幌を閉じた状態でのカッコ良さにもこだわった
横浜みなとみらいに移転してまだ間もない真新しい日産自動車本社ビルの地下駐車場で、デビュー直後のフェアレディZロードスターのインテリジェントキーを受け取る。オプション設定の特別塗装色、プレミアムディープマルーン(13万6500円)とその個性的なボディ色に合わせたボルドーカラーの幌というおしゃれな組み合わせのバージョンSTモデル、7速AT仕様だ。
新型フェアレディZロードスターのとりまとめを担当したのは、Infiniti製品開発本部で車両開発主管を務める田村正樹氏。日本には導入されていないインフィニティG37コンバーチブルも手がける氏によれば、そのスタイリング目標には「幌を閉じた状態でもカッコイイこと」があったという。
先代モデルはオープン状態でこそ美しかったが、トップを閉じた姿がもうひとつだと感じており、今回はそこの仕上がりにとくに力を入れたとのこと。なるほど、ソフトトップのルーフ後端が90mm長くなったことで、ボディ部分に対するトップ部分のバランスが大きくなっている。さらにシート背後からトランク部分にかけてボリューム感を強調して盛り上がったデザインが、クローズド時でも間延びした感じがなく、豊かな印象を与えてくれる。
まず「フェアレディZ」であることこそが大事
走り出すと、どこか懐かしい感じが伝わってくる。最新モデルでは味わえない、若かりし頃に乗ったクルマを思い起こさせるような感覚だ。フロントタイヤが回転していることを理解できる感触。そして、路面にある凹凸の存在をストレートに感じさせてくれるような細かい上下動がしっかりと伝わってくる。
吸気バルブ作動角とリフト量を連続的に可変させるVVEL(Variable Valve Event and Liftsystem)でエンジンへの吸入空気量をコントロールする3.7L V6DOHCのVQ37HRエンジンは、アクセルペダルの踏み込み量に応じて、ゴワーッという盛大なサウンドとともに力強くボディを押し出す。7速ATは、2速以上のほぼ全域でロックアップ制御を行い、ダイレクト感の実現を目指した高効率型。マニュアルモードでは、パドルシフトでの俊敏な変速もできる。
高速道路へと入り、流れに乗りながら巡航する。軽量化と収納時のコンパクトさのためもあり、キャンバス地のトップはそれほど厚くないので、風切り音も含めて外の音がきちんと聞こえてくる。だがそれも、ロードスターらしさという意味ではいかにも好ましいものだろう。
追い越し加速の時に感じたのは、旧来のAT的な変速作法。アクセルペダルを踏み込むと、まずエンジン回転がグンと上がり、一瞬の間をおいてからガーッと加速状態へ入る。これはキックダウンでもパドルシフトでも同じだった。
撮影場所で、トップを開ける。スイッチ操作だけで全閉と全開の状態へ約20秒で変身する。マグナ社との共同開発というソフトトップの電動油圧式フルオートシステムは、収納性を考えて軽量コンパクトさが最大限に重視された。マルチピボットと溝付きリンクを用いた開閉動作もユニーク。動作中にバタン、バタンという音とともにルーフの跳ね上がるような動きが入る。
エンジン音とともに、Boseサウンドシステムから好きな音楽を流して走るオープンドライブには、きちんと風を感じる楽しさがある。
確かに最初は「あれ?」という感覚を覚えた。だが乗っていると段々そのフィーリングに慣れてくる。そうすると「この感覚こそが、フェアレディZらしさなんだ」と理解することができた。
フェアレディZは実に潔い。「性能」と「スタイル」と「バリュー」という3つの価値が明確に定義されているからだ。ユーザーはライバルとしてポルシェボクスターやBMW Z4も意識するという。だがフェアレディZを考えるユーザーにとっては、何よりもまずそれが「フェアレデZ」であることこそが大事なのだ。すでに心の中にあるイメージ、それを明瞭に感じさせてくれるスタイリングと走り味を備えているのだから、これほど明快で心強い存在はないだろう。(文:Motor Magazine編集部 香高和仁/写真:堀越 剛)
日産フェアレディZ ロードスター バージョンST主要諸元
●全長×全幅×全高:4250×1845×1325mm
●ホイールベース:2550mm
●車両重量:1580kg
●エンジン:V6DOHC
●排気量:3696cc
●最高出力:247kW(336ps)/7000rpm
●最大トルク:365Nm(37.2kgm)/5200rpm
●トランスミッション:7速AT
●駆動方式:FR
●車両価格:509万2500円(2009年当時)