市販を前提としたデザインに、こだわりあり
「本物の技術革新」とともに、このLSR-05にリアルな存在感を与えているのが、きわめて完成度が高い内外装のデザインだ。担当したのは「株式会社SNDP(SN DESIGN PLATROM)」。いすゞ自動車や日産自動車で数多くの人気車を手掛けてきたデザイナー 中村史郎氏が2020年立ち上げたデザイン会社だ。
中村氏は、約1年半前からこのコンセプトカーのプロジェクトに加わってきた。興味深いのは中村氏もまた、このクルマを単なるショーモデルではなく、市販を前提とした要件にこだわりながらデザインしてきた、というところだろう。
たとえば全長はほぼ5m、ホイールベースが3.2mに達する大型ラグジュアリーカーというジャンルを選んだのは、THKの優れた技術をリアルに採用するための必然だった。高出力なインホイールモーター、4輪ステア機構、アクティブサスペンションなどは「小さいクルマではメリットが伝わらない」と考えたからだ。
またフロントボンネットの高さは、しっかりとしたストロークを確保できるサスペンションの装着を前提とした。ホイールアーチ内の熱を逃がすためのスリットを配するなど、機能性も考慮したデザインが与えられている。
インテリアデザインについても、新たな素材や見せ方を採り入れながら、見るからに心地よい先進性を演出している。近年、湾曲したワイドディスプレイはトレンドになりつつあるが、それすらもデザイン性に洗練された味を持たせることで、上質感を高めることに成功している。
ボディカラーからデジタルメーターの表示といった細部に至るまでSNDPがオリジナルとしてデザインする一方で、中村氏のデザイナー魂を刺激したのが、ほかならぬ「LMガイド」だった。
クルマづくりの原点に立ち返り、革新へとつなげる
LSR-05では、直線方向の移動運動をベアリングによってスムーズかつ高精度に行うことを可能にしたLMガイドをシート座面部と台座部に配置。専用のアクチュエーターで動かすシステムによって、前後方向にシームレスにスライドさせることができる。
コンパクト化されたユニットのおかげでシートレールが姿を消し、すっきりとフラットな床面とクリーンなゆとりを感じさせる足元を実現している。滑らにストロークする動きもまた、LSR-05のラグジュアリーなイメージに良く似合う。
「ステルスシートスライドシステム(SLES)」と名付けられたこの技術を、中村氏は絶賛する。自動車デザイナーにとって「夢」だった、「シートレールのない空間」を実現することができるからだ。優れた技術の価値がデザインの理想に寄り添う。これもまた、LSR-05の魅力と言えるかもしれない。
クルマとしての市販可能性には、もちろん期待している。同時に、モデルベース開発としての基礎的なデータを収集する取り組み(MBD)についても、今後の展開が気になる。開発を統括した西出氏によれば、どんなスペックを求められても対応できるパラメーターの構築もまた、LSR-05開発に当たっての大きなテーマとなっているそうだ。
MBDを背景に将来的には、EVによるスタートアップを考えている企業とのコラボレーションも視野に入れているという。もしかすると数年後のJMSでは、THKの技術を満載した「元気なクルマ」たちが、あちらこちらのブースで見かけられるかもしれない。
中村氏は「クルマ作りにおいて市場調査などはもちろん重要です。けれどそれではどうしてもコンセプトが寄ってしまう。LSR-05は、私も寺町社長も、乗りたい!と思うクルマを目指して作りました。結局、これがクルマづくりの原点だと思うんです」と語っていた。
LSR-05を見ていると自動車メーカー主導のそれとは別の意味で、EVを巡る新ビジネスの潮流は。日本の自動車業界そのものを盛り上げていく可能性を秘めているように思えてくる。次世代モビリティの革新がもたらす恩恵のひとつ、になるかもしれないこの稀有なEVプロトタイプを、ジャパンモビリティショー会場(東展示棟7ホール)でぜひチェックして欲しい。(写真:井上雅行)