1960年代のレーシングフェラーリを彷彿とさせる曲線美
ICONAシリーズは、フェラーリの歴史的モデルのなかでも特にアイコニックな存在のデザインを現代流に再解釈し、最新のテクノロジーを用いて開発された車両のことで、生産台数はごく少量に限定され、価格も1億円を軽く越える特別なモデルと位置づけられている。
その第1弾と第2弾となった「モンツァSP1」ならびに「モンツァSP2」は、1950年代のモータースポーツ活動で活躍したバルケッタ(軽量なオープンボディのこと)を再現したものだが、今回発表されたデイトナSP3は1967年のデイトナ24時間で歴史的な優勝を果たした「330 P3/4」ならびに「330P4」といったレーシングスポーツプロトタイプをモチーフに選んでいる。
この時代にフェラーリが生み出したレーシングスポーツプロトタイプは、優雅で洗練された曲線美を備えており、「レーシングカーが史上もっとも美しかった時代」と評価するファンは少なくない。
デイトナSP3でも、そうした美しさがいかんなく表現されているといっていいだろう。
なかでも、デイトナSP3の鋭く伸びたフロントノーズは330P4を彷彿とさせるもの。そして、このノーズから無理なく滑らかに立ち上がるフロントフェンダーにかけての曲線は、まさに芸術的な美しさといっていい。この量感豊かな曲面はドア部分で一度引き締められた後、リアフェンダー部に向けて再び力強い広がりを見せ、そのままテールエンドへとつながっていく。そのシンプルでありながら有機的な曲線には、思わず心を奪われてしまいそうになる。
ただし、そうした1960年代のレーシングスポーツプロトタイプをモチーフにする一方で、細部のデザイン処理はいかにも現代的で、この辺にICONAシリーズの本領がいかんなく発揮されている。たとえばヘッドライトは固定式とされながらも、その上部に可動パネルを設けてかつてのリトラクタブル式ヘッドライトを彷彿とさせてみたり、水平ラインが数多く積み重ねられたテールエンドなどは極めて現代的なデザインといえるだろう。
約2.6億円! 812コンペティツィオーネを凌ぐパワーを発するV12エンジン搭載
その一方で、最新のテクノロジーが惜しみなく投入されているのがデイトナSP3のハードウェアで、モノコックやボディパネルはすべてカーボンコンポジット製とされたほか、エンジンは812コンペティツィオーネに搭載された6.5L V12自然吸気エンジンにさらなる磨きをかけ、最高出力は840ps/9250rpm、最大トルクは697Nm/7250rpmに達する。
しかも、デイトナSP3では1960年代のレーシングスポーツプロトタイプにならってエンジンをミッドシップ。7速ギアボックスを介して後輪を駆動するレイアウトが採用されている。
この結果、最高速度は340km/h以上、0→100km/h加速は2.85秒、0→200km/h加速は7.4秒というとてつもない動力性能を実現している。
こうしたパフォーマンスを的確に発揮するため、F1-Trac、s-Diff 3.0、SCM-Frs、SSCなど、フェラーリが誇る最先端の電子制御システムが搭載されていることも注目点のひとつだ。
一方でエアロダイナミクスをすべて固定式としたのは、1960年代のレーシングスポーツプロトタイプへのオマージュといえるだろう。ただし、フロアからリアフェンダー部に抜けるチムニー(煙突)を用いてフロア下部の圧力分布をコントロールしたり、エンジンの冷却気をドア前部から効率よく採り入れ、ドア内部のダクトを通じてリアセクションに導くといった先進的なアイデアを採用。結果として、空力効率としてはフェラーリ史上最高レベルを達成したという。
クラシカルな美しさと現代的なアプローチを融合させたデイトナSP3の価格は200万ユーロ(約2億6000万円)で世界599台の限定販売。ただし、そのすべてが売約済みであるという。(文:大谷達也)
フェラーリ デイトナSP3 主要諸元
●全長×全幅×全高:4686×2050×1142mm
●ホイールベース:2651mm
●乾燥重量:1485kg
●エンジン:65度 V12 DOHC
●総排気量:6496cc(ボア94mm/ストローク78mm)
●最高出力:618kW(840cv)/9250rpm
●最大トルク:697Nm/7250rpm
●最高許容回転数:9500rpm
●トランスミッション:7速DCT
●駆動方式:MR
●燃料・タンク容量:プレミアム・86L
●WLTCモード燃費:−
●タイヤサイズ:前265/30ZR20、後345/30ZR21
●車両価格:200万ユーロ
※数値はすべて欧州仕様値