V8化とセダンの廃止は、ダウングレードにつながった?
The C7: making more from less
アウディが公式にRS 6の20周年記念を謳ったリリースの中で、第3世代「C7」系の解説部分にはこんな見出しがつけられている。直訳すれば「より少ないものからより多くのものを生み出す」ということになるが、そこにはC7の進化の方向性について、ちょっとした誤解を解く意図が込められているようだ。
2013年にフルモデルチェンジを果たした第3世代RS 6は、さまざまな変化でファンの間に物議を醸した。たとえばセダンがラインナップから消滅、ステーションワゴンのみになったことは、ひとつの大きな転換点だったと言える。
本質的には「アバントRS2」に先祖返りしたともとれるが、流麗な4ドアサルーン「RS7 スポーツバック」が別建てで誕生することで、RS 6はその立ち位置をより明確なものにすることができた、と考えていい。
もうひとつ、C6系 RS 6ユーザーが買い替えに躊躇する最大の原因がV10からV8ユニットへの変更と、当時としてはRS 6史上最少排気量となる4Lツインターボ化だった。確かに、わかりやすいダウングレード感が拭えない変化ではある。
だがそうした「批判」の声は、ほどなく沈黙することになる。アウディは、ドライビングダイナミクスと効率の面において、以前のRS 6モデルをはるかに凌ぐ優れたパッケージングを、V8ユニットによって実現していたのだ。
重量バランス、エンジン効率など、さまざまな意味で「洗練」が進む
とくに「効率的な軽量化」という意味でのメリットは大きかった。C7系 RS 6でのV8ユニット化は約100kgを削減、エンジン搭載位置を約15cm後ろに下げて前軸への荷重を従来の約60%から約55%に低減することで、よりバランスに優れた重量配分を実現していた。
2気筒削減とともに20psほど最高出力はダウンしているものの、トルクは700Nmを発生。さらに新設計の8速ティプトロニックの採用によって、0→100km/hの加速時間はわずか3.9秒まで短縮された。C6系 RS 6に比べて0.5秒もの改善となる。
最高速度は305km/hに達したが、C7系の進化の本質は、単なる「速さ」だけでは語れない。たとえばクルージング時など負荷が軽い領域で2気筒を休止するシステムなどの採用によって、燃料消費量が従来比で30%も低減されていた。
ユーザーからの要望もあって、快適性についても見直しが進められている。DRCサスペンションの熟成とともに、減衰力を最適化するアダプティブエアサスペンションを標準装備化したのは、この第3世代が初めてだ。しかもスポーティな走りの領域での安定感もまた、先代とは一線を画するレベルに達していた。
さらに2016年7月、C7系RS 6にはハイパフォーマンスモデルとして「RS 6 アバント パフォーマンス」が追加設定される。最高出力はベースモデル+45psの605psに達し、最大トルクも750Nmを発生した(オーバーブースト時)。
この「パフォーマンス」は、マットチタニウムルックにアレンジされた専用エアロも装着して、その高性能をさりげなくアピールしていた。ハイスペックなスポーツワゴンとしてマーケットをリードした第3世代 RS 6は、なかなかに通好みなキャラクターの持ち主だった、と言えそうだ。
■アウディ RS 6 アバント パフォーマンス 2016年式 主要諸元
●全長×全幅×全高:4980×1935×1480mm
●ホイールベース:2915mm
●車両重量:2030kg
●エンジン:V8 DOHCツインターボ
●排気量:3992cc
●最高出力:445kW(605ps)/6100-6800rpm
●最大トルク:700Nm/1750-6000rpm
●駆動方式:4WD
●トランスミッション:8速AT(ティプトロニック)
●タイヤサイズ:285/30R21