4輪、2輪メーカーであるホンダは創業当初から日々の生活を支えるライフクリエーション事業に力を入れてきた。その中心となるのが、耕うん機、発電機、除雪機といった完成機、そして汎用エンジンの販売を担うパワープロダクツ事業だ。「意外と知らないホンダ」を追う第3回はパワープロダクツ事業部長 萩原耕太郎氏に話をうかがった。(インタビュアーはMotor Magazine誌 千葉知充編集長)

ホンダ パワープロダクツ事業とは

ライフクリーエーション事業本部の中のパワープロダクツ事業は、重労働から人々を解放して生活を豊かにする作業機械(耕うん機、発電機、芝刈機、除雪機、蓄電機、ポンプといった完成機)や、動力源としてそうした作業機械に搭載される汎用エンジンを扱う部門。ライフクリエーション事業本部は、このパワープロダクツ事業部、前回紹介したマリン事業部、エネルギーやロボティクスなどの新事業推進部の3部門で構成される。もともと無線機の発電用エンジンを自転車の補助動力にすることから始まったホンダにとって、「技術で人々の生活に役立ちたい」という創業者の理念を展開する事業は、まさに「原点」と言える。

画像: 萩原 耕太郎(本田技研工業株式会社ライフクリエーション事業本部パワープロダクツ事業部長):1991年に本田技研工業株式会社へ入社。国内4輪営業を経験した後、1995年に汎用事業本部(現在のライフクリーエーション事業本部)の海外営業に異動。以来、輸出営業、輸出路開拓、完成機の新規企画、欧米やアジアなどでの責任者、汎用パワープロダクツ事業本部エンジン事業室長などを経て、2020年から現職。1995年より一貫してパワープロダクツ事業に携わる。

萩原 耕太郎(本田技研工業株式会社ライフクリエーション事業本部パワープロダクツ事業部長):1991年に本田技研工業株式会社へ入社。国内4輪営業を経験した後、1995年に汎用事業本部(現在のライフクリーエーション事業本部)の海外営業に異動。以来、輸出営業、輸出路開拓、完成機の新規企画、欧米やアジアなどでの責任者、汎用パワープロダクツ事業本部エンジン事業室長などを経て、2020年から現職。1995年より一貫してパワープロダクツ事業に携わる。

汎用エンジンは25ccから779ccまで31機種をラインアップ

──ホンダは、2輪事業からスタートし、その後、無線機の発電用エンジンを自転車の補助動力にすることから自社製エンジンの開発に着手することになったということですが、こうした汎用エンジンを搭載した完成機を扱うパワープロダクツ事業は『ホンダの歴史』そのものなのですね。

萩原氏 「創業から5年後の1953年、小型農機メーカーからの依頼で開発した自社製エンジンを提供し、4輪事業よりも早く汎用事業に乗り出しています。その後、耕うん機、発電機、除雪機などの完成機を開発して事業を拡大してきました。これが現在のパワープロダクツ事業ですが、この事業に携わるスタッフは、直接、人々の暮らしに役に立っているという喜びを感じながら仕事をしています。そのスピリッツは創業者である本田宗一郎が描いていた『技術で人の役に立ちたい』というものなのです」

──ホンダのパワープロダクツ事業では耕うん機、発電機、芝刈機、除雪機、蓄電機、ポンプといった自社完成機と同時に、他の完成機メーカーにOEMとしてエンジンを供給するというビジネスも行っています。グローバルではどのくらいの台数を生産しているのですか。

萩原氏 「完成機として約200万台、汎用エンジンの供給として約400万台、あわせて年間約600万台になります。汎用エンジンの供給先は世界56カ国2205社にものぼります」

