2012年──初代アクア誕生。初期受注は、ほぼ1カ月で12万台!
トヨタ自動車は2012年2月1日、初代ハイブリッドカー「アクア」の受注台数が約1カ月でおよそ12万台に達したことを明らかにした。発売は2011年12月26日で、月販販売目標台数は1万2000台と発表されていた。実に10倍もの注文が殺到したわけだ。
この頃、トヨタはもとより世界的にも、ハイブリッドカーの代名詞と言えばプリウスだった。当時販売されていたのはシャープなツリ目がスポーティだった3代目であり、ちょうどプラグインハイブリッドのプリウスPHVの市販をスタートさせた頃だ。ほかにトヨタはSAIやカムリ、ハリアーなどにハイブリッドモデルを展開していたが、プリウスの牙城はしばらく揺るぎないかと思われた。
同じ時期、トヨタは100万円台前半から200万円未満のいわゆるエントリーカーとしての価格帯に、10種類以上もの車種をラインナップしていた。当時の自動車専門誌の価格表にはiQ、ベルタ、ラクティス、ポルテ、イストといった懐かしい車名も並んでいる。
しかしプリウスよりも排気量が小さい1.5L直4エンジンに、高効率なシリーズパラレルハイブリッドシステム「THS-II」を組み合わせたアクアは、当時世界トップの低燃費性能を達成。コンパクトで扱いやすいボディサイズ、ゆとりの室内空間などでそうした先達をも凌ぐ人気者となった。
2013年から2015年にかけては、3年連続で年間国内新車販売台数の第1位を獲得している。プリウスよりもほぼ50万円安い169万~という価格設定は、ハイブリッドカーをより身近な存在にしたのだった。
2017年その1──日産ノートeパワーの逆襲。コンパクトカーに新たな潮流が起こる
手ごろな価格で高性能、しかも燃費がいいコンパクトカー=ハイブリッドカーは、もはやトヨタ一択(車種で言えば二択)か、と思われた2010年代半ば、日産が反攻に出る。2代目ノートにシリーズハイブリッドを採用した「eパワー(e-POWER)」を設定したのだ。
実は同じ頃、アクアにとって強力なライバルたちが他にも誕生していた。たとえば2016年9月に2代目となったホンダ フリードはハイブリッドを用意するうえ、アクアの売りのひとつである「ゆとりの室内空間」のスタンダードを一気に引き上げてしまうモデルだった。
クラスこそ違うものの、同じトヨタの新世代コンパクトSUV「C-HR」は、そのインパクトあふれるスタイリングが受けて大ヒット。正直、アクアに足りない「華」のような魅力がC-HRにはあったと思う。
激しさを増すコンパクトクラスの覇権争いの中で、アクアとプリウスは明らかに勢いをそがれていく。2017年の年間販売台数ランキング(日本自動車販売協会連合会発表)を見ると、ライバルとの明暗の差が顕著にわかる。
1月~12月までの年間での順位こそ1位:プリウス、2位:ノートと続き、3位にかろうじてアクア、4位がC-HR、5位がフリードと並んでいる。しかし対前年比で135%から200%ほども躍進しているライバルに対して、アクアは78.2%、プリウスは64.8%に過ぎない。
2017年その2──クロスオーバーとGR SPORTでテコ入れ。
ノートeパワーは、JC08モードで最高37.2km/Lの低燃費を謳っていた。アクアは当初33.0km/Lだったが、2017年6月19日のマイナーチェンジで34.4km/Lにまで引き上げられている。しかし少なくとも数値上は、eパワーに迫ることはできなかった。
ゆとりの室内空間ではフリードに、燃費ではノートに、取り回しのしやすさというメリットもやや色あせてしまった。デビュー当初のユニークセールスポイントがことごとく失われたわけだが、それも当然と言えば当然だろう。なにしろ本来ならばとっくにフルモデルチェンジされていても、おかしくないタイミングだったのだから。
販売台数の絶対数こそ多いがライバルたちに後れをとっていた当時の現状を、トヨタは指をくわえて見ていたわけではない。マイナーチェンジの翌月に新グレードとして、全高を高めて専用バンパーなどでコーディネイトした「クロスオーバー」を追加している。さらに11月にはスポーティなルックスと走りを究めた「G GR SPORT」を設定。従来とは異なる新たな魅力で、ライバルの猛追を迎え撃った。
他の要因も、もちろんあったと思う。それでもとりあえずアクア クロスオーバー追加の翌月から月間販売台数の順位を再び1~3位に戻し、年間で見ても2018年度はほぼ前年なみの96.2%を達成、ノートに次ぐ第2位となっている。ちなみに2019年は5位(対前年比 82.0%)で、モデル末期をとっくに過ぎたモデルとしては立派な数字だ。
だが、本当のアクアの「試練」はその翌年、2020年に訪れるのだった。(後編に続く)