自社開発にこだわりながら、スキルアップを図る
開発を統括した産業機器統括本部 技術開発統括部 技術開発第二部の部長 西出哲弘氏によれば、この部署は、LSR系プロトタイプの開発・研究に携わるために立ち上げられたという。
27名が所属しているとのことだが、そのうちの3分の1ほどは、このクルマを作るために集められたキャリア雇用によるもの。部品製造のスペシャリストとしてはやや不得手な領域のノウハウを補うために、優秀な経験者が不可欠なのだそうだ。
そんな取り組みからもこのLSR-05は、単なる技術PR用モデルではなく、自社技術を駆使して作られた本気の1台であることが伝わってくる。なにしろ、構成部品のほとんどはこだわりの自社開発だ。なにより自分たちのノウハウを蓄積し、スキルアップを図るために取り組んでいる。将来的には、すべての構成部品を自社製にしたい、と考えている。
もちろん1台のクルマを作り上げる作業は、一筋縄ではいかない。だからこそ、たとえばデザイナーとのやりとりひとつとっても、貴重な体験を積み重ねることができたという。
さらには「単なるデモンストレーション用ではなく、そこで使われている技術の一つひとつを、しっかり熟成させることを考えています」と西出氏。今回発表されたプロトタイプですら、一見して市販目前!と言ってもいいほどの仕上がりだが、アクチュエーター群や走行部品の完成度、信頼性向上に今後も取り組んでいくという。
自由なアイデアを生かすために「大きさ」にこだわった
LSR-05開発の根底に流れているのは、「世にない新しいものを提案し、世に新しい風を吹き込み、豊かな社会作りに貢献する」というTHKの経営理念だ。
代表取締役社長である寺町彰博氏はこのプロトタイプを通じて「安全・安心・高品質といった常識的な要素に最初から当てはめようとするのではなく、好きなように自由なアイデアを出しながら取り組んでもらいたい」と考えたそうだ。
そこには、グローバルでものづくりに関わった経験値が生きている。海外では、「まずはやってみよう」「使ってみよう」という取り組みが大切にされている、と寺町氏は語る。本当に価値ある革新につながるのは、そうした失敗を恐れない姿勢だ、と。
車両開発を企画した当初は、より手ごろに作れそうなコンパクトモデルにしたらどうか、という意見もあったそうだが、寺町氏は大きなクルマにこだわった。小さいクルマはコストや技術要件なの面で、どうしても量産前提で考えることになる。つまり新しいアイデアをなかなか生かすことができない、と考えたからだった。
LSR-05の開発途上でも、実は難しい判断を迫られるシーンがいくつもあったそうだ。
たとえばアクティブサスペンションシステムに関しては当初、より高度な制御が可能な機構の採用も検討したそう。だが以前、そうした新しいシステムを提案したところ「あまりにも乗り心地が良すぎて、ドライバーとクルマとの対話が希薄になってしまった」のだとか。
そのため今回採用されたシステムは、ステアフィールを通じて人がクルマと対話することができる感性を大切する方向で選ばれたという。もっとも「乗り心地が良すぎた」仕様は、将来的にレベル5クラスでの自動運転車に採用するなら、ベストな選択肢のひとつとして期待してもいいように思える。ちょっと乗ってみたいような気もする。