島れいか、岡田将生、ほか

This article is a sponsored article by
''.