多くの人が「移動」という行為を愛し続ける限り、自動車という道具がこの世界から姿を消すことは、おそらくない。けれど「スーパーカー」は、単なる道具ではない。その特別な価値と環境性能との正しいバランスが、より強く求められている。(Motor Magazine Mook スーパーカー・パーフェクトファイル2021-2022より再構成)
はじめに ─── 終わりなき欲望を満たすために、人が負うべきもの
スーパーカーが優れた環境性能を謳うにあたって最大の難関は、果たしてどこにあるのだろう。最高のパフォーマンスと優れた環境性能の両立……は、もちろんハードルが高い。けれど本当に難しいのはおそらく、それぞれのブランドが持つ伝統と価値を、どうやって保ち続けるかだ。
せっかく長い時間をかけて築き上げてきた輝かしいイメージを、損なうわけにはいかない。時代の変遷に寄り添った革新はもちろん必然だ。それでも顧客やファンが求める「あるべき姿」をむげにしては、ブランドとしての成立すら脅かしかねない。
国連の公式定義では「すべての人々にとってより良い、より持続可能な未来を築くための青写真」であるSDGsとは、一方で「人が尽きない欲望を満たし続けるために果たすべき責任」なのかもしれない。スーパーカーを手がけるブランドは例外なく今、懸命にそれを果たそうとしている。
それならば乗り手もまた、今そこに起こりつつあるかつてない流れの行方を、しっかり見極めておくべきだろう。スーパーカーたちのSDGsは、すぐそこに見え始めているのだから。
ベントレー×再生可能燃料。温室効果ガス85%削減。─── コンチネンタル
GT3 パイクスピーク
「電動化宣言」はある意味、SDGsのもっとも手っ取り早くわかりやすい対応策と言える。しかし近年、改めてICE(内燃機関)の存在意義を見直そうという機運が起こり始めている。それが再生可能燃料開発への取り組みだ。
英語ではSustainable FuelもしくはRenewable Fuelと呼ばれるものだが、太陽光や風力といった発電システムを指す再生可能エネルギーとは、少し違う。多くは植物や藻類といった自然素材を加工して液体状の燃料とし、従来の化石由来の燃料と同じように燃焼させて駆動力を発生させるものだ。カーボンフリーの流れで計算するなら時に85%ものCO2 ガスの排出量が削減されることになるという。
ベントレーは、そんな再生可能燃料を本格的なレースシーンで採用し、上位入賞を果たした。しかも舞台は過酷なことで知られる米国パイクスピークのヒルクライムレースである。ドライバーは、「キング オブ ザ マウンテン」の異名を持つリース・ミレンだ。
参戦マシンはコンチネンタルGT3 パイクスピーク。ベントレー史上最大のリアウイングやフロントプレ―ンスプリッターなど、迫力のエアロダイナミクスを装備する。市販仕様をベースに、富士山よりも海抜が高いコースでの戦いに合わせたチューニングが施された4L V8 ツインターボは、最高出力750ps+αを発生。冷却系も強化されている。
燃料は、エクソンモービルが開発。バイオマス由来の合成燃料ながら、オクタン価は98に達する。
100年を超えてなお愛され続けるために
レースでは、コンディション悪化に伴いコースが短縮されてしまったため、目標だったタイムアタッククラス1での記録更新は実現できなかったが、クラス2位、総合4位、再生可能燃料搭載車としてトップのタイムをたたき出した。
エクソンモービルは2021年3月、モーターレースにおける合成燃料の試験を、ポルシェとともに行うことを発表している。「eフュエル」と呼ばれる、水素と二酸化炭素を触媒反応で合成した液体燃料もテストされるようだ。
ベントレーのこうした取り組みは、SDGsを象徴する「ビヨンド100」戦略に則ったプロジェクトの一環である。
100年を超える歴史で販売されたベントレーの実に80%以上がいまだ現役で走り続けている上に、今後9年間はICE搭載車の生産継続が公表されている。そうした「クラシック」なベントレーを愛するオーナーが、可能な限り長く愛車との幸せな時間を過ごしてもらえるように、というブランドの願いが込められているのだ。