フェラーリ ポルトフィーノMやポルシェ911ターボ カブリオレを意識
多くの人が「コレが新しいSLなの?」と、驚いているのではないだろうか。2世代にわたって使われたバリオルーフはソフトトップに戻され、キャビンにはプラス2の後席が備わる。しかも開発はメルセデスAMGによって行なわれ、車名もメルセデスAMG SLへと改められたのだから。
かつてSLの独壇場だった市場は今、フェラーリ ポルトフィーノMやポルシェ911ターボ カブリオレといったモデルにじわじわと侵食されている。これらに対抗するにはプラス2の後席は欲しいし、そうなれば必然的にソフトトップを選ぶことになる。さらにAMGのスポーツカーとしてのブランド力も欲しいとなれば、この変化も必然だったのだ。
スペースフレーム構造の車体は完全新設計で、先代SLからもAMG GTからも何も流用していないという。素材はアルミを主体にマグネシウム、ファイバーコンポジット、そしてスチールの組み合わせで、AMG GTロードスター比で縦曲げ剛性40が%、横曲げ剛性は50%向上している。
60km/hまでなら走行中にも開閉可能なソフトトップは、21kgの軽量化にも繋がっている。Cd値は0.31と、オープンカーとしては上々の値を実現。なだらかに落ちたリアフードにはリトラクタブルスポイラーが備わり、さらにオプションとしてアクティブエアロダイナミクスも用意される。
インテリアで目をひくのがあえて残されたメーターバイザーだ。陽射しによる視認性悪化を避けるためというが、これが典型的なコクピット感覚にも繋がっている。センターディスプレイの角度変更が可能なのも同様の理由である。
あえてピュアICEで登場した意味が確かに感じられる
ラインナップはSL63 4マティック+とSL55 4マティック+の2モデル。エンジンはいずれも4L V型8気筒ツインターボで、前者が最高出力585ps、最大トルク800Nmを、後者が最高出力同476ps、700NMを発生する。これにAMGスピードシフト9MCT、そしてSL初となる前後トルク配分可変式の4マティック+が組み合わされる。
シャシのトピックは、フロントにアームをホイール内に収めたコンパクトなマルチリンクサスペンションを採用したこと。リアアクスルステアも装備する。その上でSL63 4マティック+にはアンチロールバーに代わって4輪のダンパーを連結させて姿勢制御に用いる新開発のAMGアクティブライドコントロールサスペンションが搭載された。
その走りっぷりでまず驚かされるのが、類い稀なるボディの剛性感である。まるでクローズドボディのクルマの感覚なのだ。舗装が荒れていようと安っぽい振動を伝えてくることはなく、ステアリングフィールも非常に質が高い。
SL60 4マティック+は、操舵と同時にほとんどロールを感じさせることなくヨーが立ち上がる鋭いレスポンスが印象的だ。リアアクスルステアの貢献もあって、とにかくよく曲がる。確かに従来のSLよりもスポーティなキャラクターが際立っている。
一方、SL55 4マティック+の方が挙動がナチュラルで、また乗り心地もマイルドに躾けられている。SLらしさで言えば、こちらとなりそうだ。
動力性能はどちらも不足があろうはずはない。嬉しいのは4マティック+の採用によって臆せず踏んでいけるようになったこと。今、ピュアICE車に乗る意味を存分に実感させてくれるのである。
ラグジュアリーなオープンスポーツとしてのSLを愛好してきた人にとっては複雑に違いないが、新しい一歩を踏み出したSLが、直接のライバルたちに負けない実力を身につけたことは間違いない。しかも、この先にはPHEVとなるであろう「E PERFORMANCE」の導入も控えている。レースシーンで活躍した300SLプロトタイプの誕生から70年。SLの進化はまだまだ止まらない。(文:島下泰久/写真:ダイムラーAG)
メルセデスAMGSL63 4マティック+主要諸元
●全長×全幅×全高:4705×1915×1353mm
●ホイールベース:2700mm
●車両重量:1970kg
●エンジン:V8DOHCツインターボ
●総排気量:3982cc
●最高出力:430kW(585ps)/5500-6500rpm
●最大トルク:800Nm/2500-5000rpm
●トランスミッション:9速AT
●駆動方式:4WD
●燃料・タンク容量:プレミアム・70L
●WLTPモード燃費:7.9-8.5km/L
●タイヤサイズ:前265/40ZR20、後295/35ZR20