ポルシェミュージアムが開催するイベントがハワイで行われた。目的は、歴代ポルシェのオープンモデルでハワイ島をクルージングし、ハワイの文化、自然に触れるというものだ。(Motor Magazine 2022年3月号より)

65年前のクルマとは思えない高い完成度に驚いた

そもそもポルシェは、フォルクスワーゲン ビートルのコンポーネンツを流用することでRRという宿命を背負うことから始まったスポーツカーだ。今、356Aスピードスターに乗ってみると、とても65年前のクルマとは思えない完成度の高さに驚かされる。760kgと軽量かつ強固なシャシとリアに積まれた160psの空冷フラット4とのバランスは見事で、RRの気難しさを一切感じさせずに意のままに操れるからだ。

その後356はモアパワーの声に応え、フラット6を積む911へと進化するのだが、一方でポルシェは乗りやすさ、実用性、快適性を意識した、脱RRのモデルを模索していくことになる。そうして生まれたのが、MRの914であり、トランスアクスルFRの944だ。

今回は911T用の2L空冷フラット6を搭載した914/6と、トルクフルで扱いやすい2.5L水冷直4ターボの944をドライブしたのだが、シャシバランスもエンジンも素晴らしく、スポーツカーとしての総合能力は同時代のライバルたちを遥かに上回っていることを実感した。

画像: 911T譲りの110psのフラット6を積む914/6は、914の上位車種として生まれたが、わずか2年で姿を消した悲運のモデル。リンケージの関係でシフトフィールは曖昧だが、クイックかつ安定したハンドリングは最高だ。

911T譲りの110psのフラット6を積む914/6は、914の上位車種として生まれたが、わずか2年で姿を消した悲運のモデル。リンケージの関係でシフトフィールは曖昧だが、クイックかつ安定したハンドリングは最高だ。

ではなぜ914と944は短命に終わったのか? それは914のデザインと、944のメカニズムが「ポルシェらしくなかった」ということに尽きるのだと思う。

そうした過去の経験を踏まえて、すべてを解決して見せたのが、初代986型ボクスターということなのだろう。各部のデザインに911らしさが垣間見えるのはもちろん、背後からボクサーエンジンのサウンドが響き渡り、リアの挙動を意識しながらハンドルを握ってワインディング路を駆け抜けていると「ポルシェに乗っている!」という高揚感に包まれる。

また今回は、サポートカーとして718スパイダー、911ターボカブリオレなど現行のモデルも持ち込まれていたのだが、「リアのトラクションを意識しながら意のままに操れるポルシェらしさ」は、どのモデルにもしっかりと色濃く受け継がれていた。そしてそれこそが、今も快進撃を続けているポルシェの唯一無二の魅力なのだと、改めて気付かされた。(文:藤原よしお/写真:藤原よしお・ポルシェ AG)

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