──ホンダは競合関係にある企業へも汎用エンジンを提供しています。通常は考えられないことだと思いますが、どうしてですか。

萩原氏 「当初はホンダが完成機を持っていない領域、たとえば建設機器とか、そういった分野のメーカーに汎用エンジンを供給するところから始まりましたが、徐々にホンダが完成機を持っている分野のメーカーにも供給するようになりました。汎用エンジンは、世界中で種類や使われ方がさまざまで、作業環境も振動や埃が多かったり、ちょっとした使い勝手の違いがあったりします。それらをすべてホンダで開発して完成機を展開するのは無理がありますし、もっと地域のニーズに密着した製品を他社に開発していただくことが、結局お客さんの役に立つのではないかということで、そうしたメーカーに広く汎用エンジンを供給するようになりました」

画像: 始動性、耐久信頼性で定評のあるホンダの汎用エンジン。 GXシリーズは作業機械用エンジンの世界基準となっている。

始動性、耐久信頼性で定評のあるホンダの汎用エンジン。 GXシリーズは作業機械用エンジンの世界基準となっている。

──世界中で圧倒的な信頼を獲得しているホンダとしては、完成機として販売するほうが収益面でもメリットが大きいのではと思いますが。

萩原氏 「汎用エンジンをいろいろなメーカーに供給することによって、我々がたどり着けないところで役に立つことができます」

──ホンダの汎用エンジンはどれくらいの種類があるのですか。

萩原氏 「現在、日本で25ccの1kW仕様から779ccの25kW仕様まで31機種が用意されていますが、地域や用途、完成機メーカーの要望に合わせて多くのバリエーションを用意しています」

──ホンダの完成機にはどんな特徴があるのですか。

萩原氏 「ホンダの汎用エンジンは始動性の良さ、安定した回転を特徴としており、耐久性があり長く使える、燃費がいいという評価をいただいています。さらに動力源のエンジンだけでなく完成機側でも精度の高い技術にこだわり、他ではない製品を開発しています。たとえば除雪機では、微妙な制御が必要な積雪路の走行をモーターが、パワーが必要な除雪作業をエンジンが行うハイブリッドを開発しました。雪質や路面の傾斜などに応じて走行をコントロールして扱いやすさを実現しながら、投雪の方向や距離なども細かく制御して、作業の負担を軽減しています。ハイブリッド式除雪機はモーターを駆動する電力をエンジンで発電しています」

画像: 扱いやすさで評価の高いホンダの除雪機。とくにモーターとエンジンを組み合わせたハイブリッドタイプは画期的な製品。

扱いやすさで評価の高いホンダの除雪機。とくにモーターとエンジンを組み合わせたハイブリッドタイプは画期的な製品。

空気を汚さない電動化は作業の快適化にもつながる

──パワープロダクツは今後どのように進化していくのですか。

萩原氏 「積極的に電動化を進めています。空気を汚さずクリーンで、騒音も小さいので作業が楽になるという点でも、電動化はこの分野でメリットがあります。換気が困難な場所や夜間や住宅地など騒音を回避したい環境でも作業ができます。ただ、現在のバッテリーの性能ではすべての領域で電動化を進めるのはまだ難しく、大きなパワーを出すためには重くなったり、作業可能時間が短くなったり、コストが高くなったりしますので、これまでエンジンがカバーしていた領域の小さいところから電動化を進めています。さらに汎用エンジンの電動化としては、2021年5月に汎用電動パワーユニット『eGX』の供給を開始しました。これはシャフトやフランジの取り付け穴などを既存の汎用エンジン『GX』シリーズと共通化して、完成機メーカーが現在の機械にそのまま乗せ換えられるのが特徴です。今後はこの汎用電動パワーユニットを使用した完成機も検討していきたいと考えています」

──ありがとうございました。今後も日々の生活の役に立つ製品の開発、ホンダのパワープロダクツに期待しています。(聞き手:Motor Magazine編集部 千葉知充/まとめ:松本雅弘/写真:井上雅行)

画像: 汎用エンジン「GXシリーズ」の電動パワーユニット版「eGX」。従来の完成機に乗せ換えられるのがポイントで、電動化促進に期待が寄せられている。

汎用エンジン「GXシリーズ」の電動パワーユニット版「eGX」。従来の完成機に乗せ換えられるのがポイントで、電動化促進に期待が寄せられている。

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