トヨタ ヴェロッサ(2001年〜2004年)
名前からしてイタリアっぽいヴェロッサは、トヨタとは思えない特異なセダンとして2001年7月に登場した。
ヴェロッサはチェイサー&クレスタの後継、ということはマークIIの兄弟モデルということになる。しかし、兄弟は他にもいた。「小さな高級車」を謳う5ナンバーのプログレ、それを若者向けにちょっと派手に仕立てて3ナンバーとしたブレビスだ。そう、ヴェロッサには、高級とは違ったベクトルのスポーティ路線がハナから求められていたのである。
企画が進められたであろう頃、日本で注目されていた輸入車があった。1998年5月から導入が始まったアルファロメオ156だ。ワルター・デ・シルヴァがデザインした躍動的なフォルムは、日本のみならず世界的ヒット作となっていた。
今やデザイン的なスタンダードであるリアバンパー左右下に小さなリフレクターを埋め込む手法はこのアルファロメオ156から始まっている。それだけ「156」の影響力は大きかった。ちなみにヴェロッサのリアバンパーを見れば、ちゃんとこのリフレクターが埋め込まれている。
ヴェロッサは「エモーショナル」というフレーズを多用していた。排気音を心地良くして「エモーショナルチューン」、ミラノの石畳に佇む姿をして「エモーショナルセダン」を謳っていた。
ヨーロッパに石畳は数あれど、ミラノと言えばアルファロメオである。トヨタのデザイナー氏も「トヨタのアルファロメオを作りたかったんです」と率直に語っていた。確かに「156」もスペックよりもエモーションで人気だったから、的を得ていたのかもしれない。
限定車「スペチアーレ」も、イタリア的なエモーションを追及していた
スタイリングを観ると、独立したフロントグリルがどことなくアルファロメオの「盾」のようにも感じられる。そこに至るボンネット上のキャラクターライン、加えてフロントフェンダーに配したキャラクターラインにも「156」らしさが見て取れる。
さすがにリアドアのノブは上部に隠さずフツーにしてるし、テールランプは横長とはしていない。が、トランクリッドのエッジの立て方に「156」を感じるのはうがち過ぎだろうか。躍動感を醸し出しているのは、マークII比で30mm短い全長、10mm低い全高が奏功しているに違いない。
エンジンはターボで280psと直噴自然給気で200psの2.5L版直6DOHCが軸で、廉価版として160psの2L版直6DOHCを用意。駆動方式はFRがベースで、2Lに4WDをラインナップしていた。トランスミッションは280psには5速MTか4速AT、一方の200psには5速ATを用意。ボディにはブレースを加えて剛性を5%アップ。3眼式メーターやアルミ製ペダルなどコックピットも「いい感じ」に仕立てていた。
ヴェロッサのエモーションがピークとなったのが2002年1月に登場した限定車「スペチアーレ」だった。スポーティ仕様のVR25をベースに、モデリスタの手によってエクステリアとサスペンションを強化。さらにヤマハチューンの2.5L版直6DOHCターボエンジンは300psを手にしていたのである。
しかし、その後が続かず、エクシードなるお買い得バージョンを追加するも起死回生とはならなかった。こうして2004年4月、ビスタ店とネッツ店の統合を機に販売を終了。2年8カ月で販売台数は2万6000台を数えたが、トヨタが想い描いていたような人気モデルにはならなかった。(文:河原良雄)