持ち味をアップデートして、さらに向上した乗り心地
さて走りだが、エンジンは継続のため、とくに新鮮な印象はない。E350のV6エンジンはこのボディにジャストの印象。全域でトルクがあり市街地から高速まで活発だし、高回転域では相応のパンチも楽しめる。パドル操作で刻むとかなりスポーティだ。
ただ、いずれCGIが導入されるのが悩ましいのも事実。このタイミングでEクラスを考えるなら、しばらくは変更のなさそうなE550を選んだ方がいいかもしれない。こちらは当然ながら実にトルクフル。V8独特の太めの排気音は回していくと軽やかな音質となり、余裕でEクラスのボディを押し出して行く。
このように、フィール面は先代と大きく変わらないものの、新型は進化させるべきところはキチンとやっている。バッテリーの充電量が80%以上の場合はオルタネーターを休止する発電制御や、パワステポンプの低抵抗化、タイヤや空力の見直しなどで燃費性能を最大11%も向上させているのだ。E350などはモード燃費で0.9km/Lもの向上だから、改善幅はかなり大きい。
もうひとつ、フットワークも大きく変わった。というか、新旧を乗り較べて最初に感じるのがここだろう。新型はとにかく乗り心地がマイルド。もちろんいたずらにソフトになったわけではなく、自然なロール感や、ペースを上げたときもガシッと踏ん張るしたたかさを備えながら、低速域のゴワゴワとした感触だけを取り去った感じだ。中にはあの粒立った感触がメルセデスらしさとする人もいるかもしれないが、入力に応じてダンピングを切り替えるダイレクトコントロールサスペンションの効果は十分に出ている。
E550のエアマチックサスペンションはさらにフラット感が増し、極めて走りの質が高い。スポーツとコンフォートの切り替えも有効で、コンフォート側はとくに市街地で適度の緩さが出て快適だった。
上質感と安心感のグレードアップはライバル勢を寄せ付けない
さらにステアフィールも変わった。過度なキビキビ感の演出はないが、非線形ラックによるバリアブルレシオのダイレクトステアリングのおかげで、軽く確実にノーズが向きを変える。その分、鷹揚さやバシッとした直進性はやや薄れたものの、シートや乗り心地の変化も含めて、メルセデスも徐々に持ち味をアップデートしているわけだ。当然そこにはライバル勢の動向も織り込まれているわけだが、クラスの定番として、またメルセデスとして、動かしてはいけない軸足にブレはない。
新型Eクラスでは「アシスト」の名が付いた運転支援装備の充実も忘れてはならない。すべての名称と機能を紹介する紙幅はないが、対向車や先行車を検知し他車を幻惑せず最大のライト照射が得られるよう自動調節するアダプティブハイビームアシストや、70以上のパラメーターからドライバーの眠気を検出し注意を促すアテンションアシストなどの注目装備は、日本仕様にもしっかり採用される。これらの安全技術は現在メルセデスが最も進んでいる分野だが、ライバル勢も対応策を取らざるを得ないだろう。
クーペ、ワゴン、AMG、ディーゼルを含む新エンジン展開など、今後に多くの展開の余地を残している新型Eクラス。そうした動向から一瞬たりとも目が離せないことこそ、定番の定番たる所以である。(文:石川芳雄/写真:小平 寛)
メルセデス・ベンツE350アバンギャルド 主要諸元
●全長×全幅×全高:4870×1855×1455mm
●ホイールベース:2875mm
●車両重量:1710kg
●エンジン:V6DOHC
●排気量:3497cc
●最高出力:200kW(272ps)/6000rpm
●最大トルク:350Nm/2400-5000rpm
●トランスミッション:7速AT
●駆動方式:FR
●10・15モード燃費:9.5km/L
●タイヤサイズ:245/45R17
●車両価格:850万円 (2009年当時)
メルセデス・ベンツE550アバンギャルド 主要諸元
●全長×全幅×全高:4880×1855×1455mm
●ホイールベース:2875mm
●車両重量:1870kg
●エンジン:V8DOHC
●排気量:5461cc
●最高出力:285kW(387ps)/6000rpm
●最大トルク:530Nm/2800-4800rpm
●トランスミッション:7速AT
●駆動方式:FR
●10・15モード燃費:7.8km/L
●タイヤサイズ:前245/40R18、後265/35R18
●車両価格:1080万円 (2009年当時)