ライバルをも上回る加速力。ネットゥーノエンジンはやはりいい
トロフェオに搭載されるエンジンは、気筒内にF1テクノロジー由来のプレチャンバーを備えた3L V6ツインターボのネットゥーノとなる。ご存知のとおり、MC20の発売と共にデビューしたそれは、今後のマセラティにおける内燃機パワートレーンの側の象徴を担うべく、彼らがゼロスタートで開発したものだ。
そのアウトプットは530ps/620Nm。生粋のスーパースポーツとなるMC20に比べると、クルマの性格や用途的にもパワーを落として扱いやすさを高める方向でチューニングされているが、それでもピークパワーはポルシェマカンターボやBMW X3 Mをも上回り、クラス最強のスペックを実現している。
ちなみに0→100km/h加速は3.8秒、最高速は285km/hに達するというから、その速さは頂点的なグレードに相応しいものといえるだろう。
プレチャンバーによる高速燃焼で熱効率を高めることを可能としたネットゥーノの回転フィールは、MC20に搭載されているそれと比べると爆発の粒感がきめ細かく、低中回転域の微振動も綺麗に取り払われていた。
車体構造やマウント類の差も相当なものとはいえ、高級車としても通じるような滑らかな回転質感を見るにつけ、このエンジンの異なる可能性を知らしめられた気がする。
出力特性は気持ち高回転型で、実効的なトルクが得られるのは1500rpmから上という印象だ。そこから6500rpmのレッドゾーンを超えんがばかりの勢いでパワーを乗せていく、その快活さはMC20の血筋を感じさせる。
サウンドは3気筒や5気筒のように中音が強めに響く印象があるが、高回転域でのプォーンと響く快音はライバルにもないトロフェオならではの個性だろう。
ハンドリングはまるで4WDのネガを感じさせない一方で、制御的に曲げてもらってる印象もない。至って自然にストレスなくノーズの向きを変えてくれる素直さが印象的だ。持てるパワーを鑑みればリアグリップを失いそうな状況にそうやすやすと陥らない、その接地感も見事なら、路面のオウトツをスタスタと軽やかにいなす接地感の按配の絶妙さもお見事だ。
ボディコントロールデバイスのVDCMは黒子に徹して、普段乗りでは抱えるパワーを思わせないほどカドの取れた丸い乗り心地を供しながら、いざ求められた時には即座にアシストの手を差し伸べる。
運動性能にもまた、マセラティらしいエレガンスが貫かれているのがトロフェオの凄みといえるだろう。(文:渡辺敏史/写真:井上雅行)
マセラティ グレカーレ トロフェオ主要諸元
●全長×全幅×全高:4860×1980×1660mm
●ホイールベース:2900mm
●車両重量:2030kg
●エンジン:V6DOHCツインターボ
●総排気量:2992cc
●最高出力:390kW(530ps)/6500rpm
●最大トルク:620Nm/3000-5000rpm
●トランスミッション:8速AT
●駆動方式:4WD
●燃料・タンク容量:プレミアム・64L
●WLTCモード燃費:11.2km/L
●タイヤサイズ:前255/40R21、後2950/35R21
●車両価格(税込):1604万円