ボディとシャシにさまざまな特別装備
プレミアムブランドを支えるには4つの要素が必要である。①ハイテク、②デザイン、③ヘリテージ、④モータースポーツでの成功である。これらが憧れを生み出し、購買意欲を掻き立てる。ポルシェにはこのすべてがあり、市場に送り出す製品には必ずそのプレミアムDNAが内包されている。
リアアクスルステアリング採用。ドライビングモードにラリーローンチコントロールも備わる。
2022年11月のロサンゼルスオートショーで発表された911ダカールは、その直球ど真ん中なモデルである。84年にパリ・ダカールラリーで優勝したモータースポーツのヘリテージが最新の4WDシステムを搭載したエバーグリーンの911に息づいている。
911ダカールのベースとなるのは、911カレラ4GTS。3L水平対向6気筒ツインターボエンジン搭載で、最高出力480ps、最大トルク570Nmを発生、8速PDKが組み合わされている。もちろん4輪駆動で走行性能は0→100km／h加速が3.5秒、スペシャルオフロードタイヤを履き、オンロードの最高速は240km／hに抑えられている。
ボディおよびシャシには、オフロード走行を考慮したさまざまな特別装備が与えられている。まずステンレスで保護されたGT3風のエアインレットとアウトレットを持ったボンネット、カーボン製固定式リアスポイラー、そしてボディ先端およびサイドシル、リア周囲は0.8mmの鋼板を装着しボディを守っている。
プラスチック製のオーバーフェンダーはフロント245／45R19、リア295／40R20サイズのオフロードタイヤをカバーしている。このタイヤは、9mmの深さを持ったプロファイルと2重のカーカスを持った専用開発品である。
シャシにも当然ながら対策が与えられており、スタンダードカレラよりも5cm、過酷な条件によってはさらに3cm引き上げることも可能であるが、しかしこの車高は低速で障害物を乗り越えるためのもので、この状態での最高速度は170km／hに制限される。もちろんサスペンションの各コンポーネンツが強化されているのは言うまでもない。
こうしたオフロード対策にもかかわらずダカールの空車重量は1605kgとベースの911カレラ4GTSよりわずか10kgの重量増に過ぎない。それはカーボン製パーツの他、リアシートが外され、軽量バッテリーや軽量ガラスなどの採用、そして防音材の省略などが貢献している。
オフロードモードでのグラベルの走りに驚かされた
後方にサハラ砂漠が控えるモロッコのエラキディアで開催された試乗会に現れたダカールは、この背景に溶け込んでいた。この付近のターマック路、そして砂漠は実際にダカールラリー参加者がトレーニングを行う場所だが、ここで911ダカールは予想を上回る驚きの走りを見せてくれた。
ドライブモードにリア重視の4WD「ラリー」や車高が自動的に上昇する「オフロード」を用意する。
新たに用意された2種類のドライブモード「オフロード」では低ミューのグラベルでも確かなトラクションを発揮、一方「ラリー」では100km／hを超える速度でもコントロールを失わず、もともとRRの911ゆえにコントローラブルなドリフトを可能にする。
砂漠では、タイヤの空気圧を1.2バールまで下げて再スタート、ここからはまさにダカールモードに入る。そして前方に壁のように迫る砂丘に挑戦、ディスプレイの指示にしたがって一定にトラクションをかけ、砂の抵抗を上手くかわしながら頂上に達した。そして帰路のアスファルト路ではスタンダード911とほとんど変わらないスポーティなハンドリングと高速安定性を示してくれた。
さて結論だ。911ダカールはこれまで巷に現れたスペーサーによって車高を上げたクルマとは次元の異なる本格的なスポーツオフローダーだった。しかしこれですぐにラリーに参加できるわけでもないが・・・。もちろん日常ドライブでもスタンダード911とほぼ同等の走りを楽しめるし、わずか2500台限定販売は間違いなくGT3を超える投資対象になることも購入意欲を掻き立てる。（文：トーマス・ガオガー＜キムラオフィス＞、木村好宏／写真：ポルシェAG）
ポルシェ 911ダカール主要諸元
●全長×全幅×全高：4530×1864（ミラー含む2033）×1338mm
●ホイールベース：2450mm
●空車重量(DIN)：1605kg
●エンジン：対6DOHCツインターボ
●総排気量：2981cc
●最高出力：353kW（480ps）／6500rpm
●最大トルク：570Nm／2300－5000rpm
●トランスミッション：8速DCT（PDK）
●駆動方式：4WD
●燃料・タンク容量：プレミアム・67L
●WLTPモード燃費：8.9km／L
●タイヤサイズ：前245／45R19、後295／40R20
