フラットツインを彷彿とさせる「機電一体最強e-Axle」が出現
はじめに紹介するのは、不思議な形をした大型のeアクスルだ。昨今コンパクト化が主流のeアクスルとしては、大胆過ぎるほどに存在感を放っている。掲示されたスペックボードを見ると、「最大出力」は420kWと書いてある。わかりやすく馬力換算すれば、およそ570psほどか。
「おお、これはなかなか」なんて感心していたら、説明員さんが笑いながら訂正してくれた。「いえ、これは片側1個のスペックでして。合わせると1000psは軽く超えちゃいます」。
単純計算で570ps×2基=1140psに達してしまう。フェラーリのV8スーパーPHEV「SF90」が発生する1000psを、軽く飛び越えてしまうスペックだ。ちなみに最大トルクは?「700Nmくらいですね」。1000Nmとか言われたらどうしようと思っていたから、ちょっとホッした。
それにしても不思議な形をしている。そもそも一般的に「eアクスル」は、電動化が本格化する時代に向けて電気モーターとインバーター、ギア(減速機)をモジュラー化したもの。高い効率を発揮しつつ軽量、コンパクトにまとめるための統合型パワートレーンとして認識される。コスト的なメリットも追求された形だ。
しかし「αlive EE(アライヴ エレクトリックエンジン)」の「Tシェイプ」ユニットは中央にギアを配置し、その左右にまったく同型ながら対称に作られた電気モーターとインバーターをくっつけている。インバーターがユニット上の横置きではなく、ユニット横に縦置きされているのも面白い。その形には、ちょっとだけフラットツイン(水平対向2気筒エンジン)の雰囲気を漂わせているような気がした。
デモカーが作られる可能性も大。どんなスーパーモデルになるのだろう
実はこれ、できる限り平面方向の厚みを抑えるための形だという。フェラーリの最新モデルも真っ青な想定スペックを見ればわかるとおり、このユニットはいわゆる「スーパーカー」レベルへの搭載をテーマに開発されたのだそうだ。
「アライヴ」は、2021年からヤマハ発動機が立ち上げた、自動車向けの技術コンセプトであり製品ブランドである。「アライヴ EE」はその一環として開発された電動モーターユニットで、発表当初は350kWだった。複数での搭載を想定したこのユニットのポテンシャルを420kWまでアップした上で、2基を並列配置したのが今回展示された「Tシェイプ トルクベクトリングユニット」というわけだ。
スーパーカーは空力やカッコよさの関係もあって基本、平べったい。だから前後左右方向にはそれなりにボリュームを持たせつつも、できるだけ薄くフラットにレイアウトされているのだ。なるほど確かにこの形状とサイズなら、ランボルギーニ アヴェンタドールのV型12気筒ユニットの代わりに載せることもできそうだ。
この個性的なパワートレーンを企画したのは、静岡県湖西市に本社を置く株式会社ユニバンス。駆動系ユニットの専門メーカーで、4輪駆動システムやトランスミッションなどを開発するサプライヤーだが、近年は電気自動車における新たな提案もスタート。Webモーターマガジンでは2021年に、同社製4モーター4WDシステム「DMM eアクスル」のデモンストレーションを紹介したことがある。
今回の人テクではほかにも、駆動用モーターとは別にアドオンタイプのサブモーターを備え、左右輪にベクトリング効果を発生させる「トルク差付加型eアクスル」を展示。デフなども取り扱ってきた老舗サプライヤーらしい、ユニークだけれど地に足の着いた発想で技術革新を切り拓こうとしている。
かつてDMM eアクセルは、トミーカイラZZをベースとしたテストカーが試作され試乗することができた。同様にこちらの「Tシェイプ トルクベクトリングユニット with アライヴ EE」も将来的には、実証用の車両製作を検討しているというから、楽しみだ。ウキウキしすぎて後からひとつ、確認し忘れていたことに気づいた。
最大トルク700Nmって、まさか「片側」の話では・・・ないですよね。
堅実系のトレンドは小型・軽量化が中心。得意技を活かしたひと工夫も
のっけからぶっとんだ一例を紹介したが、押しなべて感じられたeアクスルの進化は堅実だ。小型化・軽量化・高効率化といったアドバンテージをどのように高めていくか、各社はそれぞれに発想し具現化に取り組んでいる。
当然と言えば当然だが、ひと通り会場を巡って改めて感じたのは、電動化を巡る進化の世界は思い切り広くて深いものなのだな、ということだった。素材系など、扱うカテゴリーの枠を超えた数々のチャレンジングな提案は、これからの電動化モビリティをますます面白くしてくれそうだ。