さらに磨きがかかったeトロン Sのシャシ性能
エクステリアは前後バンパーやアルミルックのミラーハウジング、リアのスポイラーリップや幅広のディフューザーインサート、20インチアルミホイールなどを装備している。もともとBEVはバッテリーが床下中央に敷き詰められていることで、重心が低く、かつ、ヨー慣性モーメントが低い(曲がる力を出しやすい)ので、ハンドリングなどのシャシ性能のポテンシャルはエンジン車ではあり得ないぐらいに高い。
さらに、エンジンマウントによる重量物の揺動というダイナミクス性能への悪影響がないこともシャシの能力を存分に引き出すことに繋がっている。ファーストエディションのeトロン試乗時にも、驚くほどのシャシ性能に感動したが、eトロンSは当然のことながらさらに磨きをかけていた。
ワインディングロードを駆け巡っていても、シャシ性能は余裕綽々でまったく破綻の予兆をみせずに操縦安定性は抜群。限界はどこにあるのか、想像もつかないぐらいだ。しかも、ハンドル操作に対して思いどおりに曲がってくれる能力も呆れるほどに高く、クワトロなど2基モーターのモデルを超越している。それも違和感はほとんどなく、システムによって無理矢理に曲げている感覚がないのが見事だ。
逆に言えば、リアの左右のモーターが積極的に働いていることはあまり感じなかった。サーキットではドリフト走行も可能というが、どうやら本当の限界領域までいかないと明確な3モーター感は味わえないようだ。
そこを、もっとわかりやすくして欲しいと思うのか、いやいやこれこそアウディらしいソフィスティケートだと捉えるかは好み次第だが、違和感のなさが高度なテクノロジーであることは間違いない。
加速もひときわ強烈だ。0→100km/h加速は4.5秒だが、体感的にはもっと速く思える。起動トルクが強烈で0→50km/h程度がエンジン車ではあり得ない次元だからだ。調子づいてフル加速を繰り返すと、同乗者が気分を悪くしてしまうかもしれない。
乗り心地は引き締まってはいるものの、ダンピングに優れているので不快さはなく、洗練された雰囲気。大きなオウトツを乗り越えるときに、スポーティなモデルなのだと気付かされるが、基本的には快適だと言っていいだろう。
そもそものポテンシャルが高いBEVを体験してしまうと、エンジン車に戻れなくなってしまいそうで怖いぐらいだ。(文:石井昌道/写真:永元秀和、井上雅行)
アウディ e-tron S スポーツバック 主要諸元
●全長×全幅×全高:4900×1975×16150mm
●ホイールベース:2930mm
●車両重量:2690kg
●モーター:交流同期電動機
●モーター最高出力:370kW(ブーストモード時)
●モーター最大トルク:973Nmm
●バッテリー総電力量:95kWh
●一充電走行距離:415km
●駆動方式:4WD
●タイヤサイズ:285/45R20
●車両価格(税込):1437万円