機能装備も走行性能も、しっかり作りこまれたプロトタイプ
ジャパンモビリティショー2023では、バッテリーEVを中心に次世代モビリティを牽引する、さまざまなコンセプトモデルが出品されている。自動車メーカーだけでなく、部品メーカーなどからも多彩な個性を持った「オリジナルモデル」たちが提案されていた。
中でも注目を浴びていたのが、THK株式会社のEVプロトタイプ「LSR-05」だ。グローバルで活躍する機械要素部品メーカーTHKが、初めて丸ごと開発を手掛けた1台・・・その第一印象には、単なるコンセプトカーとは違った「リアリティ」が感じられた。
「クロスオーバー4シータークーペ」を謳うそのフォルムは、ダイナミックさとエレガンスの融合をテーマとする。艶やかでありながらソリッドさも兼ね備えた、独特のラグジュアリー感が漂う。
観音開き式のパワードアが開くと、広々とした空間にクリーンな印象のキャビンが広がる。こちらのテーマは「モダン&コンフォート」で、シンプルな中にも機能性に富んだ新しいユーザーエクスペリエンスを提供する。
しかもこのLSR-05、ただ美しいデザインを誇るだけではない。走行することも可能な、基本的なハードウェアはすべてそろっているのだ。
実はこのショー出展車とは別に「LSR-04」というもう1台のプロトタイプモデルが存在しており、日本自動車研究所のテストコースにおいて実走テストが進められている。LSR-05も最新の「プロトタイプ」として、これからのBEVに求められる技術についての考え方を提案するとともに、ショーの後にも商品価値の向上につながるさまざまな検証・実証を行うという。今後、さらにもう1台、テスト用のプロトが製作される可能性もあるという。
名前の由来は世界初の「直線運動案内」・・・って何?
LSR-05は、フロントに配した最高出力220kWの電気モーターが前輪を駆動、後輪はそれぞれに93kW(800V仕様)のインホイールモーターを搭載する3モーターレイアウトを採用する。
4輪のトルクを電子的に最適制御するインテリジェントな4WDシステムと4WDS機構の採用によって、さまざまなシーンでアクティブな走りを楽しむことができるという。
特筆すべきは、足まわりに関する傑出した制御技術の数々だろう。アクティブサスペンション、可変ダンピングシステムなど、快適性と運動性能を両立するための最新技術が惜しみなく盛り込まれている。
一つひとつを採り上げていくと本が一冊できてしまいそうなほど多種多彩な技術提案の数々は、THKがこれまでに培ってきた技術群の集大成に他ならない。たとえば1972年に世界で初めて開発した「直線運動案内」(ベアリングの回転運動に対して、直線運動をする転がり軸受)である初代LMガイド(リニアモーションガイド:製品名「LSR」は、車名の由来となっている)は、そのひとつ。
他にも「高剛性ボールねじスプライン」といった、機械要素部品に関するTHKの最新テクノロジー群をまとめあげて、理想の次世代BEVとして仕立てられた。
中身がリアルだからこそ、デザインにもいわゆる「ショーカー」とは一線を画した本物感が与えられているという。そういう意味でも、「市販化に向けた第一歩」という第一印象は、けっして間違っていなかった。