日産自動車は2022年4月8日、かねてから2028年の実用化を公言していた次世代バッテリー技術「全固体電池」の開発状況に関する技術セミナーを開催した。小型軽量化や航続距離の延長が期待される夢の蓄電池は、バッテリーEVのさらなる多様性を広げてくれる可能性を秘めている。EV価格の常識まで、もしかすると変えてしまうかもしれない。

全固体電池を搭載すれば、リーフの航続距離がほぼ1000kmまで延びる?

主な技術的メリットと→ユーザーが受けるメリットは以下の7つが挙げられる。

・液体電解質のような熱分解が起こらない→発火リスク低減など、安全性が高い
・リチウムイオンの移動が素早い→急速充電が可能
・エネルギー密度が高い→同じサイズでも電気の容量が増える=高性能化、小型軽量化
・作動温度範囲が高い→暑くても寒くても性能低下が少ない
・形状の設計自由度が上がる→いろいろなタイプやサイズのクルマに搭載できる
・液漏れがない→事故時の二次災害を防ぐことができる
・劣化しにくい→ライフが長くなるとともに、リユース、リサイクルでも有利

画像: 充電時間に関しては従来の3分1、理論上の航続力は同じ大きさでも倍になる。つまり日常的な使い勝手の良さが向上する。発火や液漏れの危険性がなければ、もちろん安心感も高まる。

充電時間に関しては従来の3分1、理論上の航続力は同じ大きさでも倍になる。つまり日常的な使い勝手の良さが向上する。発火や液漏れの危険性がなければ、もちろん安心感も高まる。

画像: 大柄なEVには大容量=重いバッテリーの搭載が必要だったが、全固体電池なら重量増を抑えても航続距離を保つことが可能になる。

大柄なEVには大容量=重いバッテリーの搭載が必要だったが、全固体電池なら重量増を抑えても航続距離を保つことが可能になる。

たとえばリーフ(e+)に同じサイズの全固体電池を搭載すると仮定すれば、現状の458km(WLTCモード)の倍、ほぼほぼ1000kmという航続距離を達成できる。

あるいは同じ電気容量でも、小型・軽量化すれば搭載するスペースが少なくて済む。よりコンパクトなクルマにも積めるし、荷室や居住スペースへの影響も少ない。

作動温度の範囲が広いことや形状の自由度が高いことも、搭載車種の多様性拡大につながることだろう。大柄なSUVから軽自動車に至るまで、さまざまな個性に対応することが可能になるのだ。

また、ライフが長ければリユース、リサイクルしやすいから、さらに環境にも優しいことになる。今後の研究によっては、自動車用ではなくスマートフォンなど違う領域でのリユースも考えられるという。

使い勝手やコストが、内燃機関と同等以上になるかも

全固体電池のさまざまなメリットは、コスト的にも車載用バッテリーの常識を塗り替える可能性を秘めている。液体系のようにコストがかかるセパレーターを使う必要がない上に、高温にも強いことから冷却系の補機類についてもコストダウンを狙えるという。

リチウムイオン電池の平均価格の推移を調べたBloomberg NEF(リサーチサービス)のデータによれば、2013年にパックとセルを合わせた価格は668ドル/kWhだった。それが年平均20%のペースで下落しており、2023年には100ドル/kWhまで下がっていくと考えられるようだ。

画像: 2028年半ばの実用化に向けて、今回のセミナーと合わせる形で、全固体電池の積層ラミネートセルを試作生産する設備が新たに発表された。こちらは、神奈川県横須賀市の同社総合研究に設置される。

2028年半ばの実用化に向けて、今回のセミナーと合わせる形で、全固体電池の積層ラミネートセルを試作生産する設備が新たに発表された。こちらは、神奈川県横須賀市の同社総合研究に設置される。

日産によれば新たに全固体電池に切り替えることで、2028年の実用化に向けて75ドル/kWhから将来的には65ドル/kWhを目標としているという。実を言えば液体系リチウムイオン電池についても、一説によればEVの価格のおよそ4割が「バッテリーのコストを転嫁されたもの」だとも言われているほどだから、そのコスト削減効果ははかり知れない。

この全固体電池の実用化に向けたロードマップについて日産は、2022年1月に「2024年までに横浜にパイロットプラント、2028年半ばまでに実用化を目指す」ことを発表している。

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