新しい技術の投入に若手のエンジニアが活躍
また、もともとぜひやりたかったというアイサイトによるフラッグ検出を今回のレースでいよいよ実戦投入した。市販車に搭載されているシステムをサーキット向けにチューニングし、メーターに表示するようにしたもので、これによりドライバーの心理的負荷を軽減し、見落としをなくすことを目標としている。
一般道に比べて圧倒的に複雑で速度差のあるサーキットでアイサイトや車両安全機能を鍛えていき、2030年の死亡交通事故ゼロを目指すスバルとして、ぜひそこで得た知見を活かしたいと考えているという。
アイサイトを担当する技術本部ADAS開発部の池田怜央氏はまだ入社年目の若手で、池田氏によると、「外乱の影響もあり、苦手とする面もあるのは想定の範囲内で、調整によりこの問題を解決するにはそれほど時間を要しないと考えています。認識率としては非常に高いというのが率直な感想です」という。
さらに、「アイサイトの開発には、『認識』と『制御』という大きく分けて2チームがあり、会社の業務では認識を担当していますが、S耐の場では認識と制御の両方を自分が主体でやらないといけません。その際、専門外のことも担当者に教えてもらいながら進めると自分の知識になり、いまではアイサイトの枠を超えた広い視野でクルマを見ることができています。
また、自分のやりたいことをどう提案し伝えたら協力してもらえるか、相手にとってどういうシステムが最良なのかといったことも考えられるようになりました。また、お客さま目線に立って、自分の業務がどう役に立つか、仕事に対する考え方をこの耐参戦から学びました。これを普段の業務にも活かしていきたいと思っています」と続けた。
AIを活用した車両データの監視にもトライしている。S耐では無線によるデータ通信のテレメトリーシステムの使用が禁止されている。
これまではピットインした車両からUSBで走行データを収集して、人の手でエクセルでデータを解析、可視化していると数時間かかりレース現場では間に合わなかったところを、機械によって瞬間的にグラフ化するソフトを作成。さらにそのグラフをAIに読ませて画像解析して、異常を自動的に検知するという機能を実戦投入した。
本井監督も「素晴らしいものを作ってくれた」と喜んでいた。開発した技術本部CAE部の浅野貴文氏は、「ゆくゆくは不具合の予兆検知や連続走行中のデータ解析を実現し、さらに、お客様のクルマの不具合を我々がいち早く発見できるところまで行きたい」と意気込んでいた。
決勝レースでは無事に24時間を走り切りゴール。カーナンバー61のスバルBRZはST-Qクラス3位という結果を得た。監督、エンジニア、ドライバーと参加したすべてのスタッフにとって、他では得難い価値ある体験となったに違いない。(文:岡本幸一郎/写真:井上雅行)
コラム1:スーパー耐久ST-Qクラスとは
どのクラスにも該当しないメーカー開発車両などが参戦できるようにと2021年に新設。スバルはバイオマス由来の成分を合成したCNF(カーボンニュートラル燃料)を使用するBRZで参戦。他に同じくCNFを使うGR86やシビックタイプR、フェアレディZのほか、液体水素エンジンのGRカローラ、バイオディーゼル燃料のマツダ2など国内主要5メーカーの車両が参戦中。
コラム2:ワイガヤクラブ正式に発足
スーパー耐久の理念に共感し、ST-Qクラスに参戦するトヨタ、マツダ、スバル、ニッサン/ニスモ、ホンダの5メーカーが集結し、2022年に「S耐ワイガヤクラブ」を発足。そして、2023年5月23日に「S耐ワイガヤクラブ」のホームページ(https://supertaikyu.com/waigaya/を公開した。
<共挑>というスローガンを掲げ、「未来」を生み出すために立ち上がった「仲間」が、レースの現場だからこそできる「スーツとネクタイを脱ぎ去った自由な意見交換」と「スピードある開発」の場として設けられたもので、今後レースで得た知見の市販車へのフィードバックや、若手エンジニアの育成、カーボンニュートラル燃料や水素エンジンの実証実験などに、メーカーの垣根を越えて挑戦していくとしている。メンバーが気兼ねなく本音でワイワイガヤガヤと話せる場となっている。