突き抜けた個性の数々とスタイリングの妙味に感心
そういう目線でDSオートモビルの最新ラインナップを見つめ直してみれば、前述したような「都会の流行り」という凡庸な喩えだけでは説明しきれない、突き抜けた個性の数々が各モデルには散りばめられていることがわかる。
もっともコンパクトなDS3クロスバックには、小さい体躯だからこそめいっぱいの個性が詰め込まれ、ミッドサイズSUVのDS7クロスバックには無骨になりがちなセグメントにおける個性豊かなデザイン提案を成し遂げた。
そして今回、誌面の主役として選んだもう2台のDSはというと、ハッチバックとサルーンという、言ってみれば欧州車の超定番にして、もはややり尽くされた感のあるカテゴリーにあえて切り込んだあたりに、サヴォア フェールの堅牢先取な精神を思い出したのは筆者だけではあるまい。
DS4には、ブランド最新モデルであるがゆえ、デザイン的な未来予想ディテールが組み込まれている。フロントマスクに目立つL字型のデイタイムランニングライトなどはその代表的なものだろう。それにしてもすでにデザインも出尽くしたと思っていた伝統的なCセグメントハッチバックスタイルの枠組みにあって、これほど「違う」形がまだあったものかと、そのスタイリングの妙味には感心するほかない。
大径のタイヤ&ホイールとサイドのロワセクションによっていくぶんクロスオーバースタイルに寄せつつ、そこを強調しすぎない程度に前後フェンダーやフード、ルーフラインを彫刻的に仕立てた。さらにサイドウインドウ面積を狭めてクーぺ的な雰囲気さえ漂わせていることで、巷のハッチバックとはまるで違う存在感を放つ。実際、車高は標準的なハッチバックモデルに比べて5mmほど高くなっているに過ぎず、全高は1600mmに収まっている。
ディテールを見れば、これぞDSオートモビルの真骨頂というべきで、レーザーエンボス加工の施されたテールランプなどは現代のDSらしさに溢れるデザインだ。
インテリアはさらに見どころが多い。個人的にはエクステリアよりもインテリアの美しさが際立っているクルマではないかと思う。全体的なデザインも非凡なものでこれまたディテールが凝っている。クロムパーツに施された「クル・ド・パリ」の装飾などはいろんな意味でおよそ現代のDSモデルにしか似合わない文様だろう。
取材車両は真ん中のトリムレベル「リヴォリ」のピュアテック=1.2L直3ターボエンジン搭載で、8速ATが組み合わせられる。ディーゼルグレードに比べるとここ一発の力強さには欠けるものの、実用域においては十二分なパフォーマンスを発揮する。
そのドライブフィールはシトロエンでもなく、かといってプジョーでもない「新種」の心地で、基本的にはフラットライドを演出しつつも異なる環境下でさまざまなフランス車的特色(柔らかかったり、滑らかだったり)を断片的に表すあたり、DSオートモビルが現代的で新しいライド感を模索した結果というべきかもしれない。
潤いのあるドライブフィール真っ当なクルマづくりの肝要
一方のDS9はどうか。少しだけややこしい話をすると、このモデルはひと世代前のプラットフォーム、すなわちDS4と同じEMP2といってもバージョン2(旧タイプ)を使っている。
DS4やプジョー308、シトロエンC5 Xなど最新モデル群の使うバージョン3がクロウト筋には大変好評だから、ひょっとして今、それも最新モデルのDS4と比べるようにしてDS9に乗ったなら、ちょっとガッカリしてしまうのではなかと試乗前には危惧していた。ところが・・・。
取材車両は「オペラ」のピュアテックで、1.6L直4ターボに8速ATを組み合わせたグレードだが、これが思いのほかナチュラルかつ思いどおりに走らせることができて驚いた。最新モデルにありがちな機械からの「でしゃばり感」がまるでなく、しっとりとよく手に馴染む。
ドライブフィールに潤いがあるとはこのことで、300Nmのトルクを余すところなく使いながら街中から高速、カントリーロードを気持ちよくこなす。噛めば噛むほどに味わいの出るモデルで、なるほど長い付き合いになることの多いセグメント及びカテゴリーゆえ、こういう真っ当なクルマづくりこそ肝要だと改めて思い知る。
とはいえ、そこはDSオートモビルのフラッグシップモデルだ。美しいサルーンスタイルには随所にクラシックもしくはアバンギャルドな装飾が施されており、誰が見ても「何かが違う」という雰囲気を醸し出す。インテリアに至っては、これはもうセグメント最高レベルのラグジュアリーぶりで、しかも見栄えも個性的だから、こちらも見れば見るほどに惚れてしまうという類の空間だ。
デザインだけじゃない。レザーやステッチなどマテリアルの質感やカラーも上等で、このインテリアだけで「買う理由」になると思う。あからさまに新しいギミックに頼りがちなドイツ系のサルーンよりある意味コンサバティブでもあって、新しいモデルに脇目も振らず、長く付き合おうという気にもなるだろう。