色香匂い立つ艶やかなセダンのジュリア
最初に登場したのは、2015年に発表されたジュリアだった。
2012年に生産が終了した159以来のセダン、特殊なモデルを除けば1993年まで作られたスパイダーシリーズ4以来の後輪駆動。その後輪を柱に4つのタイヤの位置決めを念入りに行ったかのようなバランスを見せる新型ジュリアのプロポーションは、当時のセダンのトレンドに近いと言えば近いシルエットを見せていたこともあって、「BMWの3シリーズみたいだ」とか「レガシィB4にも似てる」というような声も上がったりはした。
が、それはとんだ的外れ。たしかにボンヤリとシルエットだけを見ていれば流行りのフォルムを持った1台に思えたかもしれない。けれどジュリアの造形はセダンとしての塊感の中に伸ばすべき線は綺麗に伸ばし、丸めるべき面は滑らかに丸め、膨らませるところは絶妙に膨らませ、抉り込むところは大胆に抉り、という彫刻的な要素がたっぷりと込められている。
ライバルたちと較べればはっきりと色香が匂い立っていて、扇情的な印象だった。
セダンにはフォーマルな要素も求められたりはするが、ここまで艶やかだとギリギリなんじゃないか? なんて思わされたものだった。
2023年6月に日本仕様にもマイナーチェンジが施され、ジュリアもトナーレからスタートした3+3ヘッドランプを持つフロントまわりへと変更された。おかげで彫りの深いキリッとした顔立ちとなった。
旧型のシンプルな顔立ちの方が好きという人とすでに意見が分かれているところもあるけれど、眼力の強さがジュリアの彫刻的なボディの面構成を引き立ててるところもあり、そのあたりの加減は巧みだなと思わされる。
ジュリアのテイストをそのままSUVに落とし込んだのが、2016年にデビューしたステルヴィオだ。
ジュリアより大柄で車体の表面積も広い分、ほんの少しだけ彫刻っぽさは薄らいでいるが、それでも充分に立体的だし、リアセクションをクーペ風に、ショルダーラインに絶妙な抑揚を持たせたりすることで、見る者が視線をなかなか外しにくいルックスを構築している。SUVにしてはたっぷりとセンシュアルな姿だと思う。
かつての名車のディテールを再解釈して登場したトナーレ
同じSUVにして妹にあたるトナーレのデザインは、ステルヴィオと較べると小柄だし若さが漂っている感があってセンシュアリティという面では一歩譲るが、デザインの面ではとても興味深い。
初代ジュリア クーペ、ES30のSZ、8Cコンペティツィオーネ、スプリント スペチアーレ、ディスコヴォランテ、8C2900、164、ブレラ、GTV……。名前を並べ始めたらキリがないくらい、かつてのアルファロメオの名車たちのディテールを再解釈して、1台のSUVに同居させているのだ。それもまったく矛盾もなく、綺麗にまとまったカタチで。
トナーレはアルファ初の電動化モデルということで、デザイナー陣は新しい時代を迎えるにあたり、自分たちのブランドが持つ歴史の豊かさをクルマに盛り込もうと考えた様子。それが綺麗に成し遂げられていると思う。
アルファを知る人にはヘリテージ探しにニンマリできて、知らない人でもすんなり心惹きつけられる華やかさと細部まで行き届いた造形美。思わず“上手いなぁ”と唸らされる。
この3台のエクステリアデザインを取りまとめたのは、アルファロメオ チェントロスティーレのアレッサンドロ・マッコリーニ氏。他のメーカーから引きが来ても動かず、アルファロメオ一筋でデザインをしてきた彼だからこそ、アルファロメオならではの蠱惑的なスタイリングができたのだろう。
3台のインテリアは、それぞれ見せ方は少しずつ異なるものの、考え方は同じ。基本的には水平基のダッシュボードのセンターにコンソールをTの字型にジョイントさせて、ドライバーが積極的に操作したいものだったり頻繁な操作が必要になったりするスイッチ/ダイヤル類を、操縦する者と近いところに配置するレイアウトだ。
メーターパネルが昔のジュリアGTのような2眼風のナセルで包まれ、タッチパネルのモニターと綺麗に横並びになっているのも3車共通だ。
そして見逃してはならないのは、世界中の2ペダル式車両の中でも1、2を争うほど触感がよくクリック感も快いアルミ削り出しのパドルが、ステルヴィオとトナーレの「TI」グレードを除く全車に標準で備わっていることだ。積極的に指で弾きながら走りたくなるこのパドルは、あるのとないのとでは気持ちの持ちようが大きく変わってくる。
マニュアルトランスミッションを好むドライバーはシフトフィールについて語ることが多いが、アルファのアルミ製パドルも語りたくなるほどのレベルにある。走ることに「快」を求める人の気持ちにきっちり寄りそっているあたり、アルファロメオ以外の何者でもないと思う。