人生はラリーだ。ボロボロになって、転んでも、また元の場所に戻ってくる
日本でラリーを題材にした映画というと、近年では2008年に公開された「SS(エスエス)」や、2018年に公開された「OVER DRIVE(オーバードライブ)」などがあるが、今作品は久しぶりにラリーをテーマにした日本映画だ。
ラリーといえば荒地や公道を走るイメージが強く、FIA世界ラリー選手権(WRC)がその最高峰というのは、クルマ好きのWebモーターマガジン読者ならご存知のことだろう。2021年シーズンも世界各地でWRC戦が開催されており、日本のトヨタが健闘している。11月には日本でも愛知・岐阜で久しぶりのWRC戦「ラリージャパン」が開催される予定だった。
だが、新型コロナウイルス感染症の拡大防止を図るためもあり、9月7日にラリージャパン2021実行委員会から中止のアナウンスがあった。2010年に北海道で開催されて以来、実に11年ぶりのWRC日本開催とはならなかった。
今回紹介する映画「僕と彼女とラリーと」は、2021年のラリージャパンが行われる予定だった岐阜県恵那市と、トヨタのお膝下である愛知県豊田市でロケが行われた。主人公が搭乗するラリーカーは、トヨタ ヤリスだ。
東京で俳優を目指し奮闘していた北村大河。だが突然の父親の訃報で故郷の愛知県豊田市に戻ることに。父親はかつて数々の世界ラリーに参戦、今でもメカニックとして小さな工場「北村ワークス」を営んでいた。父親がいなければ工場を閉鎖するしかないと考える兄。だが残された従業員たち、そして父親の思いを知ったことで、大河は無謀にも11月に地元で開催されるラリーへの参加と北村ワークスの再起を決意する。
初めて経験するラリーの世界、父親の盟友らも参加して少しずつラリー出場と北村ワークス再建の準備は進んでいく。だが、更なる困難が大河たちを待ち受けていた・・・。
映画は実際に行われる予定であった11月のラリージャパンに向けた並行世界で進行していく。後半では同時期にトヨタ博物館主催で開催されるクラシックカー フェスティバルに参加する車両の協力で、かつてのクラシックカーたちが50台ほども登場して楽しませてくれる。トヨタ2000GT、S800、トヨペット クラウン、フォルクスワーゲン カルマンギア・・・などなど。今では自動車博物館へ行かなければ見られないような車種の登場シーンは、クルマ好きにとって嬉しい限りだ。
主人公 大河の役を森崎ウィン、幼なじみでラリーカーに同乗することになる上地美帆の役を深川麻衣というフレッシュな顔触れで描く本作品は、単にラリーの世界を描くというだけではなく、ラリーという競技や、ドライバーを助けてコースを指示する助手席の同乗者であるコ・ドライバー(かつてはナビゲーターと呼ばれた)とともに「新しい人生のナビゲーションを始める」、というメッセージも込められている。
そこにあるのは、人生の数々の困難を何度も何度も乗り越えて生きていく、われわれ人間のエネルギーとともに、他者とともに生きることの喜び。それを「ラリー」というものになぞらえて、本作品では示しているのかもしれない。
2021年のラリー ジャパン開催は中止となったが、2022年以降で開催される可能性がゼロになったわけではない。2022年の日本がどんな状況になっているかは分からないが、本作品の公開によりラリーの世界に少しでも興味が持たれ、ラリー人気が盛り上がることに期待したい。(文:映画批評家 永田よしのり)
■「僕と彼女とラリーと」
Ⓒ2021「僕と彼女とラリーと」製作委員会
2021年9月24日(金)愛知・岐阜一部劇場先行公開
10月1日(金)全国公開
配給:イオンエンターテインメント/スターキャット
本編:107分
監督/脚本:塚本連平
出演:森崎ウィン、深川麻衣、佐藤隆太、竹内力、ほか