ホンダの事業は、二輪、四輪に加え、パワープロダクツや航空機&航空機エンジンの開発と多岐にわたる。そのすべてが「2050年にHondaの関わるすべての製品と企業活動を通じてカーボンニュートラルを目指す」という目標に向けて進んでいる。今回はそのひとつ、小型船舶向け電動推進機プロトタイプの実証実験を取材した。(Motor Magazine2023年10月号より)

「水上を走るもの、水を汚すべからず」を実現

ホンダには、創業者の本田宗一郎氏のフィロソフィーが今も受け継がれている。そのひとつが「水上を走るもの、水を汚すべからず」である。1964年に発売された船外機もこの想いが入っている。

当時、2ストロークエンジンが主流の船外機だったが、宗一郎氏の「水を汚さない」という強い想いからホンダの船外機1号「GB30」は、4ストロークエンジンを採用した。重量やコスト面では2ストロークに比べて不利である。しかしそれでも、水の環境を汚さないことを最優先したのである。

そんなホンダの船外機は今、小型船舶向け電動推進機という新しいステージに進んでいる。これは交換可能な脱着可能バッテリー「モバイルパワーパックe(MPPe)」を採用した出力4kWの電動パワーユニットで、2050年に「ホンダが関わるすべての製品と企業活動を通じてカーボンニュートラルを目指す」という目標の実現に向けたひとつだ。

画像: 手前からバッテリーボックスとHonda MPPeと4kW電動推進機プロトタイプ。奥はホンダ初の船外機GB30。

手前からバッテリーボックスとHonda MPPeと4kW電動推進機プロトタイプ。奥はホンダ初の船外機GB30。

ホンダと松江市の脱炭素へ向けた思いが合致した

今回、この小型船舶用電動推進機の実証実験に協力を表明したのは、公益財団法人松江市観光振興公社が運営する堀川遊覧船である。これは、国宝松江城のお堀を運行する観光船で、これにホンダの電動推進機プロトタイプを使い実証実験を開始したのである。

これは、二輪、四輪に加え、水上モビリティもカーボンニュートラルに向けて積極的にチャレンジしているホンダと脱炭素先行地域である松江市の環境への思いが合致したことにより実現した。

実際にその遊覧船を体験した。エンジン船外機「BF9・9(7.4kW )」と電動推進機プロトタイプの比較も行ったが、明らかに後者の方が静かで振動も少ない。

実際に操船する船頭さんに話しを聞いているときも、エンジン船外機では聞き返されたり、逆に聞き返さなければならなかったが、電動推進機ではそのようなことはなく、乗船した人たちの会話も弾む静粛性を確保していた。

他にもメリットは多い。そのひとつが最小回転半径で、エンジン船外機の1.8mに対して電動推進機は1.1mとなり、狭い場所で転回することが容易になったという。また振動が少ないことも疲労の軽減に繋がっているようだ。エンジン船外機に比べ、船体振動は%ほど減っているという。

これほどメリットが多いなら今すぐすべての遊覧船を電動推進機に・・・と思うのだが、そこはさすがにホンダは慎重な姿勢を崩さない。

「初めての試みなので、これからあらゆるデータを収集し、どのようなことにも対応できるようにしていきたい」という。(文:Motor Magazine編集部 千葉知充/写真:Honda)

画像: 電動推進機のメリットは1.1mという最小回転半径にも現れる。ちなみにエンジン船外機の場合は1.8mである。

電動推進機のメリットは1.1mという最小回転半径にも現れる。ちなみにエンジン船外機の場合は1.8mである。

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