心地よい毎日を送ることができる、ちょうどいいEVらしさ
初めての公道試乗は、通算20分ほどとほんのわずかなものだった。都心の駐車場からレインボーブリッジを渡り、湾岸警察署までの往復。合計でも十数kmに過ぎない。
もっともこのくらいの時間や距離が、実は軽自動車ユーザーの多くが日常的にこなしている利用シーンにとても近いような気がする。結論から先に言えば、eKクロス EVはそんなシチュエーション限定ではあるのだけれど、とても心地よいドライブを体験させてくれたのだった。
好印象を受けたポイントとしては、EVの良さをしっかり感じさせながら、同時にEVにありがちなネガティブファクターをうまく緩和していることが挙げられると思う。
たとえば日常領域での乗り心地が、想像以上に穏やかだったこと。
駆動用バッテリーを床下に配置、それに対応した剛性を得るために補強されたEVのボディは、低速で走っていると路面の凹凸やアンジュレーションをダイレクトに伝えてくることがある。
しかしeKクロス EVは、普通に乗るにはちょうどいい塩梅に仕上げられている。低速で走っている時のボディの剛性感と、タイヤ、サスペンション系のしなやかさ、パワーステアリングの味付けといった操作に対する挙動変化のしっかり感などが、絶妙にバランスしている。
それはおそらく、誰が乗っても「シャープでスポーティ」などと評されることはない。一方で、誰が乗っても不快感を覚えることはない。とことん素直なドライブ感覚だ。
どうせなら「EVって面白くて楽しい」と感じて欲しい
スポーティじゃなくて素直、という意味では、加速時の力強さに関しても同様に「素直」さが好ましい。
最高出力64ps(47kW)はガソリンターボモデルと同等だが、最大トルクは100Nmのターボに対してほぼ倍近い195Nmを発生する。とはいえ、アクセルペダルの踏み込みに対してドーンとトルクが立ち上がる系の電気モーターらしさ丸出しの特性は感じられない。
どちらかと言えばゼロ発進からスムーズにトルクが立ち上がり、60km/hくらいまで伸びやかさをしっかり伴う味付けが好ましい。そんなところもスポーティというよりは、誰にとっても優しくて操りやすいと思わせてくれる、eKクロス EVの美徳と言えるはずだ。
電気モーターが発する不快な高周波系ノイズや、路面からのタイヤorロードノイズ、風切り音といったEVならではの音の課題についても、しっかり対策されているようだ。少なくとも今回のようなシーンでは、静粛性について決定的なネガティブ感を覚えることはなかった。
ここまで書いてくるとなんだかEVの弱点をアラ探ししているように思われるかもしれない。だが「初めてのEVライフ」を送るにあたって、そうしたネガティブを克服している、ということは非常に重要だ。どうせなら、初めてのEV体験からとても面白い、と感じてもらいたい。
たとえばeKクロス EVの場合なら、7インチデジタルディスプレイの「踊るメーター」が見た目でもなかなかに楽めるワンポイントと言える。アクセルペダルを開け閉めすると、敏感極まりないタコメーター表示のようにビンビン反応する。
ちょっとだけエンジン搭載車っぽいアレンジは、ICE(内燃機関)に乗り慣れた「初めてのEVユーザー」も楽しめるハズだ。