過剰ではない高性能が走りの楽しさにつながる
次はトランスミッション。いまどきただの5速MTに何を驚いているのだと言われそうだが、「ただの5速MT」だからよいのだ。球形の大きなノブを動かして行うシフトアップ、ダウンのフィールはスポーツカーのそれとは違い適度にソフト。しかし、エンジンパワーがダイレクトに駆動系に伝わる感覚や、エンジンの回転やトルクの発生状況に応じて適切なギアを選ぶという作業はMTならではのもので、そこにクルマとの一体感が生まれる。
エンジンは1.4L 直4 DOHCターボで、最高出力は135ps、最大トルクは180Nm、フィアット500の1.4Lはノンターボで100ps、131Nmだから、パワー&トルクともに約35%増しだが、この差は大きい。日頃、フィアット500ではまったく「飛ばす気」など起きないが、アバルト500ではすぐに「その気」になってしまったことは前述したとおりだ。
パワーウエイトレシオを計算すると、フィアット500が10.20kg/ps、アバルト500が8.22kg/ps。ちなみにニューゴルフの160psエンジン搭載車は8.38kg/psだ。パワーウエイトレシオが「8の前半」だと、走りは結構楽しいのだなと納得させられる。
さて、アバルト500というクルマ。その走りは「すべてが適度でバランスがよい」ところがいいのだ。過剰なものは何もない。すべてをドライバーの制御下におけるという安心感が、クルマとの一体感をいっそう高めるのだろう。これは「大人の味」だ。
インテリアも一見、ロッソのレザーシートなど派手に思われるかも知れないが、その他の部分は色づかいもデザインも落ち着いている。また、クオリティも高い。インパネまわりで目を引くのは大きなセンターメーターの左上に設置されているブースト計。これはシフトアップインジケーターも兼ねていて、時に応じてドライバーへ「シフトアップ」というメッセージを発する。
走りに関わる装備として紹介しておきたいのは、まず「SPORTスイッチ」、これをオンするとコントロールユニットのマッピングとターボの過給圧を調整して、最大トルクが206Nmにまで高まる。まるでF1の「KERS」のようだが、もちろんSPORTスイッチには使用時間の制限はない。ただ、使っている間は燃費が悪くなるだけだ。
もうひとつはTTC(トルクトランスファーコントロール)。これはコーナリング時に内輪が空転した場合、LSDのようにそれにブレーキをかけるディバイスだ。
安全装置も7つのエアバッグをはじめ充実の極み。オーディオはFM/AM電子チューナー付きCDプレイヤー&MP3プレイヤーとサブウーファー付きハイファイサウンドシステムを装備。標準で付いていないのはナビシステムだけという内容で、295万円という価格はリーズナブルだ。あとは最終確認を一般道で行うのみだ。(文:Motor Magazine編集部 荒川雅之/写真:原田 淳)
アバルト500 主要諸元
●全長×全幅×全高:3655×1625×1515mm
●ホイールベース:2300mm
●車両重量:1110kg
●エンジン:直4DOHCターボ
●排気量:1368cc
●最高出力:99kW(135ps)/5500rpm
●最大トルク:180Nm/4500rpm
●トランスミッション:5速MT
●駆動方式:FF
●燃料・タンク容量:プレミアム・35L
●タイヤサイズ:195/45R16
●最高速度:205km/h
●0→100km/h加速:7.9秒
●車両価格:295万円(2009年当時)